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妖怪 王  作者: 真桑瓜
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地・水・火

玉藻の術により分断された妙心館の面々は、それぞれに手強い妖怪と戦うことになった・・・


地の巻


玉藻が右腕を挙げた。

その途端、槇草以外の人影が消えた。

「なな、なんだ!師匠、メイメイさん、みんなどこへ行った!」

ズズ・・・・

「なんの音だ?」

ズズズズズ・・・・

「わっ、なんだあれは!」

槇草の前で地面が盛り上がり、底なし沼から這い出るように人影が浮かび上がった。

その顔には目が一つしかなく、手の指は三本だった。

「泥田坊よ、それがあなたの息子よ」どこか上の方から、玉藻の声が聞こえた。

泥田坊は全身を露わにすると、ブツブツと呪いの言葉を吐いた。

「それは、昔息子に裏切られた翁の怨念が凝って妖怪化したもの、その恨み存分に味わうといいわ」

「玉藻、どこにいる!」

「私はどこにでもいるし、どこにもいない」

「何を訳のわからぬことを!」

「ほら、おしゃべりをしている暇はないわよ」

ウオォォォォォォ!!!!

泥田坊が唸り声を上げ、泥が団子になって飛んできた。

「わっ!」

槇草は大きく飛び退って避けたが、泥団子は次々と飛んでくる。

一面が泥の海になるのに、たいして時間はかからなかった。

「あ、足が・・・」

泥は鳥黐(とりもち)のように足裏にくっついて槇草の動きを封じた。

泥田坊が近づいてくる。

槇草は鬼切丸の鯉口を切った。

その途端、泥団子が飛んできて槇草の上半身の動きも封じた。

「ウッ、刀が抜けん!」

「どうやら終わりのようね」

また玉藻の声が聞こえた。

泥田坊が大きく右手を振り上げて、鋭く尖った爪で槇草の躰を引き裂いた。

グワッ!

