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妖怪 王  作者: 真桑瓜
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昭和狸合戦

福岡に現れた玉藻。

しかし、平助たちは四国に残る選択をする・・・


玉藻に(いざな)われて屋敷の奥へと入って行った阿波狸は、首を傾げて辺りを見回した。

「はて、儂の屋敷にこのような場所があったか?」

「阿波様、ここは私の作った特別な場所、ここなら誰に話を聞かれる心配もありませんわ」

「それよりも玉藻、儂はもう我慢が・・・」

「せっかちな阿波様、それは後のお楽しみ、まずは金長と隠神刑部を攻める策を話し合いましょう」

「う、うむ、ならば早く申せ」

「まずは阿波様の軍を全て金長の砦に集結させます。そこで兵を二つに分け半分を刑部の砦に向かわせるのです」

「なに、相手は金長と刑部だぞ、ただでさえ少ない兵を二つに分けるのは数の上で不利ではないか?」

「金長に向かわせる兵は囮です。奴らは必ず阿波様の軍を阻止しようと金長の砦に軍を集めます。そこで奴らを金長の砦に引き付けておいて、残りの兵で手薄になった刑部の砦を落とすのです」

「しかし、金長の砦は大歩危、刑部の砦は湯築にあり、だいぶ距離が離れておる。大歩危の兵に攻めて出られたら、湯築に着く前に殲滅されてしまうのではないか?」

「大丈夫ですわ、私には『転移の術』が使えますもの」

「転移の術?」

「どこへでも兵を一度に送る事ができますわ、例えば湯築砦まででも・・・」

「分かった!金長と刑部の主力を大歩危に足止めしている間に、一気に湯築の砦を落とすと言う算段じゃな」

「さすが阿波様、御理解が早い。その通りですわ」

「うむ、そうと決まったら早速出陣しよう。じゃがその前に・・・」

阿波狸が玉藻の手を握り引き寄せた。

「ダメ、お楽しみは事がなってからに取っておきましょう。その方が阿波様もやりがいがあると言うもの」

玉藻はするりと阿波狸の手をすり抜けた。

「そ、そうか、そちがそう言うのなら・・・」

「さすが阿波様、聞き分けのよろしいこと。四国を統べる大物はそうでなければ」

阿波狸はスックと立ち上がる。

「よし、一気に奴らを殲滅するぞ!」


*************************************************


「王、凛、玉藻が福岡に現れたそうじゃ」

徳島駅の公衆電話から、一つ目神社の御子神に電話をかけていた平助が受話器を置きながら言った。

「なに、いつの事じゃ?」

「今日の夕刻、愛宕山のお狐神社に狐火が現れて、小一時間ほど上空に浮かんだ後消えたそうじゃ」

「なぜ玉藻だと分かったのじゃ?」王が訊いた。

「愛宕山の妖の報告によると、その間神社は有し日の姿に戻っておったのだそうじゃ」

「間違いないわ、玉藻が妖力で戻したのよ。これでハッキリしたわ、玉藻が戻っている時は神社は元の姿に戻るのよ」

「平助どうする?」

「一度福岡に戻るつもりじゃったが、やはり四国にとどまるべきじゃと思う」

「なぜじゃ?」

「さっきの報告にもあった通り、玉藻は一時間ほどで消えておる。という事はじゃ、奴が活動するのはやはりこの四国じゃ、ここにおった方が玉藻と接触する機会は多い。あちらは熊さんたちに任せておいて、儂らはここで玉藻の出方を待つ」

「ならば琴平神社入り口のマンホール近くに宿を取ってはどうじゃ?」

「そうか、あそこは剣山の洞窟に繋がっておる。剣山からは各地に道が繋がっておるはずじゃ」

「じゃあ、メロスを呼びましょう。さっきタクシーの中で連絡先をもらったの、用がある時はいつでもかけてくれって」

「奴は日頃どこにおるのじゃ?」

「さあ、詳しくは教えてくれなかったけど、人の間に紛れて、人として暮らしているらしいわ」

「ふむ、妖にも色々な生き方があるものじゃのう」

「よし、さっき別れたばかりで申し訳ないが緊急時じゃ、メロスに頼むとしよう」

「私が電話をかける」

凛がメモを見ながらダイアルを回した。

受話器を置くと凛が言った。「すぐ来てくれるって。それから宿は自分が手配するから任せておいてくれって。なんでも狸仲間が人間の姿で泊まるときに使っている宿らしいわ」

「まさか宿の主人も狸ではあるまいな?」

「わからない、でも狸って結構街中に溶け込んでいるのかもね。ほら、見た目狸っぽい人ってよくいるじゃない」

「平助なぞは、さしずめ狸親父ってところか?」

「人のことが言えるか王、お前など狸爺いじゃ!」

「二人とも喧嘩しないの、ほら、メロスタクシーが来たわよ」


三人はメロスの運転するタクシーに乗って、再び金刀比羅神社方面に向かった。


*************************************************


「なんじゃここは、商人宿ではないか」平助が二階建ての木造家屋を見上げて言った。

「文句言わねのす、ここならマンホールはすぐ目の前だし、狸の結界が張られてるので玉藻に見つかる心配もねぇのす」

「それなら安心して眠れるな。平助、ここで玉藻に動きがあるまで骨を休めるとしようぞ」

「メロスありがと、恩に着るわ」

「なんのなんの、こんなこと訳ねのす。後で金毘羅坊にもここを訪ねるように言っておくのす」

「そうじゃな、剣山の洞窟に行っても、どこにどの穴が通じておるのかわからぬからな」平助が言った。

「何から何まですまんのぅ」

「実はさっき刑部様より連絡があったのす、我ら配下の者はただちに金長殿の砦に集結せよとのことだったのす」

「金長の砦とは何処じゃ?」

「阿波と伊予の境にある大歩危渓谷にあるのす、ちなみに刑部様の砦はそこから西に行った湯築(ゆづき)にあるのす」

「ふむ、刑部のあの様子では徹底抗戦の構えを崩すつもりはないようじゃの」

「でも、玉藻が転移の術を使えば・・・」凛が心配そうに言った。

「背後を取られて挟み撃ちになりかねぬ」王が懸念を口にした。

「刑部にわれわれの言葉を聞く気は無いし・・・」

「お願いがあんのす」メロスが改まって頭を下げた。「どうか刑部様を助けて欲しいのす」

「メロスも戦いに参加するの?」

「もちろんのす、我ら配下は刑部様に忠誠を誓ったのす」

「分かった、絶対助けてあげる。ね、お爺ちゃんたち良いでしょ?」

「当たり前じゃ、その為に儂らは四国まで来たのじゃぞ」

「感謝するのす。おいは今から金毘羅坊のところに行ってくるのす、そのまま大歩危に向かうすから暫くは会えなくなるのす」

「うむ、気をつけて行くのじゃぞ」

「くれぐれも無茶をせぬよう、刑部に伝えてくれ」

「絶対死んじゃダメよ!」

「分かったのす、それじゃ行くのす」


メロスは鳥居を潜ると、奥社へと続く長い石段を登り始めた。




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