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妖怪 王  作者: 真桑瓜
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弟子三態

しばしの休息。

しかし師弟は玉藻との戦いを顧みて、その至らなかった点を、それぞれに克服しようと奮闘する・・・


「そのような事があったのですか・・・」

一つ目神社の神主、御子神天鬼が言った。御子神の横には一つ目族の娘お久がちょこんと座っている。

「これでここにおる全員が玉藻の敵となったわけじゃ」平助が言った。「其方たちには申し訳ないが、我々に手を貸した以上玉藻が黙って見過ごす筈は無い」

「私はよろしいのですがお久まで危険な目に遭わせるのは気が進みません」

「そうじゃのぅ、そんなつもりはなかったのじゃが・・・」

「私、皆さんにご恩返しがしたいの。お父ちゃんがいつも言ってる、受けた恩は絶対に忘れてはならぬ、いつか必ず返すのだよって」

「しかし年端もいかぬ子供のお前に・・・」御子神が言った。

「私、玉藻と戦ったりはできないけど、情報を集めたり異変を知らせたりすることはできるわ」

「じゃっど、今回はお久のお陰で仙狐との戦いに勝てたんじゃ。じゃっどんおいもこげな子供ば危険な目に遭わすっとは反対じゃ、何かよか案はなかじゃろか?」

「ごめんなさい、私のためにみんなを巻き込んじゃって・・・」凛が申し訳なさそうに頭を下げた。

「さっきも言うたが、これはもうお主一人の戦いでは無いのじゃ、気にするな」

「そうよ凛ちゃん、あなたはただ自分の使命を全うしただけだもの」

「でも・・・」

「あ、じゃあこうすればどうです、お久ちゃんには雲外鏡で情報を集めてもらったら。この神社は結界に守られているのでしょう?だったらここが一番安全だ」

「うむ、一人でいるよりその方が良いかもしれん。槇草、お主たまには良いことを言うではないか」

「では、私が結界を裏の草原にまで広げておきましょう。そうすればお久はいつでも家に帰れる」

「お久、それで良いな?」

「はい、みんなの足手纏いにならないように頑張ります」

「健気じゃのぅ、台湾にもノラと言う小学生がおっての、お久はその子とそっくりじゃ」王が涙目でお久を見た。

「王よ、もう台湾に帰りたくなったか?」

「バカを言え、こんな強敵を前にしておめおめと台湾になど帰っておられるか!」

「わはははは、冗談じゃ・・・とは言え我々も一旦日常の生活に戻らねばなるまい。皆くれぐれも用心するのじゃぞ」

皆が真剣な表情で頷いた。


**************************************************


「凛、家の周りに水ば撒いたらちぃっと道場にこんね」

道場の窓を開けながら熊さんが言った。

「もう道場のお掃除は済んだの熊さん?」

「済んだ、あと神棚に榊と水ば上げたら終わりじゃ」

「分かった、こっちももう少しで済むからちょっと待っててね」

凛は急いで水を撒き終わるとエプロンで手を拭きながら道場に入ってきた。

綺麗に吹き上げられた床からは、神聖な雰囲気が漂ってくるようだ。

「来たか」

「用事はなぁに、熊さん?」

「なに、ちょっとばっかしこん前の復習ばしようと思うてな」

「復習って?」

「おはんと玉藻の戦いたい。おはんは玉藻に比ぶっと、ちと武術の修練の足りんごたる」

「そうねぇ、死神は鎌は持ってるけど普通は戦うわけじゃないからね」

「これから玉藻と戦うなら、武技ば覚えとった方がよか」

「そうね、どうすればいい?」

「おいが稽古ばつけちゃるけん、鎌ば出さんね」

「分かった」

「おいは薙刀ば持ってくっで」

