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妖怪 王  作者: 真桑瓜
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玉藻


「それは『玉藻』と呼ばれる九尾の狐に相違ありません」

一つ目神社の神主、御子神天鬼は言い切った。

「それはどのような妖怪なのじゃ?」平助が訊く。

「中国の三大奇書『三国志』『水滸伝』『西遊記』に匹敵すると言われる古典『封神演義』によれば、翼州公蘇護(そご)の娘妲己(だっき)に化け、商の紂王(ちゅうおう)をその色香で惑わし、国を滅ぼしたと言われる千年の女狐です」

「では中国の妖怪なのか?」

「はい、それが平安末期鳥羽上皇の御代、宮中に突然現れたと申します。歌も舞も経文も嗜み、誰もが心を奪われる程の絶世の美女だったそうです。やがて鳥羽上皇の寵愛を一心に受ける事となりますが、安倍泰成という陰陽師に正体を見破られ那須野ヶ原で討たれました。その身は殺生石となって近づく者を悉く死に至らしめたと言う事でございます」

「そんな恐ろしい女には見えなかったけどなぁ」凛が首を傾げている。

「多分ですが、妲己は一度中国で討たれております。それが日本で玉藻として蘇る時にはその妖力が充分に育っていなかったのではないかと思われます」

「じゃあ、会うのがもっと遅かったら、私やられていたかもしれないのね?」

「おそらくは・・・」

「じゃがなぜそれがメイメイに化けた妖狐だとわかるのじゃ?」

「それは九尾の狐が化けるのは絶世の美女だと相場が決まっているからです」

「あら、神主さんたらお上手」

「いやメイメイ、それはそれで充分な説得力があるぞ」

「まぁ、無門先生まで・・・」

周りを見ると皆うんうんと頷いている。

「僕は会っていないから分かりませんが、その狐そんなにメイメイさんにそっくりだったのですか?」最近すっかり怪異に慣れてきた槇草が訊いた。

「そっくりもそっくり、瓜二つじゃ。師のワシが騙されたのじゃから間違いない」王が悔しそうに歯噛みする。

「僕も会ってみたかったなぁ、その狐」

「バカを言うでない、女に弱いお主などあっという間に取り憑かれて一巻の終わりじゃ!」平助が槇草を睨みつけた。

そんな槇草に、一時的とは言えメイメイが惹かれていたとは世の中はわからぬものである。(拙著 平助と王 日・台爺い絵巻 第6話 宋江陣参照)

「じゃがいずれ、嫌でも会わねばならぬ時が来る」王の表情が厳しくなった。

「じゃっどん、どっから来るかわからんもんば、どうやって防げばよかでっしょう?」

「そこでじゃ」平助が御子神を振り返る。「神主殿のお力を貸して頂きたいのじゃが」

「私でよければ喜んで。ですが何をすればよろしいのでしょう?」

「雲外鏡で情報を集めて貰いたい」

「玉藻の情報ですね?」

「さよう、どんな些細なことでもかまわぬ、玉藻の動向を知る手掛かりは一つでも多い方が良い」

「そうか、先手を打つのじゃな!」王が膝を叩いた。

「そうじゃ、待っていては玉藻の思う壺、先手必勝は武の習いじゃ」

「はて、『空手に先手なし』ではなかったかの?」

「それは敵の出方を待って、後から攻撃すると言う意味では無い。敵の気を察知したら敵が動く前に制すると言う事じゃ」

「フハハわかっておる平助、お前の覚悟を確かめたかっただけじゃ」

「覚悟などいつでも出来ておるわい」

「そうじゃったな、すまんかった」

「では先生方、雲外鏡を起動させます」

そう言って御子神は雲外鏡の覆いを取った。


ブゥン・・・雲外鏡に光が宿った。

「早速反応があったようです」雲外鏡に向かって呪を唱えていた御子神が皆を振り返った。

「ややっ、お前は!」雲外鏡を覗き込んだ途端、王が声を上げた。

「久しぶり爺さん、それにそっちは確か・・・」雲外鏡の映った顔がメイメイを見る。

「リー・メイよ。でも、もう知らぬ仲じゃないし、メイメイでいいわ」

「お主ら知り合いなのか?」平助が二人を交互に見やった。

「うむ、メイメイのマンションの近くにある公園の池に棲んでいる河童じゃ。一度メイメイに悪さをしようとしたから懲らしめた事がある」(当作品ep4『河童』参照)

