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妖怪 王  作者: 真桑瓜
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阿波狸

阿波狸の屋敷に潜り込んだ玉藻は、阿波狸を巧妙に操り、四国狸の抗争に導こうとする。

一方、隠神刑部と決別した平助たちは、失意のなか山を降った・・・


「あの神社は廃社だったそうじゃ」公衆電話の受話器を置いて、平助が言った。

「どう言う事じゃ?」

「そもそも、あの神社は祭祀が行われなくなって久しい。過疎化や高齢化で氏子が居なくなり放置された荒れ社なのじゃ。しかも遷座の儀式が未完に終わり、神が宙ぶらりんの状態にある」

「ワシらが凛々を助けにいった時は、立派な神社に見えたがな?」

「そこが不思議なんじゃが、熊さんが改めて見に行ったら、鳥居は傾き注連縄(しめなわ)は腐り、拝殿の扉は壊れて風にバタバタと揺れておったそうじゃ。それに熊さんが一番驚いたのは、狛狐の形相が普通だったと言うことじゃ」

「なに、あの時は恐ろしげに牙を剥いておったぞ」

「考えられる事は、玉藻の妖力でそう見せられておった、と言う事じゃ」

「と言う事は、今はもう玉藻はそこにはおらぬのじゃな?」

「うむ、これでまた振り出しか・・・」

「そうとは限らないわ」凛が言った。「玉藻は必要があればいつでもあそこに戻れるもの」

「ならば、玉藻がいる時だけ神社はあの姿になるのじゃな?」

「そう、だからあそこを見張っていれば玉藻がいるかどうかわかるってこと」

「じゃが誰に見張りを頼む、あんな山の上いつでも行けると言うものでもない」

「お久ちゃんに頼むのよ」

「お久はまだ子供じゃ、それに玉藻に知れておろう」

「ううん、見張はあの山の妖たちにお願いして、何か異変があったら雲外鏡に連絡してもらうの。私たちが定期的に神社に電話してお久ちゃんに聞けばいいわ」

「それは良い考えじゃ、平助それで行こう」

「そうじゃな、そうしよう。では早速、御子神殿にその旨を伝えよう」

平助はまた受話器を手に取って小銭を入れると、ダイアルを回し始めた。


*************************************************


「お館様、伊予の隠神刑部様より使者が参っております」

ここは徳島の眉山にある阿波狸の屋敷。門番が書院に報告に来た。

「おお、刑部の使者か、丁重にもてなして待っていてもらえ。儂もすぐに行く」

門番が出ていくと、阿波狸は脇息にもたれかかった躰を起こし立ち上がった。

「阿波様、お待ちを・・・」

阿波狸の傍に侍っていた玉藻が袖を引いた。

「なんじゃ玉藻、刑部の使者じゃ、あまり待たせてはならん」

「いえ阿波様、その使者はなんだか怪しゅうございます」

「なんじゃと」

「近ごろ同じ阿波の金長狸と隠神刑部が、何やら額を寄せ合って協議したという噂が流れております」

「なに、儂の敵対勢力である金長とあの刑部がか?」

「左様でございます、何やら良からぬ事を企んでおるやもしれませぬ、十分にお気をつけくださいまし」

「そうか、そちが言うなら間違いはなかろう。もし使者の奴が少しでも不穏な動きを見せたら、すぐにでも追い返してやろう」

「いえ、それでは生ぬるう御座います。即刻梟首(きょうしゅ)してこの山の頂にでも晒してやるのが良いかと思いますわ」

玉藻はシナを作って阿波狸にしなだれ掛かる。

「分かった!儂を馬鹿にする奴は許さん、目にもの見せてやる!」

阿波狸は足音を響かせて書院を出て行った。

「単純な狸」

阿波狸の背中を見送った玉藻が、ニッとほくそ笑んだ。


「これはこれは、阿波のお館様、ご壮健で何よりでございます」

隠神刑部の使者は畳に手をついて挨拶の言葉を述べた。

「何の用じゃ」

阿波狸は、玉藻から吹き込まれた事が頭を離れず、つい冷たく言い放った。

「特に大した用事はございませぬ、我がお頭より阿波様のご機嫌を伺って参れと仰せつかったまででございます」

阿波の態度を訝しむふうでも無く、使者が答える。

「では用は済んだ。儂は元気じゃと帰って刑部にそう伝えるが良い」

「はい、ですが一つだけお聞きしたい事がございます」

使者が姿勢を正して阿波を見つめた。

「なんじゃ、用は済んだと言ったではないか」

「近ごろ怪しい女狐が、阿波様のお屋敷に出入りしておるという噂があります。その真偽を確かめたく・・・」

「黙れ!屋敷内の事についてお主らにとやかく言われる筋合いはない!」

「では、誠なのでございますな?」

「黙れ黙れ、お前たちのほうこそ、こそこそと金長の奴と密会を重ねておると言うではないか。金長は言うなれば儂の敵と言っても良い相手じゃ。この件しかと相違なかろう、何か申し開きはあるか!」

