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妖怪 王  作者: 真桑瓜
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玉藻の陰謀


宿に落ち着くと、皆が平助の部屋に集まった。

「刑部は怒りの為に周りが見えぬようじゃな」平助が言った。

「しかし、使者を斬るなぞ阿波狸も思い切ったことをしたものじゃ」

「それが玉藻の手じゃ、妲己として中国にあった時も商の紂王をを操って、結局商を破滅に導いておる」

「じゃとすると、玉藻は阿波狸を破滅させる事が目的なのか?」

「奴はまず、四国を牛耳ることを考えておる。ならば、阿波を滅ぼした後は刑部と金長の仲間割れを狙ってくるに違いない」

「そうか、そうなれば後は玉藻の意のままじゃ」

「そうなる前に、なんとか玉藻を阿波から引き離さなければなるまい」

「何か上手い手はないものか・・・」

考えあぐねている所に、宿の主人がやってきて客の到来を告げた。

「きっと金毘羅坊じゃ、ご主人、その客人をここに通してくれ」

主人にそう伝えると、間も無く部屋に金毘羅坊と釣瓶落しが入ってきた。

妖怪を平気で入れるようじゃ、やはりここは狸の商人宿のようだ。

「おお、釣瓶落しまで」

「何か手伝えることはないかと思ってな」

釣瓶落しは恥ずかしそうに言った。

「ありがたい、助かるぞ」

「金毘羅坊、傷の具合はどうじゃ?」

「我らの自然治癒力は人間の比ではない、もうほとんど支障は無い」

「それは良かった、まぁ座ってくれ」

狭い部屋の中に五人?が車座になって座る。

「嬢ちゃん、あんときはすまなかった」釣瓶落しが凛の方を向いて言った。「後で金毘羅坊に聞いて赤面の至じゃ」

「いいわ、許してあげる。来てくれてありがと」

「そうか、安心した」

釣瓶落しはホッと息を吐いた。

「ところで、剣山の洞窟はどこに繋がっておるのじゃ?」

「この前集まった各県の代表のところへは繋がっておる」金毘羅坊が答えた。

「阿波狸の砦は何処じゃ?」

「徳島の眉山にある」

「そこには繋がっておらんのじゃな?」

「ああ、奴は代表ではないからな」

「そうか、刑部は金長の砦におるらしいから、湯築の砦は手薄になっておろう。阿波狸はそこを狙う公算が強い」

「だったら湯築の砦に待っていれば玉藻と会えるかもしれないのね?」

「いや、奴は裏から糸を引くだけで決して表には出ぬ」

「なんともずる賢い奴じゃ」

「待てよ、玉藻は愛宕山のお狐神社との間に転移の術で道を作ったのじゃったな?」平助が訊いた。

「凛々、亜空間の道は毎回作るものか?」王が重ねて訊く。

「う〜ん、あの術はかなりの霊力を使うから一度作ったら暫くはそのままにしているはずよ」

「ならば道はまだ残っているのじゃな?」

「多分・・・」

「よし、熊さんと槇草に調べさせよう。もし残っておったら玉藻の居場所がわかる」

「平助、メイメイも加えてやってくれ、この前の雪辱を果たさせたい」

「そうじゃな、仲間はずれにした事がバレたら、後が怖い」

「ひど〜い、メイメイさんに言ってやろ!」

「凛、今のは無しじゃ、メイメイには内緒にしてくれ!」平助が慌てて否定した。

「どうしよっかな〜、次の戦いで一番槍を許してくれたら黙っててあげる」

「うぬぬ、こやつがこれほど好戦的だとは思わなんだ」

「ふはははは、平助お前の負けじゃ」

「じゃあ、いいのね!」

「し、仕方がない・・・」

「やったー!」

