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妖怪 王  作者: 真桑瓜
36/67

海底大戦争

龍の姿に戻った龍王と龍妃は龍宮の軍勢を率いて『鉄の鯨』に戦いを挑む。

次々と玉砕する兵たちを見て怒り心頭に発した龍王は、長い巨体を『鉄の鯨』に巻きつける・・・


戦時中、軍に奉職したことのある王の知識によると潜水艦の弱点は二つ。

一つは発見された時の逃げ足の遅さ。この事は乗組員の最も大きな不安要素である。もう一つは水中での音を探知されないように設計されたスクリューの繊細さ。この事はスクリューの素材や形状が軍の機密事項に属していた事からも分かる。それらの事から鑑みるに、まずスクリューを破壊もしくは傷つける事、そして出来れば潜水艦を浮上させその姿を暴露させる事によって動かぬ証拠を突きつければ某国も他国での軍事行動を認めざるを得ないだろう、という事が確認された。あとは政治の問題である。王大人は密かに懇意の政府高官に対潜哨戒機の出動を要請する事を約束した。

その日一行は密かに円山大飯店を後にした。


*************************************************


龍宮城は無惨に破壊されていた。

華麗な龍の彫刻が施されていた龍門も、黄金のいらかが天を衝くように聳えていた宮殿も、今は影も形も留めてはいない。ただ、後宮の一部が深海の岩脈に守られて残っていた。

王大人とメイメイを除く全員が、そこを“鉄の鯨“討伐の拠点として入る事になった。

海の底で、人間は余りにも無力である。ガオを手玉に取ったメイメイでさえ、海の中では例外ではない。メイメイは臍を噛んで悔しがったが、王大人に説得されて渋々地上に残る事に同意した。