「これは異な事を、狸族全体の敵である狐をこの四国に招き入れる事こそ由々しき行い。とても正気の沙汰とは思えませぬ」

「なに!お主、儂が狂っておると申すか!許せん、誰かこの者を捕まえよ!」

阿波狸が命じると、側近の狸がワラワラと駆け寄って来て、使者に縄をかけた。

「即刻梟首して、その首を頂きに晒せ!」

「しかしお館様、そんな事をすれば刑部殿と金長を相手取っての全面戦争となりかねません」

「なに、儂の命が聞けぬと申すか。ならばそちも同罪じゃ、誰か其奴の首も刎ねよ!」

「ははっ!」

側近の者が二匹の狸を引きずって、謁見の間を出て行った。

間も無く二首の生首が、眉山の頂上に竹竿に刺されて晒される事となった。


書院に戻った阿波狸に玉藻がピタリと身を寄せた。

「英断で御座いますわ、阿波様」

「そちの言う事は正しかった。刑部め金長の奴と計って、この儂を出し抜くつもりじゃ」

「阿波様、この上は先手を取って、こちらから攻めて出られてはいかがでしょう」

「うむ、奴らの体制が整う前に叩いておくにしくはない」

「ならば手始めに金長の砦を攻められては?」

「何か策があるのか?」

「ふふふ、それはあちらで、ゆっくりと話しましょう」

玉藻は阿波狸の手を引いて屋敷の奥へと(いざな)った。


*************************************************


「なに!使者が斬られたと言うのか!」剣山の洞窟の中で隠神刑部が叫んだ。

伝令の狸は膝をつき、悔しげに唇を噛んで続けた。

「使者の首は眉山山頂に晒されました!」

「ぐぬぬ、阿波の奴め、なんて酷いことをしやがる!今すぐ行ってやつの首叩き落としてやる!」

「落ち着けや刑部、どない考えても奴ぁまんまと女狐めに惑わされたんじょ。ほいでなかったらあんな無茶しよるはずがなかろぅが」

「だが金長、使者の首が晒されたのは事実だ。このまま見過ごしにしたらこの刑部の沽券に関わる!」

「じゃけん慎重になれ言うとるんじゃ刑部、今頃奴は報復を恐れて守りを固めちょる。今乗り込んでも返り討ちに会うだけじょ。そげんなったら沽券もなんもなかろうが」

「ならばどうせよと言うのだ?」

「ひとまず俺の砦に全兵力を集めるんじょ。お前の砦は伊予の松山じゃけん、奴らが攻めてくるにしてもその通り道である我が大歩危(おおぼけ)の砦を素通りする事はできんじょ」

「差し出がましいようじゃが・・・」平助が言った。「それはあまり賛成はできぬな」

「なんでや?」

「あちらには玉藻がおる、正面からまともな方法で来るとは考えにくかろう」

「そうよ、玉藻には・・・」凛が口を挟もうとした。

「待った、せっかく来てもろうて恐縮だが、これは狸族の問題、口出しは無用に願おう」

「しかし、事は全妖怪に関わる事じゃ。この際一種族の面子などに拘って良いものではない」

「黙れ人間、俺には他の妖怪の事よりも目の前の狸の面子の方が大事なんだ!」

「刑部、お主それでも一族を束ねる長か」

「長だからこそ、ここは引けんと言ってるんだ!」

「目を覚ませ、刑部!」

「平助、もう良い。ここではワシらはよそ者じゃ、何を言っても無駄じゃ」王が平助を止めた。

「そうよ平助爺ちゃん、こんな頑固な狸ほっときましょう!」

「なんだと!」

「でも、一つだけ言わせて。玉藻には亜空間を自由に操る能力があるの、それだけは覚えておいてね」

「要らぬお世話だ!」

「じゃあ、言う事は言ったわ。お爺ちゃんたちさっさとここをでましょう」

「そうじゃな。刑部、金長、邪魔したな」平助が立ち上がる。

「気が変わったらいつでも言うてくれ、協力は惜しまん」王が振り返りながら言った。

「うるさい、とっとと出て行け!」

洞窟を出ると金長狸が追いかけて来た。

「すまなんだな、刑部のやつちっとばかし頭に血をのぼせておるんじょ。帰りは送り火に遅らせるけん」


平助、王、凛、の三人は、送り火に送られて、暗くなった道をリフト乗り場の方に降っていった。

木の根や石ころに足を取られながら、小一時間ほどかけてようやくリフト乗り場の駐車場に辿り着く。

「あっ、メロス!」

凛が叫んで駆け出した。

「どうしたの!」

「お迎えにあがりましたのす、駅まで送るのっす」

メロスの後ろを見ると、前とは違う黄色いタクシーが停まっていた。

「また運ちゃんを騙したのか?」平助が訊いた。

「人聞きの悪いこと言わないでほしいのす、ギブアンドテイクのっす」

「すまぬ、また世話になるのぅ」王が頭を下げた。

「いいのすいいのす、ささ、乗ってくれのっす」

「メロス、ありがと」


三人を乗せたタクシーは徳島駅に向けて夜の県道を走り出した。



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