「まぁ、その件はそれで良しとして、我らはどうする?」王が話を戻した。

「大歩危の砦では暫く睨み合いが続くじゃろう、危ないのは湯築砦の方じゃ。我らは今から湯築に向かう」

「もう出発するの?」

「残っているのはわずかな兵と女子供だけじゃ、夜襲をかけられたらひとたまりもない」

「そうか、ならすぐに出なきゃ!」

「釣瓶落し頼みがある」平助が言った。

「何だ、なんでも言ってくれ」

「土佐の山姥にこの事を知らせるんじゃ」

「分かった、後で湯築で合流しよう」

「俺はあんたたちと一緒に湯築に行く」金比羅坊が言った。

「傷は本当に大丈夫か?」

「さっきも言ったが問題ない」

「よし、では早速出発しよう」


平助は妙心館の熊さんに電話をかけると、一行と共にマンホールへと向かった。


*************************************************


「師匠の話では、お狐神社に転移の道が残っとるかもしれん、ちゅう事じゃ」

妙心館の板張りで、槇草とメイメイを前にして熊さんが言った。

「転移の道ってなんですか?」槇草が聞き返す。

「なんでん、亜空間ば自由に移動でくるらしか」

「ふ〜ん、便利なものだな」

「私、何かの本で読んだ事があるわ、確か西洋のファンタジーか何かで魔法使いの出てくる物語」

「ファンタジー?メイメイさんらしくないですね」

「あら、そうかしら?私これでも夢見る乙女だったのよ」

「夢?」

「そう、私より強い人のお嫁さんになる夢」

「その夢は叶ったんだ」

「そうね、陽さんは今でも私より強い」

「そりゃよかった、今度出稽古に行って相手をしてもらおう」

「陽さんに伝えておきますわ」

「そりゃよかばってん、神社の方はどうすっね?」

「今から僕の車で様子を見に行ってみましょう」

「善は急げじゃな」

「もし見つかったらそのまま玉藻のところへ行けるかも知れません、十分に準備を整えてから行きましょう」

「だったら、行きがけに私の家に寄ってくださる、青龍刀を持って行きたいの」

「僕は鬼斬り丸を持って行こう」

「おいも刀ば持って行く、無銘じゃが幕末の名匠源清麿が打った刀たい」

「師匠の愛刀と槍も持って行こう」

「凛には大鎌があるもんな」


三人は大急ぎで準備を整えて、愛宕山に向かった。


*************************************************


「阿波様、野営の準備が整いました」

伝令が跪き報告した。

「よし、ここで夜まで待機じゃ。敵の目をこちらに釘付けにしておいて、夜陰に乗じて半数を湯築砦に送り込む」

刑部、金長、阿波の勢力は拮抗していた。それぞれに約八百の兵を従えて四国を三分している。

故に徳島代表は阿波でもおかしくなかった筈だ。阿波は金長に代表の座を奪われた事を根に持っていた。

「今度こそ雪辱を果たしてやる!」

阿波の鼻息は荒かった。それもこれも玉藻が味方についてくれたおかげだ。玉藻の作った転移の道を利用すれば奇襲は成功したも同じ事だ。

「阿波様、これはとても申し上げにくい事ですが・・・」

側近の鳴門狸が言った。

「なんじゃ、申してみよ」

「はっ、なればあえて申し上げます。あの女狐めにそれほどの信をおいて良いものでございましょうか?」

「なに、そちはこの阿波の考えに意を唱えると申すのか!」

「近ごろ阿波様の為される事は少し度が過ぎております。刑部殿の使者を梟首した件然り、あの女狐を常にお側に侍らせておる件然り、このままでは部下どもの不信を買う事必定でございます」