とは言え、妖怪といえど水の中で生きる事は出来ない。龍王は三人に龍丸と言うものを飲ませ、これで暫くは水の中で自由に動くことが出来ると言った。

幸い龍族の御霊みたまが眠る龍廟はまだ発見されていなかった。破壊された龍宮の瓦礫が龍廟に続く入り口を塞いで発見を遅らせたのだ。

ところで、破壊を免れて残った建物の前に巨大な二匹の龍が建物を守るように戸愚呂とぐろを巻いて陣取っている。言うまでも無く龍王と龍妃の変身した姿だった。


「私お父様とお母様が龍になった姿を初めてみたわ。私もいつかあんな立派な龍になれるかしら?」

後宮の窓からるん姫が身を乗り出してそれを見ている。少し離れた所で王と亀爺がそれを見ている。

「龍王と龍妃は何故建物の中に入ってこないのじゃ?」王が小声で亀爺に訊いた。

「それは、お二人はもう元のお姿に戻る事が出来ないからです」亀爺が王を見上げて言った。

「どういうことじゃ?」

「お二人が龍に変身出来るのは一生のうち三度だけと決まっているのです」

「何?龍王はそんな事は言っていなかったぞ?」

「それは皆様には関係のない事だからです。皆様が地上を守るために戦われる事と、龍王様が龍廟を守って戦われる事は、敵は同じとは言え全く別の事なのです」

「分からんな?」

「お二人は七百年前の大旱魃の時と二百年前の大洪水の時に龍となって地上の民をお救いになられました。そして今回、最後の変身は龍宮の為に使う事をお決めになったのです」

「今回は自分の為の戦いじゃと?」

「はい、そしてこの事が終わったら、龍王様は龍妃様と共に龍廟へお入りになるお積りなのです」

「龍宮城の再建を待たずにか?」

「はい」

「死を賭した戦いというわけじゃな?」

「そういう事でございます」

「そうか・・・」

「王先生、この事はどうかるん様にはご内密に」

「なに?るん姫は知らんのか?」

「はい、るん様はもう二度と元の姿のお二人にはお会いになれないのです」

「何と不憫な・・・」

「これも龍族の掟、いずれるん様にもお分かりになる時が参りましょう、それまでは・・・」

「分かった」

その時廊下側のドアが開いた。

「おい王、ちょっといいか?」廊下から陳が呼んだ。

「何だ、陳?」

「ガオが墓地を見つけた」

「墓地?」

「龍宮の兵士達の墓じゃ」

「やるのか?」

「うむ、他に方法はあるまい」

「分かった、そっちは頼む」

「お主は?」

「少し気になる事があるのでな、ここに残る」

「そうか、では行ってくる」

陳は廊下を奥の方へと遠ざかって行った。

「さて、竜王の所へ行ってみるか・・・」

王は廊下を陳とは逆方向へ辿って後宮の外へ出た。そこには龍王と龍妃がまだ現れぬ潜水艦を睨んで待ち続けている。王は龍王の前に立って話しかけた。

「龍王よ、お主この戦いで死ぬつもりか?」

「王か、何故そのような事を聞く?死んでもこの龍宮を守るのは当たり前のことではないか?」

「ならば、死ぬ覚悟は捨てよ」

「なに?」

「戦いは必ず生きるという覚悟で望まねば負ける」

「何故だ?」

「死ぬ覚悟を決めて戦えばギリギリの所で選択を誤るからじゃ。死力を振り絞って戦ったところで、もうこれで良いという諦めが出て潔く散ろうとするからじゃ。それは美学ではあっても必勝の心得では無い。お主は何としてもこの龍宮を守りたいのであろう?」

「当たり前だ、私はるんの為家臣たちの為、ここを守り切らねばならん」

「ならば死ぬ覚悟を捨てよ、死ぬるは容易たやすい、じゃが生きる事は容易では無い。死ぬ気になれば何でもできると言うのは嘘じゃ、生きると言う強い気持ちで望まねば物事は成就せぬ。儂は覚悟を持って死んで行った武人を大勢見て来た。その者らは後世勇者と讃えられる事はあってもそれだけじゃ。泥臭く惨めでも良い、歯を食いしばって生きようとする者こそ真に人を守ることができるのじゃ」

「・・・」

「龍王よ、るん姫を悲しませるな」

「しかし私はもう元の姿には戻れぬのだ」

「るん姫にとってどんな姿であろうと父母はお主らだけじゃ。死ぬ覚悟は守るべきものを守り抜いてから後にするものじゃ」

「あなた、王先生の言われる通りですわ。私達は何が何でも生き延びなければなりません。生きる事が龍宮を守る事なのです」龍妃が長い首を振り向けて龍王を見た。

「妃よ其方・・・そうだな、私は思い違いをしておったようだ」龍王が王に顔を近づける。「王、私は生きるぞ」

「龍王よそれで良い」


龍王は黄金の鱗をキラキラさせながら頷いた。


*************************************************


「ガオ、お前なぜ道院を飛び出した?」龍宮の墓地を巡りながら陳が訊く。

「・・・」

「儂はお前が悔い改めさえすればゆるすつもりでおったに」

「師匠、俺は師匠の言いつけを破った。捨て子だった俺を育ててくれたあんたを裏切ったんだ。毎日どんな顔をして会えばいい?俺はあんたの顔を見る度に自分が惨めになるのに耐えられなかったんだ」

「儂はお前の素質を愛した、お前なら真の神仙になれると確信した。そのあまりお前に厳しい修行を課し過ぎたのかもしれん、今更こんな事を言うても遅い事じゃが・・・赦せガオ」

「師匠・・・」

「儂は今からお前と同じ過ちを犯す。戦いで死んだ兵士を蘇らせ再び戦場に送る。これはどのような理由があろうと赦される事では無い。この戦いが終わったら儂は地獄へ行く事にする」

