表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖怪 王  作者: 真桑瓜
37/67

死神 凛々

台湾の報告に立ち寄った妙心館で、メイメイは王をつけ狙う死神216号と対峙する。

メイメイは死神の大鎌を躱すため飛び上がるが・・・

ここは日本、九州は福岡の妙心館道場。

帰国した翌日、メイメイは台湾での出来事を報告に来たのである。


「ふ〜む、そんな事があったのか・・・」

メイメイの長い話を聞き終えた平助は、腕組みをして唸った。

「しかし、王の奴が無事で何よりじゃ」

「じゃっどじゃっど・・・」

平助の横に控えて話を聞いていた熊さんも、ホッと安堵の息を吐いた。

「王先生はお国の危機ば救ったとですな。ほんに凄か事ですたい」

「うむ、妖怪として蘇った甲斐があったと言うものじゃ。じゃが陳とか言う道士の爺さんと弟子のガオとか言う若者も死神の股を潜ったと言うではないか、今頃死神の世界は大慌てじゃろうの」

「でも、私としては王先生が蘇ってくださったことは望外の幸せです。死神の世界がどうであろうと知った事ではありません」メイメイが言い切った。

「じゃっどん、そんガオとか言う若者もまさか龍王の後継になるとは思いもせんかったじゃろうな」

「生意気な奴ですが悪い奴ではありません。陳老子と共にこの世にとどまってくれれば、王先生も心強いのではないかと思います」

「まぁ急いで成仏することもあるまいて。もう暫くこの世を楽しんでもバチは当たるまい」

「じゃっどじゃっど!」

熊さんが大きく頷いた時、天井からパラパラと埃が落ちてきた。王が居候として妙心館にいたときに棲んでいた場所である。

「誰じゃ!」平助が誰何すいかしたが返事がない。

「ひょっとして王先生が戻ってきとるとじゃなかですか?」

「何?いたずら好きの彼奴のやりそうなことじゃわい。こら王!もうバレておるぞ、観念して出てこい!」

「そうですよ、王先生もお人が悪い、いるんなら早く降りてきてください!」メイメイも調子を合わせる。

天井でゴソゴソと音がしたと思ったら、熊さんの作った通気口がパカっと開いて顔が覗いた。

「だ、誰じゃお主!」

通気口からのぞいた顔は、汚い爺いではなく十六〜七の娘だった。

「あら可愛い・・・」思わずメイメイが呟いた。

「なんでそげんところにおる、早よ降りてこんね!」熊さんが怒鳴った。

娘は無言で天井から逆さにぶら下がると、空中でくるりと回転して音もなく道場に降り立った。

見ると全身真っ黒なセーラー服に身を包み、黒髪を頭の両側でお団子に結い上げた小柄な娘だった。

変わっているのは背丈ほどもある大きな鎌を背負っているところだ。

「誰じゃ?」再度平助が訊いた。

娘はキッと平助を睨んだ。

「死神局局員番号216号!・・・だった」

「お主死神か?しかし、だった・・とはどう言う意味じゃ?」

「私の担当は台湾南部の地域だった。しかし、最近三人の人間に股を潜られて蘇らせてしまった」

「そうか、王の言っていた死神とはお主の事じゃったのか」

「そうよ!でもこんな不祥事は近年稀に見る出来事、その責任を取らされて先日クビになったわ!」

「なに、クビじゃと?死神もクビになるのか?」

「この世のシステムはあの世を真似たもの。この世で起きることはあの世でも起こる」

「そうか、それは不運じゃったの」

「不運だけじゃ済まされないわ!私はその恨みを晴らすためにここに来たの。女の子の股を潜るなんてアイツら絶対に許さない!」

「じゃったらお門違いじゃ、すでに王はここにはおらん」

「そ、そんなことわかってる。死神局のシステムを使えば三人の居所なんか立ち所に知れるわ。だけどクビになった身ではそれもできない。だから最後に見た死神局の情報を頼りにここに来たと言うわけ」