熊さんは壁まで歩き、設えてある刀掛けから薙刀を手に取った。

凛はエプロンを取り、大鎌の柄尻を床につけて待つ。

熊さんが戻ってきて二間ほどの間合いをとると凛に向かって礼をした。

慌てて凛も礼を返す。

「好きなように掛かってこんね」

「いいの?」

「よか、手加減は無用たい。全力でこんね」

「よ〜し!」

凛が大鎌を右脇に引き付けて構えると、熊さんは左足を前にして薙刀を水平に構えた。

素早く前に出ながら凛が熊さんの胴を狙って鎌を降る。

熊さんは左足を引き、薙刀の石突を返して鎌を受け止めた。

凛は鎌を振りかぶり、さらに前に踏み込んで上からの攻撃を試みる。

熊さんは左右の半身を入れ替えながら、刀身を回して凛の首スレスレで刃を止めた。

「ありゃ、上手くいったと思ったのに!」

凛が引き下がって間合いをとった。

「薙刀相手に大振りは禁物たい、武術は最小の動きで最大の効果ば上げるごつ躰ば捌かにゃならん」

「よし、じゃあ次は・・・」

凛は大鎌を右の肩に担ぐように構えた。

熊さんは刀身を下に向けた下段の構え。

「えぇえーい!!!!」

右足を大きく踏み込んで袈裟に斬り下ろす。

『どう、これで最短距離を刃が行くわ!』凛は心の中で叫んだ。

熊さんは下段の刀身をひょいと上げる。

「わっ!」

凛が急ブレーキをかけた車のように止まった。

「どうじゃ前に出て来れんじゃろう」

薙刀の刃が凛の脛前で止まっている。

「ずるーい!」

「何がずるいじゃ、『武術は一撃で相手を倒すもの』なんぞという固定観念を抱いておるからそう言うことを言うんじゃ。派手な技が有効な技ちゅうわけじゃなかぞ」

「そういえば玉藻も動いたようには見えなかったなぁ」

「小さく動けばよかと言うもんでもなかぞ。躰全体を少しづつ動かして一つの大きな技として完成させるんじゃ。じゃからこそ最小の動きで最大の威力とスピードば実現でくっとじゃ」

「むつかし〜い!」

「これから暇を見つけて稽古ばつけちゃる。これも玉藻に勝つための試練じゃと思え」

「うん、分かった。熊先生よろしくお願いします!」

凛は深々と頭を下げた。

「さて、次は台所に行っぞ。今日はカレーの作り方ば教えちゃる」

「え〜、少し休ませてよ」

「ダメじゃ!」

熊さんはさっさと台所に向かった。


*************************************************


「師匠、今日の稽古が終わったら僕の家で一杯やりませんか?」

「うむ、良いがどう言う風の吹き回しじゃ?」

「実は小太郎のやつが先生に会いたがっているのですよ。美希も久々に先生にお会いしたいと申しておりまして」

「そうか、儂も小太郎の顔を暫く見ておらんの。美希さんにお父上の様子もお聞きしたいし、お主の言葉に甘えるとするかの」

「良かった、でもその前に一つお聞きしたいことが・・・」

「何じゃ?」

「あの時思わず玉藻の前に飛び出してしまいましたが、あれで良かったのでしょうか?」

槇草の顔がいつもの惚けた表情から真剣な顔に変わった。

「お主はどう思うのじゃ?」

「メイメイさんを守ろうと、玉藻の薙刀を力で受け止めてしまいました。玉藻が続けて攻撃してきたらとても受けきれなかったでしょう。師匠方が玉藻の周りを囲んだため、玉藻は攻撃を中止したのだと思います」

「そうか、そこまで気がついておれば良い。あの時一瞬じゃが躰が居着いておった。あそこは受けた流れのまま次の技に繋げるべきじゃったな。そうすればあそこで玉藻を仕留められたかもしれん」

「僕の失態です」

「いや、あれで良かったのやも知れぬぞ。もしお主の技が失敗しておったら、おそらくメイメイは無事では済まなかったろう。瞬時にそのリスクを計算できねば味方を危険な目に遭わせることになる」