「師匠俺は・・・」

「良い、儂はもうお前の師匠などでは無い。お前はお前の好きなようにしろ。もう、お前を縛る事はせん」

「ち、違うんだ師匠、俺はあんたが憎くて道院を飛び出したんじゃない、あんたを裏切った俺自信が赦せなくて飛び出したんだ。だから・・・」

「皆まで言うなガオ、儂は最後にお前と共に戦えることを喜んでおるのじゃ。もう時間がない、すぐに墓を掘り起こし一体でも多くの兵士を蘇らせようではないか」

「し、師匠・・・分かりました、俺もこの戦いが終わる迄に自分の身の振り方を考えます」

「うむ、急がずとも良い・・・では始めるとするか」

「はい」

「ガオ・・・」

振り向くと墓地の入り口にるん姫が立っていた。

「る、るんどうしてここへ?」

「私も手伝うわ」

「手伝うって、墓を掘り起こすんだぞ?」

「分かってる、でもじっとしていられないの」

「るん姫と言ったかな?」陳が訊いた。

「はい」

「姫は死者が怖くは無いのか?」

「だって龍宮を守るために戦って死んだ兵士たちなのよ、感謝こそすれ怖がったりするものですか。私兵達にお願いするの、龍宮の為にもう一度だけ力を貸して下さいって」

「ふむ、どうやら本気のようじゃな。よし、手伝って貰うとするか・・・まずは鯱将軍の墓からじゃ」

「はい!」


*************************************************


「龍王様!鉄の鯨が現れました!」

後宮の前に陣取る二体の龍の前に門番の虎魚と海月が跪いた。

「来たか・・・」

「あなた、るんの姿が見えませんわ」

「なに?」

「きっとガオのところに行ったのです。自分も戦うと言い張っていましたから」

「儂が見てこよう、そろそろ陳達の準備も整った頃だからな」

王が墓地へ向かおうと踵を返した時、頭上からるんの声が降って来た。

「私ならここよ!」

見上げると、後宮の屋根に覆い被さるように鯱と鮫それに鰯の大軍が隊列を組んで勢揃いしていた。鯱と鮫の兵士の体には黄色の呪符が貼り付けてあり、その先頭に亀爺に跨ったガオがいる。そしてその懐から可愛い海蛇が顔を出していた。

「るん、お前・・・」龍王が絶句した。

「私も皆と一緒に戦うわ!」るん姫が毅然として言った。

「それでこそ我が娘」龍妃が言った。

「ご安心下さい、るん姫は私が必ずお守りします!」ガオが力強く言い放つ。

「よく言ったガオ、るんを頼んだぞ!」龍王はガオを頼もしげに仰ぎ見る。

 「龍王、鯱将軍は蘇ったがもう以前のように指揮を取ることは出来ん。この兵達はただ龍王の命に従って動くのみ!」陳が言った。「鮫の兵には龍妃の命に従うように呪をかけてある!」

