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妖怪 王  作者: 真桑瓜
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雷獣

雷獣に大鎌を叩き落とされた凛。絶体絶命のピンチに熊さんの取った行動は・・・


凛は大鎌を手にして、雷獣と正面で対峙していた。

黒雲に乗った雷獣は牙を剥き出して凛を威嚇する。

「グルルルル!お前は何者だ、空を飛べる人間なんて見た事も聞いた事もないぞ」

「私は元死神、あんたをその雲から叩き落とすために来たのよ」

「お前はなぜひょうすべの味方をする、これは俺とひょうすべの問題だ」

「あんたが雷を落とすから関係ない人まで迷惑してるの。それにあんたを連れ戻して欲しいって、道真公の依頼でもあるのよ」

「目的を果たしたら戻るとご主人様に伝えてくれ」

「そうはいかないわ、ひょうすべのおじさんも悪気はなかったの。ただあまりにも菅原洋吉が好きすぎてちょっと調子に乗っちゃっただけ」

「そんなことは関係ない、菅原洋吉はもう少しで死ぬところだったんだぞ」

「だから謝りたいって下に来てるの。あんたが降りて行かなきゃ謝れないでしょ」

「だったらあの人間たちは何だ?鉄の籠まで持って俺を捕まえようとしているじゃないか」

「あんたが大人しく道真公の元へ帰るならその必要もなくなる」

「無駄だ、俺はひょうすべに天罰を下すまでは帰らん」

「もうあんたには何を言っても無駄ね。今叩き落としてやるから覚悟しなさい!」

「その言葉、そっくりお前に返してやる。さっさとかかってこい!」


時は昨日の夜に遡る。

耳川の川辺で火を囲み、ひょうすべの獲って来た魚を焼きながら作戦を練った。

「雷獣が雷を落とせるのは雲に乗っている時だけです」御子神が鮎を齧りながら言った。「地上に堕ちればただの獣、勝機は十分にある」

「ただ怪我をさせてはならん。そんな事をすれば道真公の怒りを買ってもっと大事になる」

「その通りです。五体満足で捕まえなくてはなりません」

「槇草、武器は何を持ってきた?」

「えっと、弓矢に刀と槍、薙刀、それにサイと十手あと鎖鎌もあります」

「それじゃ!」

「え、鎖鎌ですか?」

「傷つけずに捕らえるには分銅で絡め取るしか方法はあるまい」

「なるほど」

「鎖鎌はいくつある?」

「二本持って来ましたが」

「よし、儂と熊さんが持つ。お前は素手で雷獣の前に立て」

「ええっ!それじゃ僕が貧乏くじじゃないですか!」

「何を言う、お前が一番若くて体力もある。できるだけ逃げ回って雷獣を疲れさせるのじゃ」

「そんなぁ、もし噛みつかれたらどうするんですかぁ!」

「心配せんでんよか、そん前においが雷獣ば捕まえちゃる」

「ほんとかなぁ、何だか頼りない気がするけど」

「大丈夫じゃ槇草、儂もおる」

「でも師匠・・・」

「お前は儂が信用できんのか!」

「い、いえ滅相もない・・・わかりました、やりますよ、やればいいんでしょ!」

半分ヤケ気味に槇草が頷いた。

「捕獲後は私の呪を込めたお札を貼って霊力を封じ込めます」御子神が言った。

「じゃが問題は、どうやって雷獣を地上に降ろすかじゃ」

「はいっ、それ私がやります!」凛が手をあげる。

「凛、危険な真似はせんちゅう約束じゃろ!」

「だって空を飛べるのは私だけだよ」

「弓矢で撃ち落とせばよか」

「それじゃ雷獣に怪我をさせちゃうでしょ。私がやった方が確実よ」

「ぐぬぬ、そりゃそうじゃが・・・」

「熊さん、弓矢が使えないんじゃそうするしかないでしょう」槇草が言った。

「凛、何か考えがあっとじゃな?」

「そんなもの無いわ。正面からこの大鎌で叩き落とすだけよ」

「じゃっどんそん鎌ば使うたら大怪我させるとじゃなかか?」

「そんなヘマしないわよ。殴るときは柄を返して刃の反対側で殴るから」

「それしか方法はなさそうじゃな」平助が決断するように言った。「凛、大丈夫じゃな?」

