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妖怪 王  作者: 真桑瓜
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金 玉藻の最期

最終決戦に臨む凛は、その力の差に窮地に追い込まれる。

だが、その時聞こえて来た声は・・・


玉藻が右手をあげた時、一瞬気が遠くなった。

眠気を払うように頭を左右に振る。

「なに、今の?」

気がつくと仲間がみんな消えていた。目の前で玉藻が薙刀を持って笑っている。

「玉藻・・・」

「やっと二人きりになれたわね」

「みんなはどこに行ったの!」

「さあ、今頃はどこかでのたれ死んでるかも知れないわ」

「騙されないわよ、そんなことある訳が無い!」

「ふふふ、そんなことより、今は自分の心配をしたら?」

「なんですって!」

「長年の宿願を果たす時が来たわ、あの時はよくも私の愛しい人を殺してくれたわね」

「私が殺したんじゃない、あの人の寿命だったのよ」

「私が『延命の術』を使えば死なずに済んだのに、あなたはそれを許さなかった、あなたが殺したも同然」

「延命の術は禁忌の術、使えばあなたも無事では済まなかった」

「それでも!・・・私はあの人を生かしてあげたかった」

「仕方ないじゃない、寿命はその人の宿命、私たちの関わって良いことじゃないわ」

「どうやら私とあなたが分かり合える事は永遠に無いみたいね」

「そのようね・・・残念だけど」

「いいわ、今からあなたを八つ裂きにしてあげる。あの時は私の妖術も未熟だったけど、今なら妖術なしでもあなたを切り刻む事はできる。ゆっくりと楽しみながら・・・ね」

「何言ってるの、勝つのは私よ!」

「だったら試してみたら?」

「言われなくてもそのつもりよ!」

凛は大鎌を振り上げて真っ向から斬り込んでいった。

玉藻は易々と凛の攻撃を躱すと、薙刀を一閃させた。

()っ!」

凛の頬から一筋の血が流れる。

「まずは小手調べ」玉藻が笑った。

凛は大鎌を一度頭上で大きく回転させて遠心力をつけると、その勢いのまま玉藻に叩きつける。

ひょいと頭を下げて凛の大鎌をやり過ごした玉藻は、軽く凛の脛を払う。

凛の左足からも血が流れた。

「くっ!」

凛は大きく踏み込んで地面スレスレに大鎌を走らせた。

鎌の刃が玉藻の足を刈り取るかに見えた時、飛ぶ気配も見せず玉藻が宙に舞う。

目標を失ってタタラを踏んだ凛の背中を撫でるように、薙刀が振り下ろされた。

凛の背は、右肩から左の腰にかけて斬り裂かれた。

凛は声をあげそうになったのを唇を噛んで必死に堪えた。そうしなければ力が抜けてその場に崩れ落ちたかもしれない。

「よく耐えたわね、そうでなくっちゃ楽しめないわ」玉藻の声が聞こえた。

背中の痛みは耐え難いが、今はそんなことに構っている暇は無い。

振り向きざま声に向かって大鎌を振った。

凛の攻撃は空を斬り、代わりに右腕に痛みが走る。

黒いセーラー服の袖が裂け赤い血が滴り落ちた。

「はぁはぁはぁ・・・」

凛は痛みと疲労で目の前が暗くなるのを感じた。

「そろそろ楽にしてあげるわ」玉藻が言った。

凛は大鎌を両手で握り締める。

『凛、力ば抜け、そげん力ば入れたら躰が動かんごとなるばい』

(えっ、熊さん?)

凛の問いかけに答えはなかった。

「余裕ね、何よそ見をしているの?」

「な、なんでもないわ・・・」

改めて凛は構え直した。その姿勢からは程よく力が抜けている。

「あら、ずいぶん大人になったわね、最後にどんな声をあげるか楽しみだわ」

「あ、あなたこそ・・・そんな余裕見せられるのは・・はぁはぁ・・・今のうちよ」

「ふふふふふ」

玉藻は薙刀の穂先を凛に向け青眼に構えた。


凛はゆっくりと右に移動しながら玉藻の隙を探す。

玉藻の構えに隙はない、なんとかあの構えを崩さなければ勝機は無い。

そう思った瞬間、薙刀の穂先がフワリと浮いて玉藻の右の腋に僅かな隙が生まれた。

凛の躰がピクリと反応する。

『ダメ!凛ちゃん、玉藻の動きに惑わされないで、あれはあなたを誘う罠よ』

(メイメイさん!)