「私が鯱の軍を率いるのだな?」

「龍王、儂を背中に乗せてくれ、及ばずながら手を貸そう」王が言った。

「私は鮫の軍ね?陳老師手を貸してくれますね?」龍妃がガオの後ろで窮屈そうに亀爺に跨っている陳に訊ねる。

「無論じゃ!」

「俺とるんは亀爺と共に鰯軍三万を率います!」ガオが拳を突き上げた。

その時、前方三百メートルの所に鉄の鯨(潜水艦)が姿を現した。

「よし、いよいよ最終決戦だ、全軍前へ!!」

龍王の号令で鯱軍五十、鮫軍百、鰯軍三万の兵が一斉に前に出た。

龍王の背には王、龍妃の背には陳、そして亀爺の背中に跨るガオが鰯軍三万に命を下した。

「全軍前へ!雲雀の陣を張れ!」

鰯の大群、否、大軍が前方に煙幕のように広がった。

これは潜水艦のソナーの働きを妨害し、こちらの位置を特定させないようにする作戦である。

案の定、潜水艦が戸惑ったように速度を緩めた。

「龍妃よ、鮫軍を率いて奇襲をかけるのじゃ!」龍妃の背中に乗り移った陳が言った。

龍妃が龍王を見た。「あなた、先に行くわね!」

「うむ、くれぐれも気をつけるのだぞ」

「任せて!鮫軍私についていらっしゃい!」

龍妃は鰯の煙幕のど真ん中を突き抜けて一直線に潜水艦に向かって行く。

「峰矢の陣!」

煙幕を抜けると龍妃が命じた。すると鮫の兵士達は一斉に矢の形に変じて潜水艦の腹の下を潜り後方に抜けて反転した。

「龍妃、長蛇に展開するのじゃ!」

「分かったわ、鮫軍、長蛇の陣よ!」

鮫の兵達は一列縦隊に並び突撃の命令を待った。

「さあ、龍妃よ突撃の命を下せ!」

「・・・」

しかし、目の前で回転する巨大なスクリューを見て、龍妃が一瞬の躊躇を見せた。

「どうした龍妃、なぜ命令を下さぬ!」

「だって、そんなことできるわけ無いわ。あのスクリューに飛び込んだら兵達の体はバラバラになってしまう・・・」

「その事は良く話し合った筈だ、この兵達もその為に蘇らせたのだ」

「陳老師、あなたはここで降りて」

「どうするつもりじゃ?」

「私が行く!兵だけを殺す事は出来ない!」

「馬鹿な!この兵どもは心を持たないただの動く屍なんじゃぞ!」

「それでも・・・」

「龍妃!」

その時どこからともなく一匹の巨大な鮫が現れた。

「あっ、あなたは鮫准将!」

「龍妃、ご無沙汰致しました」

「あなた、先の戦いの後行方不明になって・・・?」

「はい、私はあの戦いの時臆病風に吹かれて逃げ出した卑怯者です。でも、あれからずっとその事を後悔し続けてきました。どうかその大役私にお任せ下さい!」

「なんですと!」

「どうか私のわがままをお許しください。そうでもしなければ私は部下達に申し訳が立たないのです!どうか、どうかもう一度武人の名誉を取り戻させてください!」

「なりませぬ!」

鮫准将は龍妃の言葉を黙殺し部下達に向き直った。

「みんな聞いてくれ!あの日お前達を見捨てて逃げ出した俺を許してくれとは言わない!だが、ここで龍妃を死なせるわけにはいかん!俺は真っ先にあのスクリューとやらに飛び込む、お前達にもし少しでも心というものが残っているなら、龍妃を守るため俺の後に続いてくれ!」

