王武館
親子の再会を拒む王。
しかし息子の必死の説得で再会は果たされる。
だがその事により事態はさらに複雑な方向へ・・・
「いやぁ、懐かしなぁこの道場。私はついに武術では身を立てる事は出来なかったが・・・」
王武館の門の前で車から降りた王大人は、昔と変わらぬ道場の佇まいに胸を熱くしていた。
「王大人、感傷に浸ってる場合じゃありません。さ、早く道場に入りますよ」
メイメイに急かされて王大人は道場の門を潜った。
玄関で李子龍が出迎えた。
「王大人、ようこそおいで下さいました」
「子龍、久しく見ぬうちに道場主らしくなったじゃないか」
「ありがとうございます、王大人もお元気で何よりです」
「お兄様、王先生は?」
「メイメイ、ご苦労だったな・・・それがちょっと困った事になってな」
「困ったこと?」
「まぁ、とにかく中に入ってくれ、話はそれからだ」
子龍に促されて二人は応接室に通された。
「お兄様、困った事って何?」
ソファに座るなりメイメイが訊いた。
「それが、昨日お前から電話があってすぐに、先生に大人がお見えになる事を伝えたんだ」
「ええ」
「そうしたら、『儂は会わん!』の一点張り」
「どうして?」
「『一度死んだ父親がどの面下げて息子に会える!』っていうんだね」
「まぁ、大人と同じ事を言ってる。やっぱり親子ねよく似てるわ」
「それで二階の部屋から出て来ないんだ」
「それは困ったわね・・・」
「俺では手に負えん、メイメイお前行って説得してくれないか?」
「分かったわ」
「いや、私が行こう」王大人が言った。
「え、大人が?」
「メイメイも言っていたろう、よく似た親子なら話も通じるさ」
「そ、そうですね・・・」
王大人が部屋を出て行くと、階段を上る足音が聞こえた。
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王(主観モード)
誰かが階段を上ってくる。あれは紛れもなく息子の福虎のもの。
飛び跳ねるような足運びは今も変わってない。あれのせいで奴は武術を断念したのじゃもの、間違えるものか。
しかし、奴には実業家の才能があった、それは儂には無い。人間一つは取り柄があるものじゃて。儂にはただ一つ僅かな武術の才があるだけで世渡りの才は無かった。ただ時代が儂の武術を必要としておった。それでなんとか生き延びたがこれからの世に武術は無用の長物。福虎は良い道を選んでくれたと思う。
部屋の前で足音が止まった。ノックは三回じゃ。
コンコンコン!
ほら、案の定。
「誰じゃ?」
分かっていながら、いや、分かっているから冷たく訊いた。
「お父さん、私です、息子の福虎です・・・」
「何の用じゃ?」
「お父さんが蘇ったと聞き、お話に参りました」
「儂に話は無い」
「お父さんに無くても私には有るのです」
「なんじゃ?」
「お父さんが死ぬ前に是非言っておきたい事があったのです。でも、お父さんの死があまりに突然で言う暇がありませんでした」
「儂はそれじゃからお前に合わす顔が無いのじゃ、儂は生きている間お前に何もしてやれなんだ」
「お父さん、それは違う。私の方こそお父さんに謝らねばなりません」
「お前が儂に何を謝る?儂はお前の事を、儂には過ぎた息子じゃと思うておるのに」
「お父さん、私は過ぎた息子などではありません。私はお父さんの夢を引き継げなかった親不孝な息子なのです」
「馬鹿な、それを言うなら儂は我が子に自分の夢を背負わせようとした馬鹿な父親じゃった」
「違うのですお父さん、私はお父さんのようになりたかったのです。それが私の夢でした。しかし、私に武術の才能が無いばっかりに私の夢もお父さんの夢も果たせぬ夢となってしまったのです」
「違う!儂がお前に何もしてやれなかったのだ、それだけが心残りで・・・すまん、福虎」
「だったらお父さん、今、私を助けて下さい」
え?なんだ?今息子は助けてくれと言ったのか?
「何か困ったことでもあるのか?」
「はい、大変困ったことが・・・」
福虎は儂に頼っているのか?