「お主、臣下の分際でなんたる暴言!」

「だからこそ敢えて諫言(かんげん)致すのです、どうかこれ以上あの女狐めの言いなりになるのはおやめください」

「黙れ黙れ、それ以上申すとタダでは済まぬぞ!」

「いえ、何度でも申し上げます、あの女狐をこれ以上・・・!」

「もう良い、誰かこやつを縛り上げて梟首せよ!出陣の景気付けにしてくれようぞ!」

屈強な護衛の兵が二人、鳴門狸を縛り上げて阿波の前から引き摺って行く。

「阿波様、どうか目をおさましになって・・・!」

阿波はもう返事もしなかった。愛しい玉藻を悪く言われて、はらわたが煮えくり返っている。

暫く後、鳴門の首が阿波陣地の営門に掲げられた。


*************************************************


「あれはなんだ!」

阿波陣地の営門に掲げられた首を見て、刑部が声を上げた。

「あれは阿波の側近鳴門狸だわ、なんであんな姿に・・・」

「わからん、だが阿波は狂っておる、一度ならず二度までも仲間の首を晒すなど」

「やっぱり女狐に騙されとるんじょ、さもなきゃあの気の小さい阿波があんなことはできん」

「だからと言って手加減はできぬ、朝を待って総攻撃をかける!」

「そうじゃな、こちらの兵は約二倍、一気に殲滅するけん」

「今夜は交代で見張を立て、兵をゆっくり休ませよう」

「刑部様、遅れて申し訳ないのす」

百八番が刑部の前に跪く。

「おお、来たか百八番。あの者達は帰ったか?」

「いえ、讃岐の商人宿に逗留中であるんのす」

「そうか、あの時は儂も気が昂っておって悪い事をした」

「くれぐれも無理をなさらぬようにとのご伝言なのす」

「うむ、だがこれは我ら狸族の問題、我々で解決せねばならぬ」

「御意、あの方達も分かってくれるのっす」

百八番は平助達に助力を頼んだ事は言わなかった。

「それでは、斥候の任につくのす」

「来たばかりでご苦労だが、よろしく頼む。お主の変化の術なら奴らに見つかる事なく任務が遂行できよう」

「おまかせください刑部様、何かあったらすぐにお知らせ致すのす」

「うむ、頼んだぞ」

刑部は百八番の後ろ姿を見送った。


*************************************************


「わぁ、見事に荒れてますね!」槇草が声を上げた。

「この前来た時はちゃんとした神社だったのに・・・」メイメイが呟いた。

「あれは玉藻の妖術げな、玉藻の居っ時だけあげん立派に見えるらしか」

「じゃあ、今はいないのですね?」

「そげんごたる、じゃが油断は禁物じゃ、気ば引き締めて行っぞ」

「了解・・・」

半分壊れかけた扉を開けて中に足を踏み入れる。床は所々板が剥がれかけており、壁の高いところには蜘蛛が巣を張っている。

幣殿と思しき場所には、お供物を供える神饌台もなく狭い空間が空いているだけだった。

「本来ならこの正面が御本殿のはずじゃが・・・」熊さんが言った。

「何も変わった事はなさそうだ」槇草が板壁に触れながら辺りを見回す。

「あっ、あれは何?」メイメイが拝殿の一角を指差した。そこには人の背丈ほどもある狐の像が巻物を咥えて鎮座していた。

「入ってきた時には気づかんじゃった」

「なんか黒い霧が(わだかま)って姿が見え辛いですね、なんだか吸い込まれそうな・・・」

「それだわ!異次元に通じる門ははっきりした形はとらないものよ」

「そんなら、あれが師匠の言っとった転移の道というやつじゃな」

「あの霧の中に入ればいいのね」メイメイが足を踏み出した。

「メイメイさん危ない、僕が先に行く」

「あら、槇草さん、レディファーストという言葉知らないの?」

「そんくらい知っちょるばってん、なんがあっかわからんぞ?」

「まぁ、女だと思って馬鹿にしてらっしゃるのね」

「いや、そげんじゃなかばってん」

「なら先に行くわよ、いいわね?」

「しょんなか・・・」

メイメイが黒い霧に手を伸ばすと、まるで引き込まれるように姿を消した。

「次は僕が行きます」槇草も同じようにして消えた。

「二人とも(いさぎ)んよかね、ならおいは殿(しんがり)ば行くたい」

最後に熊さんの姿も黒い霧の中に消えて行った。










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