第3話 中級者ダンジョンにチャレンジ
***アメリアばあさんと孫娘***
翌日は、休みとなった。ダンジョンで、時々見つけて狩っておいた”うさぎもどき”の魔獣肉を持ってアメリアばあさんのところに行く事にした。アメリアばあさんちは町はずれにある湖の畔にある古びた大きな農家だった。家の周りには、畑が広がり、他の農家も点在していた。
「ばあさん、マテオだ。約束どうり来たぜ。これおみやげだ」
「やあ、よく来たね。うさぎもどきの肉とは助かるね。夕飯の時にだすからね」
家には、かわいい孫娘がいて、ちょこっと頭を下げた。娘はエミリアといい、今年15歳になるそうで、家事をやったり、農業を手伝ったりしている。両親は冒険者をやっていたそうだが、3年前の流行り病で相次いで亡くなったそうだ。それ以来、ばあさんと2人きりで暮らしている。うさぎもどきは、ダンジョンで獲ってきたというと、冒険者かと、娘に聞かれた。両親が冒険者だったので、興味があるようだ。ダンジョンでゴブリンやオーガを狩った時の話をすると目を輝かせて聞いていた。かわいい女の子と話すという機会は滅多にないので、楽しいひと時だ。夕食は、この近在の郷土料理のきのこ鍋をごちそうになった。きのこ、ネギ、鶏肉と持ってきた”うさぎもどき”を、煮込んだものだ。鍋は、なかなか絶品で、うさぎもどきも、柔らかく煮込んであって美味しかった。
「うさぎもどきは、滅多に手に入らないんで食べた事なかったんだけど、こんなに美味しいんだね」
嬉しそうに、娘が話すのを聞いて、お土産に持ってきて良かったと思った。楽しい時間は、あっという間にすぎ、日がくれる前に、おいとました。それからも、ばあさんと孫娘のエミリアには、いつも歓迎されるので、うさぎもどきを持って時々訪ねている。
***中級者ダンジョン「黄昏のほこら」***
楽しい休日も終わり今日から新しいダンジョンだ。
「お前の訓練が終わったので、いよいよ本格的な仕事だ。最近は、ダンジョン”黄昏のほこら”を中心に活動している。ギルドから”牛の悪魔ミノタウロス”の肉の受注をしているので狩りまくるぞ。」
街の経済はダンジョンを中心に回っている。魔物の肉・皮・魔石、宝箱から出る宝石・武器・防具などの取引が活発に行われ、近隣の商人からも買い付けに来る。又、冒険者が集まって来るので、武器・防具の購入や修理で鍛冶屋が潤い、宿屋も繁盛する。宝箱から偶に、高額な品が出る事があるので、オークションも盛んだ。オークションには、好事家の貴族が参加する事も多い。俺たちもギルドを通して、経済の仕組みに巻き込まれているわけだ。俺の田舎のレイクロードなんかは、近所で野菜、果物、鶏肉などを融通しあっているので、金なんかめったに使わない。行商人が農作物を買い付けに来る時に使用するぐらいだ。
黄昏のほこらは、牛の悪魔ミノタウロスを中心に牛型の魔獣で構成されている。ダンジョンの深部に行くと、上位種の牛の軍団長ミノタウロスロードがいる。ボス部屋にもっと恐ろしいやつがいるらしい。まずは、第1層では、牛の悪魔が単独ででてきた。いつものとおりクロエが、牛の頭に火球をぶっぱなした。牛の悪魔は、動きが速く、火球が当たらない。クロエもそれは、お見通しで、3発連続で位置をずらして、火球を発動した。その中の1発が角にあたり、脳震盪を起こしてうずくまった所を、ローガンが剣で首に切り込んで行った。俺も後ろから行って、ローガンの横から剣でなぐった。牛の悪魔の皮はそれ程硬くなく、3発もなぐると、絶命した。牛の悪魔は、肉、魔石、皮ともに、売れるので、まるごとアイテムボックスに入れた。1層では、10匹程狩って、ダンジョンにある避難所で休憩した。
「牛の悪魔は、あんがい柔らかくて、楽勝ですね」
「そう簡単にはいかないんだ。3匹以上出てくると、スピード速いから、クロエの火球が間に合わない時がある。そうなると、すごい勢いで突っ込んできて、どってぱらに穴を開けられるんだ。盾でしっかり受け止めて、相手を動かないようにして、火球を打ち込むか、剣で叩く。盾役の真価を問われるっていうわけだ。」
牛の悪魔が突っ込んで来たら、俺なんか逃げ回りそうだ。盾役のローガンの度胸は大したもんだ。休憩が終わって、ダンジョン1層が他の冒険者で混んできたので、第2層に移動した。2層では、2匹がいっしょに出てくる事はあったが、クロエの火球で確実に仕留めていくので、危うい事はなかった。25匹を仕留めたところで、終了となった。俺のレベルは、25になっていた。ギルドでは、牛の悪魔の皮、肉、魔石を買ってくれるので、1匹あたり20ゴールドになった。25匹で500ゴールドだ。ゴードンは俺に150ゴールドくれた。ゴードンも25匹まるごとアイテムボックスに入れて持って帰れたので、大満足だ。
「お前を、パーティーに入れたのは、大正解だ。これからも、よろしくな。」
「アイテムボックス様様ね。こんなに便利だと思わなかったわ。ぼうやのおかけだわ」
俺も、ちょっと鼻が高い。冒険者で、やっていけるか不安に思っていたので、役に立つと判って一安心だ。
それから、2日ダンジョンにもぐって1日休むの繰り返しをやった。ローガンは決して無理をせず2,3層を中心の狩場とした。ケガをしないことを1番にしたのだ。それでも、アイテムボックス持ちの俺たちのパーティーは、資金的に余裕がある。何事もなく1年が過ぎた。俺は、レベル40になり、”中級剣術の加護”を得られて、ギルドランクもDに昇格した。週一ぐらいで、アメリアばあさんと、孫娘のエミリアにも会いに行き、畑仕事を手伝ったりもした。
「とうさんが、亡くなったので、1か月休んで田舎に帰ってくる。」
クロエが、突然、皆と夕食を食べているときに言った。昨日手紙が届いたようだ。クロエの田舎は、サブレシティから歩いて1週間はかかるところだ。馬車に乗っても3日はかかるので、このさいゆっくりしてくるつもりのようだ。
「それだったら、俺も帝都にいる友達に会いに行って、のんびりしてくるよ。」
ゴードンも暫くいなくなるというので、”鷹の目”パーティーは臨時休業だ。