「その為にお前はわざわざこんな所までやってきたのか?」
「はい、ですからお父さん、出て来てください」
「・・・」
「お願いします」
「よし・・・分かった、今出て行く」
まさかここに来て初めて息子の役に立つ事が出来るとは・・・
儂は勇んでドアを開けた。そこには懐かしい息子の顔があった。
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「・・・話は分かった、その龍王の一家と家臣達を龍宮城再建までお前のホテルに泊めると言うのじゃな?」
「はい、しかし話はそれほど単純では無いのです」
「その、“鉄の鯨“の事じゃろう?」
「その通りです、近頃我が国の海域に国籍不明の潜水艦が出没していると言う事を、さる政府の高官から聞き及んでおります」
「ふむ、おそらく某国あたりであろうが目的はなんじゃ?」
「これは憶測に過ぎませんが、おそらく核搭載ミサイルを発射できる原潜を隠す深い海溝を探しているものと思われます」
「龍宮を再建する為にはその潜水艦をなんとかせねばならんと言うことか?」
「はい、これは単に龍宮城の問題に留まらず、我が国の防衛上の問題に大きく関わります。某国はこの国ごとその海溝を手に入れようとしているのです」
「なるほど、お前が頭を抱えるのも頷ける話じゃな」
「どうにかしてその潜水艦を追い払う事はできないでしょうか?」
「その政府の高官とやらに話してみたらどうじゃ」
「駄目です、それでは国際問題に発展してしまう可能性がある」
「そんな大仕事を儂らだけでやるのは無理じゃないのか?」
「龍王を連れて来た道士の青年が、一度追い払ったことがあったようですが・・・」
「道士?」
「はい、その青年は先生と同じように妖怪になって蘇ったと言っていましたが」メイメイが補足した。
「なに!そいつの名は何という!」
「た、確かガオと・・・」
「なんじゃと!」
王の驚きぶりに王大人とメイメイの方が狼狽えた。
「お父さん、ガオを知っているのですか?」
「知っているどころの騒ぎではない、儂等はずっとそ奴を探していたのじゃ!」
「儂ら?」
「どう言う事です、王先生?」
「うむ・・・こうなればこちらの事情も話しておかねばなるまい」
「聞かせて下さい」
「ガオは、儂の妖怪仲間の陳という道士の弟子なのじゃ」
「な、何ですって!」
「訳あって陳とガオは対立し、この道場で死闘を繰り広げた末、二人とも命を落とした。陳が息を引き取る直前、儂は蘇りの法を陳に教えた。陳はそのつもりは無いと言ったが、ガオにも聞こえておったらしく、奴はその法を使って蘇ったのじゃ。陳は最終的に決着をつける為ガオを追って蘇ったという訳じゃ」
「そんなことがあったのですか・・・」
「で、ガオは何をして師と対立したのですか?」メイメイが訊いた。
「陳の教えを破って死者を蘇らせ殺人事件を引き起こした」
「殺人・・・生意気だけどそんな悪い奴には見えなかったけど」
「奴が直接人を殺した訳では無い。しかし、恨みを持った死者を蘇らせ新たな殺人の種を撒いたことは道教の道士として許されることでは無かったのじゃ」
「なるほど、それでガオは師から逃げ回っているという訳なのですね・・・」
「そうじゃ」
「う〜む、これはまたややこしくなって来たな」王大人が腕組みをして唸った。
「さて、この事を陳に伝えるべきか・・・」
バン!
その時、凄い勢いでドアが開いた。
「王、抜け駆けは許さんぞ!」
「陳・・・聞いておったのか?」
「ガオは儂の弟子じゃ、弟子の始末は儂がつける!」
「待て陳!今度の事には国家の存亡がかかっておる!」
「知ったことか!儂はガオと決着をつけるために蘇ったのじゃぞ!」
王大人が立ち上がって興奮した陳の前に進み出る。
「陳老師、初めてお目にかかります。私は王浩然の長男、王福虎と申します」
「王の息子じゃと?」
「はい、私は台北で円山大飯店というホテルの総支配人をやっております」
「それで?」
「このような仕事をやっておりますと、色々と政治の裏事情にも精通して参ります。今回の事は放っておけば沢山の人の命が危険に晒されるかもしれないのです。ガオが殺人事件の引き金になった事は許されることではありません。しかし、このままではもっと悲惨な結果が待っているのです。どうか、少しだけ決着を後回しにしていただけませんか?この件が片付いたら、どうぞお二人で好きなだけ決着をお着け下さい。それまで決着の事は私に預からせて頂けませんか?」
「・・・」
「私は王先生の弟子の李梅と言います。弟子の立場として私が言える事は、弟子が師を裏切るのにはそれ相応の理由があったのに違いありません。どうか、ガオともう一度話し合っては貰えないでしょうか?同じ不肖の弟子としてお願い致します」
王大人とメイメイが同時に深々と頭を下げた。
「うっ・・・」
「陳老師、私からもお願い致します」李子龍が言った。
「ううう、居候しておる手前、家主には逆らえん・・・仕方がない、決着は先に伸ばそう」
「本当か、陳?」
「うむ、だが儂も行くぞ」
「なに、お主も台北にか?」
「これだけは譲れんぞ、王」
「よかろう、だが呉々も先走るなよ」
「誰に言っておる王、儂も道士じゃ約束は守る」
「うむ」
「では、決まりですね」王大人がホッとため息を吐く。
「早速台北に向けて出発しましょう」
王大人が助手席に、王と陳が後部座席に乗り込んだ。
メイメイがルームミラーを覗き込むと、陳が複雑な表情で黙り込んでいた。