たまらず槇草が大きくのけ反る。

血が胸に刻まれた三筋の傷跡から噴き出した。

「次は頭を狙いなさい!」

泥田坊が左の腕を振り上げる。

その途端、槇草が大きく足を踏み出した。

鬼切丸が鞘走り一筋の光が走った瞬間、泥田坊の首が宙を舞っていた。

「なぜ動けるの!」玉藻が叫ぶ。

「ふふふ、どうやら血が泥を溶かしてくれたようだ」

「ククッ・・・どうやら失敗のようね、また後で会いましょう」

玉藻の声が遠ざかる。

それと一緒に槇草の意識も薄れていった。


水の巻


玉藻が右手を振り上げると同時に、誰かがスイッチを切ったみたいに辺りが暗くなった。

さっきまで感じていた人の気配が今は無い。

「先生・・凛ちゃん・・・そこにいるの?いたら返事して」

すると、(だいだい)色の豆球ほどの灯りがポッと二つ灯った。

「えっ、なに?」

灯りは徐々に増えて行き、夜空の星のように煌めきだした。

気がつくと足首まで水に浸かっている。

橙色の灯りが水に反射して、辺りがボウッと明るくなった。

小人ほどの人影が無数に周りを取り囲んでいる。

「きゃっ!!!」

「驚いた?あなたは水虎に囲まれているのよ」

玉藻の声は聞こえるが、姿は見えない。

「どこにいるの、出てきなさい!」

「後でね・・・さあ水虎たち、食事の時間よ」

辺りが一斉に騒めきだした。

全身を緑色の鱗で覆われた怪物が橙色の瞳でこちらを見ている。

手足には鰭があり、鋭く伸びた爪はまるで虎の牙のようだ。

メイメイは柳葉刀を構えて腰を落とす。

一匹の水虎が目の前にきて、蛙のようにしゃがんだ。

首を少し傾けてメイメイを見る。と、突然ジャンプして飛びかかってきた。

メイメイは柳葉刀を一閃させ、水虎を斬った。

水虎はゲゲっと緑色の吐瀉物を吐いて倒れた。

それを合図のように、水虎が一斉にメイメイに踊りかかる。

メイメイは右足で軽く跳ぶと左に半回転し柳葉刀を振るった。

着地して、今度は左足でジャンプ、一回転しながら柳葉刀を一閃させる。

その度に水虎は緑色の吐瀉物を吐きながら倒れていく。

周囲に生臭い匂いが漂った。

水虎たちは蛙のように跳ねながら、飽きることなくメイメイに飛びかかってくる。

右に左に躰を躱し、時には跳ね、時には伏せて、メイメイは水虎たちを斬り続けた。

「はぁはぁはぁ・・・キリがないわね」

メイメイの服は何ヶ所か切り裂かれ、露出した白い肌からは赤い血が流れている。

「痛い!」

後ろから脹ら脛に噛みつかれて、思わず声が出た。

メイメイはその水虎を柳葉刀で薙ぎ払うと、膝をついて蹲った。

水虎が一斉に襲いかかってくる。

「えええええーーーーーーぃ!!!!!!!」

メイメイは左足を軸にぐるぐると回る。

柳葉刀は、まるでプロペラのように回転し、五匹の水虎を一瞬で斬り払った。

「はぁはぁはぁはぁ・・・・・」

メイメイの喘ぎ声だけが空間に漂う。

水虎たちはメイメイを遠巻きにして、動かなくなった。

「何をしている、早く片づけなさい!」

また、どこからともなく玉藻の声がする。

しかし、水虎はもう動かなかった。

橙色の光が、ひとつづつ消えて行く。

最後の光が消えた時、メイメイは気を失った。

「チッ、仕損じたか・・・、まぁ良い、後でまとめて殺してやる」

玉藻の声が遠ざかった。


火の巻


玉藻が右手をあげると同時に、炎に包まれて消えた。

そう思ったのは熊さんの錯覚で、よく見るといつの間にか目の前に子供が立っていた。

身長は大人の胸の高さほど。

異様なのは頭髪が炎のように揺らいでいる事。玉藻が炎に包まれたように見えたのはこのためだ。

全身が黒炭のような皮膚で覆われ、ひび割れた隙間から熾火の灼熱が燃えて見える。

(えん)童子よ、目の前の男は火を(ないがし)ろにする人間ぞ。存分に罰を与えてやるが良い!」

玉藻の声だった。

「なんば言いよっとか、いつおいが火ば蔑ろにした!」

熊さんは玉藻を探してキョロキョロと辺りを見回したが、どこにも姿は見当たらない。

「お前は庭の焚き火に水をかけて消した、火はまだ生まれたばかりだったと言うのに」

数日前、熊さんが落ち葉を掻き集めて火をつけた途端、平助に用事を頼まれて仕方なく火を消した事がある。

「あ、あいは急いどったけんしょんなかったと、道場に火がついたら目も当てられんじゃろが」

「聞いたか炎童子、こいつは自分の都合で火を消したのだ、十分罪に値するであろう?」

童子の黄色く光っていた目が、怒りで瞬時に燃え上がった。

「ば、馬鹿な、そげんこつは(だい)でもしちょるこったい!」

熊さんは必死で言い募ったが、もう返事は返ってこなかった。

そのかわり、目の前の童子が動いた。

手にはいつの間にか火のついた棍棒が握られている。

「ま、待て!」

童子が滑るように地を這って瞬時に間合いを詰めた。

熊さんは咄嗟に右に飛び、受け身をとって立ち上がる。

「よせ、話せばわかるたい、おいは子供と戦うわけにはいかん!」

熊さんの言葉が聞こえていないのか、炎童子は攻撃の手を緩めない。

さらに踏み込んで火のついた棍棒を叩きつけてくる。

熊さんは大きく飛び退って間合いを切った。

童子は一度立ち止まると、あらためて棍棒を構え直した。

童子の通った足跡には、炎の柱が立っていた。

熊さんが刀の鯉口を切ると、童子は反時計回りに移動し始めた。その度に新しい炎の柱が立ち上がる。

「いかん、こんままじゃ炎の檻に閉じ込めらるる!」

熊さんが、まだ火柱の立っていないところから出ようと走り出す。

すると童子は手のひらで火球を作り出して投げ始めた。

熊さんの頭を超えて、幾つもの火球が地に落ち火柱を上げた。

熊さんは、とうとう火柱で囲まれてしまった。

火の粉が上から滝のように降ってくる。

「うう、熱うてたまらん!」

息をするたびに熱気が肺に入ってきて、胸が焼けるようだ。

「こ、こいまでか・・・」

熊さんは覚悟を決めた。

「いや待て、剣の達人は水さえ斬るっという、ならば火も斬れん事はなかろう」

熊さんは童子に背を向けた。

「鋭っ!」

裂帛の気合いと共に鞘走った剣が炎を斬った。一瞬炎が二つに分かれて僅かな隙間ができた。

その瞬間、熊さんが地を蹴って炎の檻の外に飛び出した。

途端に火柱が吹き上がり炎は元に戻った。

「ふう、危なかったばい・・・」

炎の檻を平然とすり抜けて、炎童子が出てきた。さっきまで黄色かった目が赤く燃えている。

『オマエ、コロス』

「なぜじゃ!」

『イマ、ヒヲキッタ』

「不可抗力じゃ!」

『フカコウリョク?ワカラナイ』

「斬らねばおいが死んじょった」

『ヒハオレノカゾクオナジ、カタキ・・・ウツ』

「なら仕方んなか、可哀想じゃがお前を斬る」

『ヤッテミロ!』

炎童子が髪を振ると火の粉が立ち昇った。火の粉はやがて五つに分かれて落ちてくると、地上で凝って炎童子の姿になった。

「分身の術か!」

六体の炎童子が熊さんを取り囲んでグルグル回り始めた。もうどれが本体か区別がつかない。

「クッ、さっきと同じじゃなかか」

肺を焼く熱気に、思わず右袖で鼻を覆った。

その途端一体の炎童子が熊さんに襲いかかる。

刀の柄に手をかける暇もなく、火のついた棍棒で肩を打たれて蹲る。

手刺しの稽古着が焼けて、ブスブスと音を立てた。

「油断したばい・・・」

片膝をついたまま刀の柄に手をかける、躰の力を抜いて居合の構えを取った。

その間も炎童子たちは熊さんの周りを回り、背後から熊さんを攻め続けた。その度に熊さんの背中に火傷の傷が増えて行く。

熊さんはジッと動かず、抜刀の機会を待つ。

「どげんしたら本体の童子ば見破らるっじゃろうか・・・」

頭が高速回転で働き出す。

「そういや、一瞬じゃが童子の目の色が変わる時があった・・・あいはどげんな時じゃったか・・・?」

目を瞑って心を鎮め思い出す。

「そうじゃ!」

いきなり熊さんが動いた。回転しながら背後に迫った気配を横に薙ぐ。

一体の童子が半分に分かれ、すぐにまた一つになった。

熊さんは素早く他の童子を見回した。

その中に一体だけ目の色が赤く変わった童子がいた。

「そこじゃ!」

立ち上がりざま地を蹴ってその童子に駆け寄った。

斬!

「グギャー!!!」

童子は断末魔の声を上げた。

「許せ、おいはここで死ぬわけにはいかんとじゃ・・・」

幻影の童子は霧散し、本体の童子も大量の火を噴き上げて消えていった。

熊さんの目が、徐々に光を失って行った。











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