言い終わるや鮫准将は龍妃の制止も聞かず一直線に泳ぎ、あっという間にスクリューに巻き込まれて粉々に砕け散ってしまった。

海水が鮫准将の血で真っ赤に染まった。途端に鮫の兵士達がスクリューに向かって突進し始めた。

血の匂いが鮫の兵士達に届いたのか、鮫准将の最期の言葉が届いたのかは分からない。次々にスクリューに飛び込んで行く。

「あああ・・・」龍妃の悲痛な声が響いた。

百匹の兵士達が海の藻屑と消えた頃、潜水艦のスクリューが異様な音を発し始めた。


「今だ龍王!鯱軍を突撃させるんじゃ!」龍王の背中で王が叫んだ。

「分かった!鯱軍魚鱗の陣だ!」

鯱の兵士が一斉に動いた。鯱将軍を先頭に後方に三角形を描くように広がった。その真ん中に龍王がいる。

「突撃!」

龍王の命令を受けて鯱の軍がドッと潜水艦に殺到した。鯱将軍が体当たりすると潜水艦の進路が変わった。続け様に鯱の兵達が体当たり攻撃を敢行した。

その度に潜水艦は大きく傾いた。内部の人間に与える衝撃は相当なものだろう。

ウィィィィィン・・・魚雷のハッチが開く音がした。

苦し紛れに潜水艦が魚雷を発射した。盲撃ちに撃った魚雷の大半はあらぬ方向へ逸れたが、そのうちの一発が龍王めがけて飛んで行くと、横合いから鯱将軍が突っ込んで行った。

「鯱将軍!」

龍王の目の前で大爆発が起こり、鯱将軍の体は木っ端微塵に吹き飛んだ。

「おのれ許さぬ!」

龍王が潜水艦めがけて躍りかかる。

「待て龍王!落ち着け!」 

王を乗せたまま、龍王はその長い胴体で潜水艦をぐるぐる巻きにし、そのまま錐揉み状に回転を始めた

「うわぁ!」王の叫びは虚しく海の水に溶けた。

龍王の怒りの力は凄まじかった。潜水艦はそれ自体が大きなドリルのように高速で回り続ける。

どのくらいの時間が過ぎただろう。漸く龍王が離れると潜水艦はゆっくりと数回転して動きを止めた。

「お父様凄い!」ガオの懐の中でるんが言った。

龍王は大きく腹で息をしていた。金の鱗が開いては閉じる動きを繰り返す。

「あなた、やったわね!」龍妃が龍王に寄り添ったが、龍王はまだ声が出せないようだ。

王は龍王の背にしがみついたまま目を回していた。

「王、大丈夫か?」

龍妃の背から陳が声をかけたが返答が無い。 

「王の奴失神しておる、情けないやつじゃ」

「師匠、それは王先生が可哀想だ。あの回転では中の奴らも全員気絶しているでしょう」

亀爺に跨ったガオが側に来て言った。

「ふふ、それもそうじゃな」

「あっ、あれを見て!」るんが潜水艦を指差した。

見ると潜水艦はゆっくりと浮上を始めていた。

「どうやらこのまま海面まで浮かんで行きそうだな」ガオが潜水艦の腹を見上げた。

「後は我が国のレーダーが発見してくれれば全て終わりじゃ」

「さあ、王先生を後宮の建物に運びましょう」

「うむ、気つけに酒でも呑ませてやらねばな」

「とっておきの酒がございますよ」亀爺が言った。

「なんじゃ、そのとっておきの酒というのは?」

「昔、龍妃様がご病気の時に造った猿の肝酒でございます」

「わはは、そりゃいい、王の奴一発で目を覚ますぞい!」


その後暫く陳の笑い声は止まなかった。


*************************************************


「みなのものご苦労であった、お蔭で龍廟を守る事が出来た」

後宮の前庭で龍王が言った。

「龍王、お主が潜水艦に向かって行った時は肝を冷やしたぞ、無茶な事をするものじゃ」王が言った。王は龍宮に戻る前に目を覚ましたため猿の肝酒を飲まされずに済んでいる。

「済まぬな、鯱将軍がやられて逆上した」

「ま、結果オーライじゃがな」

「お父様、私お父様を見直しましたわ。ただのうるさい親父じゃなかったのね」

「あたり前だ、私を誰だと思っておる。千年の間この龍宮を守ってきた龍王だぞ」

「あなた、私もあなたを見直しましたわ。潜水艦に立ち向かった時のあなたは、若い頃のように凛々しかった!」

「妃よやめてくれ、照れるではないか・・・」

「俺も見直した、色仕掛けで俺を籠絡しようとした時にはなんて卑怯な奴だと思ったが」ガオが横からチャチャを入れる。

「馬鹿を言うな。私はお前を試しただけだ」

「どう言う事だ?」

「お前を龍王としてこの龍宮に迎える為に、るんの婿に相応しい相手かどうかを試したのだ」

「な、なに!る、るんの・・・」急にガオが落ち着きを失った。

「お、お父様、どう言う事!ガ、ガオが私のお婿さんだなんて!」るんも動揺が隠せない。

「るん、お前にはまだ言ってなかったが私達はもう元の姿には戻れぬのだ」

「ええっ!」

「龍王となった者は一生涯のうち三度しか龍に変身出来ない。私達は既に二回龍の姿になっておる。そして、元の姿に戻れなくなった龍王は、龍廟に入るのが掟・・・」

「そ、そんな・・・」

「鉄の鯨が出現してから、いつかはこんな日が来る事は予測しておった。だから次期龍王となる資格のある若者を探しておったのだ」

「お、俺は何も聞いてないぞ!そ、それにそんな事勝手に決められても・・・」

「ガオ殿はるんの事がお嫌いですか?」龍妃が尋ねた。

「い、いえ、好きとか嫌いとかそんな事は・・・」

「そうよお母様、まだ私達そんな関係じゃ・・・」

「ならば、今からそのつもりでお互いを見てごらんなさい。私の目に狂いが無ければあなた達はお似合いのパートナーよ」

「お母様・・・」

「るん、今すぐに決めよとは言わん、私達はこの龍宮を再建するまではここに居る。ガオにもここに居て手伝ってもらうから、それまでにお互いの気持ちを決めれば良い」

「ま、待ってくれ俺は何も・・・」

「ガオよ、良い話ではないか。儂はもうこの世に未練は無いが若いお前はまだ未練があろう、ここで龍王となってはどうじゃ?そして、地上に災いが降りかかった時龍となって助けるのじゃ。それがお前の罪滅ぼしとなろう」