「来ないの?せっかく隙を作ってあげたのに」

玉藻がニヤニヤ笑っている。

「そんな見え見えの罠にはひっからないわ!」

凛は冷や汗をかきながら強がりを言った。

「ならばこちらから行くわ」

玉藻が一気に間合いを詰めてきた、薙刀が風車の如く凛を襲う。

凛は必死で鎌を動かして、薙刀の攻撃を受けた。

『凛、受けを捨てるんだ、薙刀の動きを見ずに玉藻の躰だけを見ていろ!』

(師範代!)

凛は薙刀の動きを追うのをやめた、すると薙刀の動きに反して玉藻の躰がそれほど動いていないのに気付いた。

そのため薙刀を体捌きで躱す余裕が生まれた。

「なに?急に動きが良くなったわ?どうして?」

それでも、まだ反撃の糸口は掴めない。

『凛々、もっと視野を広く持て』

(王爺ちゃん!)

『玉藻を視野の中心に納めるのじゃ』

(ど、どうやって?)

『一点を見つめずに、遠くの山を眺めるようにするのじゃ』

(わかった、やってみる!)

凛は玉藻の肩越しに視線を移し、ボウっと広い背景を眺めるようにした。そうすると玉藻の動きが手に取るようにわかった。

玉藻の動きを追っている間は背景が動いて視点が定まらなかった、だが背景を固定してしまうとその中で玉藻の位置が定まるのだ。これで相手の動きに惑わされる事は無い。

玉藻に焦りの色が見えた。

「なら、これはどう!」

玉藻が残像を残して消えた。

その途端視野の左で光るものが見えた。

「そこ!」

光に向かって大鎌を叩きつける。

手応えがあった。

声にならない声を発して玉藻が飛び退る。

「なぜわかった?」

玉藻の左の袖が斬れて、剥き出しになった白い腕から血が流れている」

「これで一つ借りは返したわ」凛が言った。

玉藻の顔からは余裕の表情は消えていた。

「私が甘かったわ、それは認める」

「ようやくわかったようね」

「でもそれがあなたの命取り、覚悟することね」

玉藻は足元に風を起こして宙に舞い上がった。

それを見て凛も地上を離れる。

空中で二人は対峙した。

玉藻が右手を上げた。金の炎が玉藻を包む。

薙刀の穂先から炎が吹き出した。

玉藻が頭の上でぐるぐると薙刀を回し始めると、炎が風車のように回転して凛を襲う。

「熱っ!」

思わず高く舞い上がる。

「かかったわね!」

玉藻が凛の真下に着地した。

薙刀の回転が速くなる。

炎が竜巻のように立ち昇った。

「キャーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」

炎に包まれて凛が悲鳴をあげた。髪がチリチリと音を立て、焦げた匂いが鼻を突く。

凛が意識を失いかけた時、声が聞こえた。

『凛、頑張るんじゃ、諦めるでない!』

(平助爺ちゃん!)

