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妖怪 王  作者: 真桑瓜
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死国

お久の報告により、玉藻が四国でよからぬことを企んでいることを知った平助は、王、凛と共に四国へ向かった・・・


「師匠、御子神どんから電話の掛っとりますばってん・・・」

熊さんが道場で一人空手の形稽古をしていた平助に声をかけた。

「なに、神主どのか・・・すぐに参る」

タオルで汗を拭きながら、平助が受話器を取った。

「神主どのか、無門じゃが・・・」

「もしもし、無門先生ですか?ちょっとお久と代わります」

いきなりお久と代わるという御子神に、平助も慌てた。

「ちょ、ちょっと待て、一体何があったのじゃ?」

「雲外鏡に四国の妖怪から続々と異様な連絡が入ってきております。その連絡を受けたのがお久で、直接お話をお聞きになった方が、私が間に入るより早いのではないかと思いまして」

「そうか、では代わってもらおう」

電話の向こうで短いやりとりが聞こえ、お久が電話に出た。

「時間が無いので単刀直入に話します。四国で凶暴化した妖怪が暴れています。それにどうやら玉藻が関わっているらしいのです」

「な、何と・・・」

「四国の妖怪が全て凶暴化しているわけではありません。暴れている妖怪も元はおとなしい妖怪ばかり」

「玉藻が妖術で操っていると言うのか?」

「はい、徳島の長老金長狸の言うには、玉藻の目的は日本を妖怪の国にする事。その手始めに四国が狙われたとか」

「では玉藻を倒せば良いのじゃな?」

「できればそれが一番早いのですが、玉藻がどこに隠れているのか長老たちにもわからないのです」

「それで儂にどうしろと?」

「今、徳島の剣山で四国四県の代表が集まって前後策を協議しているところ、できれば先生にその集まりに参加して頂きたいのです」

「儂に妖怪の集会に参加しろと?」

「はい、妖怪の集会なので『妖会』と呼んでも良いかと・・・」

「お久、お主もなかなかやるのぅ」

「お褒めに預かり光栄です。では行って頂けるのですね?」

「うむ、行こう。ただし王も連れて行きたいが良いか?」

「問題ありません、私から長老に連絡しておきます」

「よし、今夜の夜行で岡山まで行けば、明日の朝には徳島に着くじゃろう」

「はい、ではよろしくお願い致します」


*************************************************


「玉藻は標的を変えたのか?」平助の話を聞き終わった王が首を傾げた。

「直接儂らに当たるのは分が悪いとみて、間接的に儂らを苦しめる作戦に出たのやも知れぬ」

「だとすると迷惑な話じゃな」

「わからぬぞ、日本を妖怪の国にすると言うのが奴の本来の目的であって、凛の事は片手間であったのやも知れんな。儂らが介入した事で凛のことは後回しにしたと言う可能性も否めん」

