戦いの行方
ついに玉藻と直接対決となった、メイメイ、槇草、熊さんの三人。
玉藻の呼び出した式神に苦戦するが・・・
青龍刀と日本で言い習わしている刀は、実は柳葉刀と言う。
刀身の幅の広さに比して厚みが薄く、見かけよりずっと軽量である。そのため刀身が撓る事で、柔らかく速い動きを実現する。
メイメイはその柳葉刀を躰の後ろに隠すようにして構えた。
柄頭についた赤と緑の布が風に揺れる。
「今日はこの前みたいには行かないわよ」
「そんな片手剣一本持ったくらいで、私に勝てると思わない事ね」
玉藻の手にはいつの間にか薙刀が握られていた。
中庭には松や灯籠などの障害物が多い、長い薙刀では不利に思えるが玉藻は意に介さない。
「貴女のお友達は、今頃狸の合戦に巻き込まれて大変なことになっている時分よ」
「なんですって!王先生たちはどこにいるの!」
「さあね、知りたければ私を倒してみなさい」
「言われなくてもそうするわ!」
メイメイは軽く地を蹴って玉藻との間合いを詰めた。
玉藻が薙刀の穂先をメイメイに向けた。
その途端、メイメイの柳葉刀が薙刀の穂先を巻き込むようにして跳ね上げた。
空いた脛に柳葉刀が風を切って飛んで行く。
玉藻は地を蹴る動作も見せず宙に飛び上がってこれを躱した。
間髪を入れずメイメイの頭上に薙刀が振り下ろされる。
メイメイは柳葉刀を振り抜かず、玉藻の脛のあった位置に止めていた。
峰に左手を添えて一歩引きながら薙刀の斬撃を受け止める。
「もらった!」
薙刀の石突が半回転してメイメイの鳩尾に迫る。
しかし、石突の反撃は不発に終わった。
「???」
玉藻は足を大きく踏み出し、メイメイの首を狙って薙刀を横に薙いだ。
メイメイは身を沈めてこれを躱す。
同時に踏み出した玉藻の足を右足で蹴り込んだ。
鈍い衝撃があって、玉藻が飛び退った。
「今のは効いたわ、さっきの突きで決まったと思ったのに?」
「王先生に教わったの、反射神経を押さえてギリギリで技を見切る術を」
「そう、貴女にはとっておきの術で相手をしてあげる」
「負け惜しみを言わないで、貴方の右足はもう使えない、次の攻撃で終わりにするわ」
「ふふふ、私を誰だと思っている」
玉藻は懐から三本の竹筒を取り出した。
「さあ出ておいで、私の式神たち!」
玉藻が言い終わらぬうちに、竹筒から三筋の光が飛び出した。
そして光はみるみる凶暴な顔の狐に姿を変えた。
「あっ!あれはお狐神社におった狛狐やなかね!」熊さんが叫ぶ。
三匹の狐が一斉にメイメイに襲いかかった。
「きゃっ!」
メイメイが膝を折って蹲る。
「熊さん!」
「師範代!」
二人が呼び合って中庭に飛び降りる。
熊さんは着地と同時に抜刀し右の狐に横一文字に斬りつける。
槇草は空中で抜刀し真上から左の狐に斬りつけた。
その途端、三匹の狐が虚空に飛び上がる。
「二人とも・・・」
「妖術は武術家の管轄外じゃ」
「メイメイさんは玉藻を追い詰めた」
「それでよかじゃなかね」
「・・・」メイメイは悔しげに唇を噛んだ。
「そうくると思った」玉藻が言った。「飛んで火に入る夏の虫とはこの事ね」
「なに!」熊さんが玉藻を睨みつけた。
「式神が三体だけだとは限らないわよ」
玉藻が懐から更に三本の竹筒を取り出した。
「行きなさい私の式神たち」
筒から飛び出した光は、上空の三匹と混じり合って、虎ほどもある巨大な一匹の狐となった。
そして猛然と三人に向かって急降下してきた。
「うわっ!」
槇草が飛び退る。
熊さんは地に伏せ、メイメイは再び蹲った。
「ゆっくり相手をしてなさい、私は戦況を確かめに行って来るわ」
誰に言うでもなく玉藻は言った。
「待て玉藻!」槇草が叫ぶ。
「もしも、その式神を倒せたら、追いかけて来るといいわ。私は逃げも隠れもしないから」
玉藻は虎の襖絵がある部屋に入って行った。
「師範代、玉藻は後じゃ!まずこいつをどげんかせんといかん!」
熊さんが起き上がりながら言う。
「もう許さない!」
よほど悔しかったのであろう、メイメイは立ち上がりざま巨大狐に突っ込んでいった。
同時に槇草と熊さんも狐に向かって地を蹴った。
狐の動きは巨体に似合わず素早かった、三本の剣をするりと躱して反撃に転じてくる。
その度に三人は後退を余儀なくされた。
「足の腱を狙うんじゃ!」
「動きが速すぎて無理だ!」
「私が止める!」
メイメイが狐の正面に立った。
一度柳葉刀の切先を狐に向けてから、ゆっくりと回転させ始めた。
柄頭から下がる緑と赤の布がヒラヒラと舞う。
狐の目がその布に釘付けになった。
その瞬間、メイメイが柳葉刀を高く放り上げた。
狐がそれを追って天を仰ぐ。一瞬狐の足が居着いた。
「今よ!」
熊さんが地を蹴った、同時に槇草も前に出る。
「ギャン!」
熊さんが一閃した刃が狐の右足の腱を切断した。
「師範代!」
熊さんの声に応じた槇草が、鬼切丸を大上段に振りかぶって跳んだ。
落下エネルギーをそのまま狐の首に叩き込む。
斬!!!