その時、いきなり突風が吹いてきて、炎を吹き飛ばした。

凛も風に飛ばされて落ちて行った。地面がすごい勢いで近づいてくる。

もう駄目だと思った時、何か柔らかいものの上に落ちた。

「嬢ちゃん大丈夫か?」

「つ、釣瓶落し・・・」

凛は釣瓶落としの頭の上に乗っていた。

「どうしてここに?」

「おいは土佐の山姥のところへ行った後、金長の砦に行ったんじゃ、すると既に金長が阿波の軍勢を撃破した後じゃった。そこに『転移の道』がまだ残っていたんじゃ」

「おい釣瓶、話は後だ、もうすぐ刑部たちがくる、それまでこいつを逃すな!」

高いところから声が落ちてきた。

「あっ、金毘羅坊・・・するとさっきの風は」

「そういうことじゃ、嬢ちゃん立てるか?」

「うん、大丈夫」

凛は釣瓶落しの頭から滑り降りると、しっかりと大地の上に立った。

「いらぬ邪魔が入ったようだが、あんた達もまとめて地獄へ落としてやるよ!」

玉藻は悔しげに言い捨てた。

「玉藻観念せい、四国はお前の思い通りにはさせぬ」金毘羅坊が言った。

凛は飛び上がって金毘羅坊に並んだ。

「まだ勝負の途中なの、ここは私に任せて」

「だがお主その傷では・・・」

「こんなものなんでもない、それよりこのまま終わったら死んでも死にきれない」

「わかった、好きにするが良い、奴の火炎は俺がなんとかする」

「ありがとう、金毘羅坊」

金毘羅坊が後方に退がった。

「さあ玉藻、勝負の続きよ!」

「つくづくいけすかない娘、今度こそ息の根を止めてやる!」

玉藻は薙刀の穂先を引いて脇に構えると、足下に風を起こして突っ込んできた。

「デヤァ!!!!!!!」

気合もろとも穂先が車輪のように回転し、凛の頭上に迫った。

凛はひょいと右に転移して下から鎌を突き上げる。

玉藻が咄嗟に上体を反らすと鎌先が頬を掠めて行った。

「これで二つ目の借りは返した」

「小癪な!」

玉藻は穂先を突き出した。まるで機関車のピストンのように素早く何度も突いてくる。

その度に凛は最小の動きで薙刀を受け流した。

「これで最後よ!」

渾身の突きが玉藻の腕から放たれた時、玉藻の動きが延びた。

『今じゃ凛、正中を取って前に出よ!』

声より早く凛が動いた。

薙刀の動きと反対に、玉藻の懐に飛び込んで行く。

玉藻と凛の躰が激突した。

玉藻の顔が苦痛に歪む。

「私の勝ちね」凛が言った。

見ると大鎌の刃先が玉藻の背中から突き出ていた。

「覚えてらっしゃい、このお返しは必ず・・・」

そう言うと玉藻の躰が金の炎に包まれた。

凛は咄嗟に鎌を引き抜いて後退った。

「またいつか・・・必ず・・・・・」

最後の声を残して金色の狐火が空に舞い上がり、恨めしそうに二、三度回って、やがて消えて行った。

「やったな嬢ちゃん!」

地上から釣瓶落しの声が聞こえた。

「みんな無事か!」

転移の門から刑部が飛び込んできた。

続いて金長、山姥、山爺それにたくさんの狸達。その中にはメロスもいる。

「私は無事だけど、みんなは・・・あっ!」

地上を見下ろすと仲間が倒れているのが見えた。

メイメイ、槇草、熊さん、王、平助、みんな倒れている。

「大変!」

凛は地上に降りて仲間達に駆け寄った。

「みんなしっかりして!」

声をかぎりに叫んだが反応がない。

「どうしたらいいの・・・」

「俺たちに任せろ」刑部が言った。

「皆の者、この人たちを俺の屋敷に運べ!山姥あんた薬草に詳しかったな?」

「おう、儂の薬で治せぬものはない」

「ならば、一緒に行ってこの人たちの治療を頼む。決して死なせるではないぞ」

「わかっておる、任せておけ」

狸達が怪我人を抱えて出ていくと、刑部が凛に言った。

「さあ、あんたも行って山姥に手当してもらえ」

凛は少し寂しそうな顔をして首を横に振った。

「ううん、私はこのまま冥界に帰る、もう一度死神局に雇ってもらえるようにお願いするつもり」

「あんたの仲間はいいのか?」

「会えば決心が鈍るもの、玉藻を倒した今なら勢いでそれができる」

「そうか、なら何も言う事はない、あんたの好きにするがいいさ」

「ありがとう、恩に着るわ」

「なんの、こちらこそあんたらのお陰で助かった、砦に残った女子供達も無事救出できたんだ」

「そう、それは良かった。じゃあ、さよなら」

「ああ、達者でな」

凛はもう振り返る事なく転移の門を出て行った。



















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