「う、うう・・・」

「どうだるん、依存はあるか?」龍王が訊いた。

「わ、私はガオが良ければ・・・いいわ」

「ガオ、どうだ?」

「わ、分かった・・・だが一つだけ条件がある」

「なんだ?」

「師匠に今暫くこの世に留まって欲しい。そして、時々は地上に会いに行く事を許して欲しいんだ」

「ガオ、お前・・・」

「良いだろう、その条件のもう。どうじゃ陳老師?」龍王が陳を見た。

「う、うむ、仕方が無い・・・」

「ほう、これで四方丸く収まったと言う訳じゃな?」王が周りを見回して言った。「後は龍宮の再建じゃが、当てはあるのか龍王?」

「大丈夫だ、この海域には腕の良い宮大工達が大勢居る、すぐに呼び寄せて再建に取り掛かろう」

「そうか、ならば儂らは用済みじゃ・・・悪いが龍王、儂らを地上まで連れて行ってくれんか?」

「分かった、二人とも私の背中に乗るが良い」


王と陳は龍宮に別れを告げ地上へと帰って行った。


*************************************************


「お父さん、某国の潜水艦が我が軍の哨戒艇に拿捕されました」王大人が総支配人室の大きな机に手を置きながら言った。

「そうか・・・」王は短く応える。

「潜水艦の乗組員達は何か余程恐ろしい目に遭ったらしく、皆、朦朧として訳のわからぬ譫言うわごとを繰り返しているそうです」

「世界の先進主要国も某国の行動に対し次々に抗議声明を発表していますわ」メイメイが捕捉した。

「それで龍宮城のことは知れていないじゃろうな?」

「心配無用、儂が物忘れの呪符を潜水艦に貼って置いたわい」陳が胸を張った。

「そんな事で大丈夫か?」

「王、道士の術を馬鹿にするでない。それに、誰かが見たと言ったところで、今どき誰がそんな事を信じるのじゃ?」

「まあ、そうじゃな」

「なんだ、まだ心配事があるのか?」

「海溝は今後軍事的に重要な場所となる。今は良いとして、見つかれば我が国の軍が目をつける可能性もある」

「はっはっはっ、そんな事を心配しておったのか」

「陳、笑い事では無いこれは大事な事なのじゃ」

「王、龍宮に誰を残してきたと思うておる?」

「ガオの事か?」

「そうじゃ、ガオは我が一番弟子、物隠しの術など朝飯前の事じゃ」

「物隠し?」

「どれほど科学技術が進歩しようと、世の中には理屈では証明できない世界があると言う事は儂とお主が証明しておるであろうが?」

「そうか、ならばガオが龍宮におる間は安泰だという事だな?」

「うむ、じゃからガオにはどうしても龍王になってもらわねばならぬ」

「それは大丈夫じゃ無いかしら」

「メイメイ何か根拠でもあるのか?」

「るん姫は今は幼いけれどきっと美しく成長なさる筈」

「しかしるん姫がガオを気にいるかどうか・・・」

「そうじゃな、ガオは醜男ではないが決して美男とも言えんからのぅ」

「まぁ、お二人とも鈍いですねぇ、るん姫はガオさんに夢中ですわ、私の目に狂いはありません事よ」

「お父さん、陳老師、メイメイの言う通りです。私にもそう見えました」

「そうか、男女の機微など儂等年寄りには分からぬのじゃな」

「王、古淡の境地に至るにはまだ早いぞ、儂などはメイメイさんにアタックしようと思っているところじゃ」

「お、おい、お主まさか・・・」

「はっはっはっ、冗談じゃよ冗談。じゃから心配するなと言っておるのじゃ」

「訳がわからん」

「まぁ、陳老師もお人の悪い事。でも王先生、陳老師の仰る通り心配は入りませんよ、私を信じて下さい」

「そうか、メイメイがそこまで言うなら信じるとするか」

王が頷くとメイメイがホッと息を吐いた。

「さて、私も目的は果たした事だし、明日は夫の待つ日本へ帰ります」

「なら今日は西門紅楼辺りでパッと送別会をやろう。お父さん陳老師、お付き合いを願えますか?」

「応!当然じゃ!」陳が張り切って立ち上がった。

「陳お主、酔った勢いでメイメイに手を出すんじゃないぞ!」

「約束は出来ぬ、秘伝のほれ薬でも飲ませるか?」

「馬鹿者、その時は儂が成敗してくれる!」

「ははは、お二人ともまだまだお若い。さあ、時間が惜しい早速参るとしましょうか」

王大人に促されて部屋を出る時、王が小声で呟いた。

「陳、一人で地獄へ落ちる事など絶対に許さんぞ」

「なに?」

「地獄へ行く時は一蓮托生じゃ」

「ふふふ、閻魔が入れてくれるかの・・・」


その夜、西門紅楼では爺い二人が大気炎を吐いて、王大人を大いに辟易させた・・・と、後に日本に帰ったメイメイが夫に報告した。


台湾での王の活躍は今回で一区切り。

次回からは再び舞台を日本に移して、新しい物語が始まります。

乞うご期待!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 確かに、科学は万能ではありませんね(^ ^) ここまで科学が進歩しても、まだまだ未解明な事象はたくさんありすぎますね☆ 武道や武術にも、科学ではそう簡単に説明が出来ない技法や術理が、まだ…
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