「いずれにせよ我等の目的は一つじゃ。玉藻を倒す事だけを念頭に置いておれば良い」

「その目的のためには目の前の問題を一つづつ片付けていかねばならんと言うことか」

「そう言う事になるな」

「王、異国のお主に頼むのは心苦しいが、儂らに力を貸してくれるか?」

「当たり前じゃ、こんな楽しい事途中で抜けられるか」

「お主は偉いの、少し前は母国を救い今度はこの日本までも・・・」

「みなまで言うな、ワシとお前の仲であろうが」

「礼を言う」

「水臭いぞ」

爺い二人はしっかりと頷きあった。

「では早速出発するとしよう、最終の夜行に乗れなければならん」


「待って!」

天井から凛がひょいと顔を出す。

「私も行く!」

スカートの裾を翻し、ストンと床に降り立った。

「儂らは妖怪の集会に出るのだぞ」平助が言った。

「そうじゃ、妖怪は凛々の管轄街じゃろ?」

「でも、その先に玉藻がいるんでしょ?だったら無関係じゃないわ」

「それはそうじゃが・・・」

「何が起こるかわからんのだぞ」

「それはお爺ちゃんたちも一緒じゃない、そんな危険なところへ二人だけで行かせるわけにはいかないわ」

「ううう、良い娘じゃ・・・・平助、凛々も連れて行ってやろうぞ」

「凛は言い出したら聞かんからのぅ」

「わぁ、ありがと!私一度夜行列車に乗ってみたかったんだ!」

「これ、物見遊山ではないぞ」

「わかってるわよ、じゃあ熊さんにこの事を伝えてくる」

凛は道場を飛び出して、熊さんの住む裏庭の小屋へ駆けて行った。

「熊さんまで行くと言いださんじゃろうな?」

「熊さんにはこの道場をしっかり守っておいてもらわねばならん。四国へは三人だけで行く」

「うむ、それがよかろう」


ホームに白い蒸気が立ち込める。

博多駅21時発急行阿蘇が汽笛を鳴らして駅を後にした。

「すまんな、急な事で寝台車の切符が取れんかった」

向かい合わせに四人がけの座席に座ると、平助が言った。

「なんの、気にする事はない。ワシはこの窓から見える深夜のプラットホームが好きなのじゃ。あの侘しさがたまらん」

「そうよ、せっかく夜行列車に乗ったのに眠るなんて勿体無い!」

平助と王の正面に座った凛は、博多の夜景に目を輝かせている。

「腹が減ったじゃろ、さっき買った駅弁を食うか?」

「ううん、この街を出たら灯りなんてほとんど見えなくなるでしょ、それまでは外の灯りを見ていたいの」

「そうか、食べたくなったらいつでも言うのじゃぞ」

「は〜い」凛は窓に額を押し付けるようにして空返事をした。

「平助、岡山まではどのくらいじゃ?」

「そうじゃの大体七〜八時間というところか。いずれにしても着くのは明け方じゃ」

「それからはどうする?」

「普通列車に乗り換えて宇野港まで行く、大体一時間の行程じゃ。宇野港から高松港までは船で一時間、高松港から徳島まではジーゼルの機動車でほぼ三時間じゃの」

「長い道のりじゃ」

「儂も久しぶりの長旅じゃ、まぁのんびり行こうぞ」

「そうじゃな、凛々も楽しんでおるようじゃし・・・」

「あ〜もう何も見えなくなっちゃった」凛がつまらなそうに言った。

「この辺は田んぼばかりじゃからの、灯りなど望めんわ」

「そうとわかったらお腹がすいてきちゃった、駅弁食べましょ!」

「全く現金な奴じゃて」

夜も更けて座席車両の客も大方眠りについた頃、夜汽車の汽笛が響き、列車は関門トンネルを抜けて本州に入った。


「おはよぅ・・・」

凛が眠たそうに目を擦った。窓の外はまだ真っ暗である。

「もうすぐ岡山に着くぞ」

「お爺ちゃんたちちゃんと寝たの?」

「ああ、年寄りは朝が早いんじゃ」

「お前は涎を垂らしてよく寝ておったぞ」

「ひど〜い、うら若き乙女に向かって」

「ははは冗談じゃ、そろそろ降りる準備をしておけ凛」

5時過ぎに着いた岡山駅のホームは、秋の気配が漂っていた。

「寒くないか?」

「うん、少し」

「では、そこの立ち食い蕎麦屋で温かいものでも食って行こう」

「さんせ〜い!」

「平助時間は良いのか?」

「乗り継ぎはすぐそこの改札じゃで問題はない」

「そうか、ならば食って行こう。駅の立ち食い蕎麦には色々と思い出がある」

「えっ、どんな?」

「話せば長くなる、次の列車の中でゆっくり話してやろう」(拙著『平助と王 日・台爺い絵巻ep10 爺い徘徊参照)

「うん、絶対よ!」

「絶対じゃ!」


終点の宇野駅を出るとすぐ目の前が港だ。夜明けの空の下、港には白い連絡船が煙を吐いている。

ここから高松港まで第三宇高丸で約一時間の航海だ。

船が離岸すると、瀬戸内の穏やかな波間に朝日がさす。

「あっ、なんかいい匂いがする」凛が鼻をひくつかせて言った。

「この船の名物『連絡うどん』じゃ」

「えっ船の中でうどんが食べられるの?」

「そうじゃ」

「食べた〜い!」

「さっき蕎麦を食べたばかりじゃろう」

「だって育ち盛りの乙女なのよ、あれくらいじゃ足りないわ」

「育ち盛りって・・・」お主いったい幾つじゃ・・・とは言えない平助であった。

「平助、食わせてやろうぞ。まだ先は長い」

「う、うむ仕方がない」

凛は熱々のうどんに息を吹きかけながら、幸せそうに目を細めた。


高松駅から高徳線で徳島まで。

気動車キハ17形に乗って三時間、小さな駅をいくつも過ぎ阿波の山並みが見えてくる。

四国第一の河川、吉野川を越えると徳島の町が目の前に広がった。









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