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妖怪 王  作者: 真桑瓜
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野孤

熊さんと共に妖狐の潜む稲荷神社に偵察に出た凛は、突然現れた狐火に向かって大鎌を振り下ろした・・・


「凛、大丈夫か、きつかったら空を飛んでついてきてもよかとやぞ?」

熊さんは息を切らしながら必死でついてくる凛に声をかけた。

「だ、大丈夫、と、飛んだら玉藻たちに見つかっちゃう・・・はぁはぁ・・でも、熊さんこんな山の中でも歩く速さが普段と変わらないね」

「おいは妙心館の居候になる前は、日本全国を武者修行して巡っちょった。修験道と一緒に荒業したこつもあったい。こげな低か山なんぞ、平地ば歩くようなもんじゃ」

「すご〜い!」凛が目を見張って驚いている。

「そげんたいしたこつはなかばってん・・・」

熊さんがリアクションに困っている時、突然目の前に丹色の鳥居が現れた。鳥居からは長くて急な石の階段が山頂に向かってまっすぐに延びている。

「よし、こっからは用心して行くばい」

「了解」

身を屈めてそろりそろりと階段を上って行く。

百段ほど上ったところで平な踊り場のような場所に出た。

拝殿の真上に上弦の月がかかっている、という事は大体九時頃か。

月の薄明かりで左右に迫るものが見えた。

見ると石造りの狛狐(こまぎつね)が向かい合わせで立っているが、その首は侵入者を拒むようにこちらを見下ろしていて、牙を剥き出した口元が恐ろしげに開かれていた。

「なんとも気味の悪か狛狐たい。凛、嫌な予感のする、裏に回ろう」

「そうだね」

二人は右の狛狐の後ろから拝殿の後ろに回り込もうとした。

「凛、この神社本殿のなかぞ」

見ると拝殿の後ろは断崖絶壁で、深い谷になっている。

「という事は、御神体は後ろの山ね」

「そん通りじゃ、ここは自然そのものば神として祀っとる神社たい」

熊さんが更に拝殿に近づこうとした時・・・

「よくここがわかったな」

背後から声がして振り向くと、そこに銅色の狐火が燃えている。

「出たな妖怪!」

「ふん、妖怪とはご挨拶だな。俺らは神だ、その証拠にこの神社に祀られておる」

「何が神じゃ、貧乏神も疫病神も神は神じゃろう」

熊さんは槇草から預かった鬼切丸を袴の帯に差し込むと、左の親指で鯉口を切った。

「待って、私がやる!」

凛が熊さんの前に飛び出した。

「凛、其奴はおいが・・・」

「熊さんそいつは野孤よ、妖狐の中でも低級な霊、神になるには程遠い存在よ」

「言ってくれるではないか、元死神の分際で」

「あんたなんかに神は名乗らせないわ!」

「なるほど、生意気な奴だ玉藻様や仙狐様がお出ましになるには及ぶまい、俺が片付けてやる」

「姿を現せ妖狐!」凛が高く飛び上がり狐火に向かって大鎌を振り下ろした。

途端に狐火は消え去ってその背後に侍姿の男が出現した。

「それがあんたの借体ね」

「俺はこの姿で肥後熊本藩の剣術指南役までいったのだ」

「どうせ悪知恵を働かせて人を騙したんでしょう」

「試してみるか?」

「もちろん!」

「凛、気をつけろ。そやつ出来っぞ!」熊さんが言った。

「大丈夫、見てて熊さん」

「しょんなか奴じゃ」

熊さんは諦めて一歩後退さる。

野孤はスラリと剣を抜いた。

凛は大鎌を右の脇に引いて構えた。

「行くぞ!」

野孤が右八相の構えで走り寄る。

凛の鎌が唸りをあげて野孤の足を薙ぎ払った。

刹那、野孤は虚空高く舞い上がる。同時に剣を大上段に引き上げて真っ向から凛の頭に振り下ろした。

「もらった!」

その瞬間、空を斬ったはずの凛の鎌が刃先を上に向けて競り上がって来た。

ガキッ!

剣と鎌が火花を散らす。

野孤はかろうじて着地すると剣を青眼に構え直した。

「やるな!」

「あんたこそ!」

間髪を入れず凛が大きく一歩踏み出すと鎌が野孤の首を狙って閃いた。

剣が鎌を受け止めた途端、野孤の膝が崩れ落ちた。

「油断したわね、鎌は刃だけが武器じゃないのよ」

見ると鎌の柄尻が野孤の鳩尾を捉えていた。

「終わりにしましょう」

凛の鎌が月の光を反射して一閃した。

野孤の首は虚空に跳ね上がり、狐火となって夜空に消えていった。

「ふう・・・」

額に流れ落ちる汗を右の袖口で拭う。

「凛、ようやった!」

熊さんが駆け寄ってくる。

「あらあら、どうやら失敗したようね」

「誰じゃ!」

凛と熊さんが振り向くと、まるで歌舞伎の女形のような優男が立っていた。

「凛、ここはおいに任せて師匠たちにこん事ば伝えに行け」

「熊さん・・」

「こんままやったら他の奴も出てくっじゃろ。おいはこいつを片付けたらすぐに戻っで心配なか」

「で、でも・・・」

「早よいけ!」

「は、はい・・・」

熊さんの剣幕に、凛は空に舞い上がった。

「きっと帰って来てね!」

「わかっとる」


凛は振り返る事なく、一つ目神社に向かって飛んだ。







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