「ふむ、しかしそれも情報が古いな」

「だ、だから貴方たちに王の居所を聞きに来たんじゃない!」

「誰が貴方になんか教えるものですか!」メイメイが横から言った。「王先生をあの世に連れて行くなんて絶対に許さないから」

「あなたさっき死神の世界がどうとかって言ってたわね」

「言ったわよ、それがどうしたの」

「私は王をあの世に連れて行くなんて言ってない、そんな生やさしいものでは済まさない」

「じゃあどうするの!」

「二度と立ち上がれないようにギッタギタのメッタメタにして・・・」

死神は両手で紙をくしゃくしゃにする真似をした。

「ポイよ!」

「そんなことさせるもんですか!」

「ふふ、でももう聞いちゃった。さっきの話で大方の居所は掴めたもの」

死神は不敵な笑みを浮かべた。

「王も厄介な奴に見込まれたもんじゃの」平助が苦笑する。

「無門先生笑い事ではありません。今この娘を止めなければ王先生が危ない!」

「ならばどうする?」

「私が倒します!」サッ!とメイメイが身構えた。

「貴方にはこの大鎌が見えないの?」死神は背負った大鎌を両手で持つと、右頬の横に立てて構えた。

「メイメイ替われ」平助が真顔に戻って言った。

「嫌です!」

「こやつはかなりの強敵じゃぞ」

「師の敵は弟子の敵!ここはいくら無門先生であっても譲れません!」メイメイの覚悟は変わらない。

「仕方のない奴じゃ。じゃが危なくなったら止めに入る、お前が怪我をしたら王に殺されるからな」

「ご心配には及びません。見ていてください」

「もう、別れの挨拶は済んだ?」余裕の表情で死神がメイメイを見据える。

「遠慮は無用よ、存分にいらっしゃい」

「泣いても知らないわよ!」

死神は床を蹴って宙に舞い上がると、構えた大鎌を真上に振りかぶってメイメイに叩きつけてきた。あの華奢な躰のどこにそんな力があるのだろう。メイメイは内心驚きながらも、死神の筋肉の動きから目を離さない。

大きく退がると鎌を返す余裕を与えてしまう。鎌の軌道を見切ってギリギリで躱すしかない。

メイメイが半歩だけ後退すると大鎌の先端が鼻先を掠めて行った。

死神がサッと後退して元の構えに戻った。

「よく見切ったわね」

「私を侮らないで」

「どうやらその方が良さそうね、次は全力で行くわよ」

「望むところ」

再び死神が床を蹴った。

今度は飛び上がらず床を滑るように間合いを詰めてくる。

脇に引きつけられた鎌が水平に走ってメイメイの脛を刈った。

メイメイが思わず飛び上がる。

「かかったわね」死神がほくそ笑む。

メイメイの足の下から大鎌が跳ね上がった。

「えっ!」驚いたのは死神の方だった。メイメイの跳躍が死神の予想を遥かに超えていたからだ。

キェー!化鳥のような雄叫びを上げてメイメイの躰が落ちてくる。

バキッ!

死神が最後に見たのはメイメイの足の裏だった。


**************************************************


『ここは・・・どこ?』

子供の頃、ゆりかごの中で目覚めた時のように薄目を開ける。

母が覗き込んでゆっくりと微笑んだ。

「お母・・・さん」

「あら、気がついたのね」

それは母ではなかった。さっき私と戦った女。そして私をこんな目に合わせた女。

「このっ!」飛び起きようとした瞬間、頭がクラクラしてまた倒れた。

しかし全く痛くない。柔らかい布団の上に寝かされていたからだ。

「まだ無理しちゃダメ、ちょっと脳震盪を起こしたみたいね」

「私、負けたの?」

「いい勝負だったわ、あと一瞬飛び上がるのが遅かったら私の躰は半分になっていたわ」

女が笑った、殺されそうになったのにこの余裕はなに?


「目が覚めたか?」平助が奥の部屋から出てきて訊いた。

「あ、無門先生。どうやら大丈夫のようです。丈夫な子」

「そうか、それは良かった」

「な、なにが良かったのよ・・・私は貴方たちを殺そうとしたのよ」

「じゃがみんな生きておる」

「それはそうだけど・・・」

「お主名は?」

「死神に名前なんか無いわ、ただ216号と呼ばれていただけ」

「これからどうするのじゃ?」

「わからない、行くアテなんかどこにもないもの」

「じゃったらここにおったらよか」熊さんが言った。手に濡れた手拭いを持って立っている。「おんしの額、たんこぶのできとるぞ。これで冷やすがよか」

「でも・・・」

「王先生のおった屋根裏が空いとる、爺い臭いが野宿より良かろう」

熊さんが額に乗せてくれた手拭いは、冷たくて気持ちが良かった。

「そうしなさい、いつか死神局に戻れる日が来るかもしれないでしょ。それまでこの世の事をもっと学べばいいわ。きっとあなたの役に立つはずよ」

死神は大きな声で泣いた。子供の頃母に甘えた時のように。

「そうと決まれば名前がいるわね」メイメイが死神の頭をそっと撫でた。

「そう、あなたの態度は凛としてとても立派だったわ。だから、凛々(りんりん)なんてどう?」

「凛々・・・私の名」

「私は梅梅メイメイ、よろしくね」


こうして死神は、妙心館の居候になった。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