「ひどいなぁ爺さん、あの水死体の犯人は俺じゃないってわかってくれただろう?それに俺はメイメイさんにプレゼントしようと思って池の鯉を持って行っただけだ」

「ふふふ、ここにも美女に惑わされた輩がおったわい」

「王先生、もう赦してあげましょうよ。悪気はなかったわけだし」

「ほれみろ、メイメイさんだってこう言ってるんだ、爺さんももっと心を広く持ってだな・・・」

「わかったわかった、あの事はもう時効じゃ。して、今日はなんの用じゃ?」

「なんの用って、玉藻について聞いてきたのはそっちじゃないか」

「なに、玉藻について何か知っておるのか?」

「知ってるよ、でも爺さんには教えない」

「なんでじゃ?」

「さっき意地悪したから」

「じゃから謝って・・・うぐ」

メイメイが王の口を手で塞いだ。

「河童さんお願い、私たちどうしても玉藻の居所を知りたいの。何か知っているなら教えてちょうだい」

「メイメイさんに頼まれたんじゃ嫌とは言えないな」

「ありがとう、恩に着るわ。王先生、静かに聞きましょうね」

「うぐうぐうぐ・・・」王がコクコクと頷くと、メイメイが手を離した。

「プハッ、ワシを殺す気か!」

「だって先生が話すと話が前に進まないんだもの」

「じゃな、王よ暫く黙っておれ」

「うむむ、しょうがない」

「さて河童どの、知ってることを教えてくれ」平助が王に代わって訊いた。

「うん、昨日の晩、人通りも途切れたんで、池の鯉でも獲って食べようと棲家の暗渠から出ようとした時だ。外がやけに明るいと思ったら、中之島に掛かる西の橋辺りに金色の狐火が浮いていたんだ」

河童の棲んでいる池は一周2キロほどの大きな楕円形の池で、東西に幅広くそれを縦半分に分けるように細い島が伸びている。その両端が途切れておりそこには短い橋が掛かっていた。

「狐火とな?」

「そう、最初は金色の狐火が一つだったんだが、そのうちポツポツと増えていって全部で五つになった」

「金色の狐火が五つということか?」

「いや、金色のは一つであとの二つが銀色で残りの二つは銅色だったな」

「という事は、位の違う妖狐が五匹いるという事か」

「そうだな、狐火一つ一つにうっすらと狐の影が見えていたような気がする」

「金色の狐火が玉藻であるとするならば、あとは・・・」

「冥狐だと思います」御子神が言った。

「冥狐じゃと?」

「はい、九尾の狐玉藻の配下の者かと」

「どんな奴らじゃ?」

「名は仙孤・空孤・気孤・野孤と呼ばれこの中では仙狐が一番位が高く野孤が一番低いとされております。ちなみに九尾の狐となったものは天狐と呼ばれほとんど神に近い存在と言われております」

「では玉藻は天狐というわけじゃな」

「左様でございます」

平助が雲外鏡に向き直る。

「で、その狐火の向かった方向は?」

「中之島を渡り切って東の橋から山の方に向かって行った」

「行き先はわからぬのか?」

「俺は水に住む妖怪だ、そんな沢山の狐の妖怪なんておっかなくって追う気にもならないよ」

「じゃろうな・・・」

「無門先生、山の方に向かったのならもしかすると・・・」

「神主殿、何か心当たりがあるのか?」

「はい、愛宕山という山があります。それほど高い山ではありませんが、その山頂にこの辺りではお狐神社と呼ばれる古い社があるのです」

「なるほど、それは怪しいな」

「一度調べてみる価値はありそうですね」

「そんならおいが行きまっしょ」熊さんが手を挙げる。

「一人で行くのか?相手は妖狐じゃぞ」

「じゃっどんまずは本当にそこにおるのか確かめんば。それに狐が怖うて稲荷は食われんでっしょう」

熊さんが変な理屈を口にした。

「熊さん私も一緒に行く!」凛が立ち上がる。

「よか、おい一人の方が目立たん」

「ダメ!玉藻は私を狙っているの。狙われて逃げ隠れするなんて絶対に嫌!」

「じゃっどん玉藻の妖力は凛の出会った時とは比べもんにならんのじゃろ」

「玉藻が怖くて毬藻(まりも)が食えますかってんだ!」

「凛、毬藻は食えりゃせんぞ」

「いいの、とにかく絶対に行く!」

絶対に引かない覚悟の凛である。

「しかたんなかね、じゃっどん危のうなったらすぐ引っ返すで、おはんも無茶はすっじゃなかぞ。今回はそこに奴らがおっかどうか確認すっのが目的じゃけん」

「わかった!」

「凛ちゃん、くれぐれも無理しちゃダメよ」

「はい、メイメイさん。熊さんに迷惑はかけません」

「熊さん、道場に戻って刀を持って行け」平助が言った。

「そげんしますたい」

「それじゃ、僕の鬼切丸を持って行ってください」

「おお、姑獲鳥(うぶめ)に貰ったっちゅう妖刀じゃな」

「きっとお役に立ちますよ」

「すまんな師範代、ありがたくお借りすっで」

「俺の出番はここまでだ。河童がこんなこと言っちゃおかしいかもしれんが、武運を祈ってるぜ」

そういうと雲外鏡から河童の姿が消えて無くなった。










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