狐の首が宙を舞った。
しかし、その首が真っ直ぐメイメイに向かって飛ぶ。口を大きく開けて、最後の攻撃を試みる。
丁度そこに、メイメイの放り上げた柳葉刀が落ちてきた。メイメイは空中で柄を受け止め、ヒュン!と一回転させ狐の頭を真っ向から断ち割った。
狐の首は額から半分に分かれると、地に落ちて胴体と共に消えた。
「ふう・・・」
「凄い、メイメイさんよくあんな事を思いついたね?」
槇草が驚いた顔で訊いた。
「昔実家で犬を飼ってた事があるの、いつもあんなふうにボールを投げ上げて遊んでたわ」
「そうか、動物の習性で反射的に動いたんだな」
「そう、人はその反射を抑える事ができる。それを王先生に教えられたの」
「やっぱ王先生は凄かお人たい。儂も教えられ申した」
「さあ、玉藻を追いましょう!」
「おお、そげんじゃった!行くばい師範代!」
熊さんが渡り廊下に飛び上がって虎の襖の部屋に入って行く。
「僕たちも行こう」
「ええ」
三人は掛け軸の裏の穴に再び身を投じた。
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湯築砦は小高い丘の上にあった。
上から攻め降りるのと、下から攻め上ってくるのとでは、その勢いに雲泥の差がある。
門を出た湯築の軍勢は一直線に阿波軍に突っ込んで行った。
凛は相変わらず大鎌を振るって暴れ回り、金毘羅坊は団扇で追い風を送る。
一方、平助と王はと見れば、敵から奪った竹槍で阿波軍の両翼を突き崩していた。
形勢は一気に逆転した。
敵は散々に蹴散らされながら、蟠った黒い霧に向かって逃げてゆく。
「あれが玉藻の作った『転移の道』のじゃ!」合流してきた王に向かって平助が言った。
「うむ、間違いあるまい。霧が消される前にワシらもあの霧に飛び込むぞ!」
「承知!」
味方の屍を残し、最後の敵が霧に飲まれると同時に平助と王は霧に飛び込んだ。
その瞬間、霧が薄くなり始めた。
霧が消えかかった時、何かが飛び込んできた。
「ひどい!私を置いていくなんて!」凛が叫んだ。
「すまんすまん、お主を呼んでいる暇が無かった」平助が謝った。
「良いわ、でもここは何?全く何もない空間じゃない」
「玉藻の作った『転移の道』じゃろう」王が言った。
「剣山の洞窟にはちゃんと道があったわ」
「うむ、確かに、先に入った敵兵も消えておる」
「してみると、ここは道ではなく瞬間移動の門のようなものか?」
「私たち、そこに取り残されてしまったのね」
「どうやらそのようじゃ・・・おや、その先に何やら明かりが見えるぞ」
平助が指差す先に、金色の光が揺らめいた。
その光は徐々に大きくなり、やがて真ん中から二つに割れた。
「何か出てくる」王が言った。
「あっ、メイメイさん!」
「いや、あれは玉藻じゃ!」
玉藻はゆっくりと光の門から出てきた。
「どうやら砦攻めは失敗したようね」
「やはりお前が仕組んだ戦いだったのか!」平助が言った。
「そう、でも結果はどうでもいいわ、私が望むのは同士討ちだから」
「なんじゃと?」
「狸の勢力が弱まれば、私がこの四国を牛耳りやすくなるからね」
「なんと狡猾な」
「私は狐、どこか人の良い狸よりは一枚上手と言う事ね」
「あんたのために、たくさんの狸が死んだわ、今度こそここで成敗してあげるから覚悟なさい!」凛が大鎌を振り上げた。
「待て凛!光の門から誰か出てくる」
「あら、案外早かったのね?」玉藻が言った。
二つに割れた光の門から、熊さんが飛び出してきた。
「あっ、師匠方、凛もおっとか!」
「師匠、ご無事で!」
「凛ちゃん、良かった生きてたのね!」
三人が次々に飛び出してきた。
「槇草何故ここに!」
「師匠、その話は玉藻を倒してからゆっくりと」
「じゃの」
「師匠、刀ばお持ちしましたけん」
熊さんが玉藻を迂回して平助のそばに来た。
「王先生、槍です柳槍じゃなくてごめんなさい」
メイメイが槍を王に手渡した。
「ふふ、これで役者は揃ったわね」玉藻が不敵の笑みを浮かべた。
「みんな気をつけて、ここは玉藻の作った亜空間、何が出てくるかわからないわ!」
「凛、心配すっこたなか、なんが出てきてん、ここで玉藻ば討ち果たすだけたい」
「そうよ凛ちゃん、今日で全てをお終わらせるから」
玉藻がその言葉を聞いてほくそ笑む。
「その通りよ、そのためにこの場を用意した。あなた達がいなくなれば日本の妖怪は私の思うがまま」
「そうはさせん、儂らを甘くみるでない」
「そうじゃ、ここに全員を呼んだのが運の尽きじゃ」
「時間が来たようね、そろそろ始めましょうか」玉藻が言った。
「望むところ」
六人は玉藻を囲むように広がった。