「まかせて!」

「俺が雷獣の巣まで案内する」ひょうすべが言った。

「良いのか?」

「雷を落とされるよりマシだ。それにこうなった原因を作ったのは俺だからな」

「よし、明日はその作戦で行く、皆しっかりと躰を休めておけ」


凛は大鎌を右頬につけるように立てて構える。

雷獣は黒雲を操作して右に回り込むと、矢のような稲妻を凛に向けて放った。

その瞬間凛は身を沈めた。

黒雲の下を潜って背後に躍り出る。

「えいっ!」

大鎌の柄をクルリと回して雷獣に叩きつけた。刃先の攻撃ならこれで決まっていただろう。

「甘い!」

雷獣が鎌を躱して垂直に上昇する。

途端に雷が落ちてきた。

「きゃっ!」

手に持った大鎌が弾き飛ばされた。

「これで形成逆転だ!」

雷獣は雲を飛ばして一気に間合いを詰める。

雷獣の牙が凛に迫った。

ヒユ〜〜〜〜〜〜〜

その時、笛のような音を引いて矢が飛んできた。矢は雲を突き抜けて雷獣の腹に当たった。

「グエッ!」

だが矢は刺さる事なく地上に落下した。矢は鏑矢(戦いの前に敵を威嚇する為の矢)だったのだ。

「凛、大丈夫か!」熊さんが怒鳴った。

「ありがとう熊さん!」

凛は体勢の崩れた雷獣に体当たりを喰らわせた。

雷獣は一瞬足を踏ん張って耐えようとしたが、凛の放った前蹴りによりあえなく雲から落ちていった。


どさっ!

「私の思っていたのよりずっと大きい!」地上に落ちてきた雷獣を見て御子神が叫んだ。

文献では大きくて狸ほど、小さければモグラくらいの大きさの筈だ。

「グルルルルル!」

狼に似た獰猛な獣が目の前で唸りを上げた。違うのは四本の後ろ足と二本の尻尾。

「凛はこんな奴と戦っていたのか!」槇草が目を丸くしている。

「鎌の落ちてきたけん盲滅法雲を射たとじゃが、こげな奴じゃったとは・・・」

「感心している暇は無い、さっさと片付けるぞ!」

鎖鎌の分銅を回し始めた平助の声に、即座に二人が反応した。

熊さんは雷獣を挟んで平助の向かい側に立って鎖鎌を構える。

槇草は雷獣の前に立って腰を落とす。

雷獣が左右に警戒して少し退った。

槇草が雷獣に向かって突進した。

雷獣が地を蹴った。

ギリギリで躰を躱して雷獣の左に出る。

雷獣が槇草に向き直った瞬間、槇草の正拳が鼻先に炸裂した。

「グオオオオ!」

唸りながら雷獣が後退(あとずさ)る。

「今だ!」

平助の分銅が低い軌道を描いて雷獣の前足に絡む。

「チェストいけ!」

気合いと共に熊さんの分銅が雷獣の後ろ足に飛び四本の足を絡め取った。

ドサリと雷獣が横たわる。

すかさず御子神が駆け寄って眉間にお札を貼り付けた。

雷獣は塩をかけられたナメクジのように動かなくなった。

「槇草、鉄籠を持ってまいれ!」


雷獣は鉄籠の中で大人しくトラックの揺れに身を任せている。

「ひょうすべのおじちゃんあんなに謝ったのに、コイツ返事もしなかったわね」凛が雷獣を指して言った。

「道真公に仕える身としての自負があるのじゃろう」熊さんが言った。

「私には雷獣の気持ちが痛いほどわかります。飼い主に忠誠を誓うのが妖獣としての務めですから」

御子神は鉄籠にそっと手を置いた。

「それにしても私、師範代を見直したわ。コイツの前に立った時の槇草さん、いつもより一回りも二回りも大きく見えたもの」

「じゃっど、じゃっど、伊達に妙心館の師範代を務めてはおらんわい」

「ん、何か言ったか?エンジンの音がうるさくて聞こえなかったぞ!」

運転席から荷台を振り返って槇草が大声で言った。

「おい槇草、前を見て運転せんか!福岡はまだ先じゃ、こんなとこで事故を起こしたら目も当てられんぞ!」

助手席の平助が言った。


後日、御子神の報告によれば、雷獣は道真公にこっぴどく叱られたそうである。











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