「はい、そのリスクをこの先少しでも少なくするための稽古を、今から僕につけていただけませんか?」

「良いじゃろう、儂はもうお主に教える事など何もないと思っておったが、まだ少しは残っておったようじゃな」

「いえ、師匠にはまだ教えて頂かなくてはならぬ事がたくさんあります。玉藻の出現はその事を僕に思い出させてくれました」

「ふふ、お主のその目、久方ぶりに見るのぅ」

「では、お願いいたします。今日の酒はきっと美味くなりますよ」


*************************************************


「メイメイ、ちょっと良いか?」

「はい、何ですの王先生?」

「玉藻との戦いの中で、一つだけ気になるところがあってな」

「はて、どの場面でしょう?」

「お前が玉藻の薙刀を頭上にやり過ごした場面じゃ」

「その事が何か?」

「やはり気づいておらなんだか。それではこの先もっと危険な目に遭うかもしれんな」

「先生らしくもありません、もっとはっきり仰ってください」

「あの場面、お前は高く跳び上がって飛び蹴りを放った。あそこは逆に地に伏せて玉藻の足を狙うところじゃ」

「あ・・・」

「なぜに跳んだ?」

「別に考えていたわけではありません、気がついたら勝手に跳んでいたのです」

「素晴らしい反射神経じゃ。だが時にはその反射神経が身を滅ぼす事もある」

「確かに、兄と稽古をする時、次の行動を読まれて先手を打たれる事がよくありました」

「並の相手ならその心配はない。しかし子龍ほどの手練れならそうなるであろうて」

「では、どうすれば宜しいのでしょう?」

「反射神経を抑える反射神経を養う事じゃ」

「それはどうやって?」

「やってみたいか?」

「是非!」

「では、今から儂の繰り出す技を、受けたり躱したりせず全て紙一重で見切って見せよ」

「そんな、先生の技を見切ることなんか私にはできません」

「それをやるんじゃよ。今度玉藻に会ったらこの前のようには行かぬ。命が惜しくばワシの技に必死で喰らいつけ」

「は、はい!」

それから王の容赦のない攻撃が小一時間の間続いた。

「ハアハアハア・・・・」

メイメイが両手を床について肩で息をした。汗が道場の床に水溜りを作る。

「よし、今日はこのくらいで良かろう。じゃが玉藻がいつ現れるかわからん、あまり時間はないと思え」

「あ、ありがとうございました・・・」

「今度の戦いがどのような展開になるか予想もつかんが、最低限自分の身は自分で守れるようになることじゃ。それが一緒に戦う仲間に迷惑をかけぬただ一つの方法じゃ」

「はい・・・」

「厳しい事を言うたが、ワシは可愛い弟子のお前に死んでほしくはないのじゃよ」

ここで王はメイメイの嬉し涙を期待したが・・・いきなりメイメイが立ち上がった。

「よ〜し、家に帰って陽さんに手伝ってもらおう!先生、今度お手合わせ願う時は必ず一矢報わせて貰いますからね!」

そう言うとメイメイは玄関を飛び出して行った。

王がガックリと肩を落とす。


「わははははは!」

どこから見ていたのか、平助が現れた。

「王よ期待が外れたな。せっかく美しい師弟愛の場面じゃったのにな」

「平助、お前いつから見ておった!」

「そうよのぅ、『命が惜しくばワシの技に必死で喰らいつけ』のあたりかの?」

「貴様、人を馬鹿にしくさって!」

「お主妖怪になったのではなかったかな?」

「もう許さん!尋常に勝負せい!」

「応、望むところじゃ!」


その夜、妙心館の明かりが消える事はなかった。

(ちなみに陽とはメイメイの夫であり、槇草の妻の実家の剛道館空手道場の師範代でもある)






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