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妖怪 王  作者: 真桑瓜
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ガオとるん

台北の海岸を歩いていたガオは、波に漂う美しい少女と海亀を助けた。

喋る亀の話に得心の行かないガオは、少女と亀について竜宮城に行く事にした・・・



「チッ、焼けた砂が足に絡み付いて来やがる、もう少し波打ち際を歩こうか・・・」

ガオは台北のとある海岸を歩いている。

雲林県で師の陳傳ちんでんに追い詰められ、命からがらここまで逃れて来た。

「なぜ老師は俺を許さないのだ・・・?」

俺が死人をキョンシーとして蘇らせたからか?しかし、強い恨みを持って死んだ者はその恨みを晴らさなければ成仏出来ない。俺はその手助けをしてやっただけだ。それなのになぜ・・・

ガオはそこで考えることをやめた。答えは既に出ているのだ。これ以上考えれば後悔になる。


ガオは万象山の道院の前に捨てられていた赤子であった。

陳傳は、これも道教の神々の思し召しと思って育てる事にした。

ガオという名前も陳が付けたものである。

ガオは成長するにつれ、その素質を露わにしていった。

十歳になる頃には陳の助手として檀家の祭事に同行するようになる。

陳は霊力の才能溢れるガオを、真の神仙にする為過酷な修行を課した。

その甲斐あって、ガオは師の陳傳に迫る力を身につけるに至る。

ある日ガオは街で行われた祭事の帰りに道端で倒れている男を発見した。男は身体中に刺し傷がありどう見ても助からない事は明らかである。ガオは男の唇が動いたのを見て耳を寄せた。男は苦しい息の下から言った。

「お、お前は道士だろう・・・だったら・・・俺が死んだら俺を・・・蘇らせてくれないか?」

「何故だ?」

「俺と・・俺の家族を・・・こんな目に合わせた奴に・・復讐する為だ・・・」

「何、家族も殺されたのか?」

「あ・・あ、母と妻・・・それに幼い子供達まで・・・」

ガオは一瞬固まった。道士の常として死体を一時蘇らせる事は良くある事だ。しかしそれは死体を運搬する為であり、復讐の手助けをする為では無い。それに、陳老師から恨みを持って死んだ人間の蘇生を固く禁じられている。恨みを持った人間は凶暴なキョンシーになるからだ。

「悪いがそれは出来ない」

「か、金なら・・・やる・・そ、そこの・・肩掛けの中だ・・・」

男の視線の先に目を遣ると、帆布で作ったカーキ色の雑嚢が落ちている。拾って開けて見ると中に古くなった紙幣の束が沢山入っていた。

「こ、これは?」

「俺の・・・全財産だ・・それで・・・たのむ・・・」

「お、おい、俺はまだ引き受けたわけじゃ・・・」

男は既に事切れていた。

ガオは迷った、この金は喉から手が出る程欲しい。万象山の道院は老朽化が酷く今にも崩れ落ちそうなのだが、檀家から必要以上の金を受け取らない老師には修繕に回す金も無い。それにこの男はこのままでは成仏できまい。ふと、魔がガオの心に差した・・・

「よし、今回だけ・・・」

ガオは男を蘇らせた。


道院に戻ったガオは、金を道院の祭壇の後ろに隠し何食わぬ顔で老師に帰還を報告したのであった。それから三日後、高雄の金満家の家で一家全員が何者かによって惨殺されるという事件が起こる。ガオの態度を不審に思った老師に問い詰められガオは全てを白状した。

将来を嘱望した弟子に裏切られた陳の怒り悲しみは並大抵のものではなかった。 

老師は言った。「復讐は復讐を呼ぶ、お前のした事は復讐の連鎖をただいたずらに大きくしただけだ」と。ガオは無駄と知りつつ抗弁した、この道院のためにやったのだ・・・と。

これが返って火に油を注いだ。

「こうなったらお前を殺して儂も死ぬ!」

それから師と死闘を繰り広げ、敵わぬと悟り山を下って街へ逃げた。そして王武館で決着がつくまで陳の前から姿を消していたのであった。

しかし決着がついて老師と共に死ぬ事になっても納得が行かなかった。自分で自分を蘇らせる為に死神を騙した。そうしたら老師もガオを追って蘇った。互いに妖怪になって・・・


「ふん、こんな事考えていてもしょうがないか・・・」

波打ち際を道衣の裾を濡らすようにして歩いていると、沖の方に何やら黒いものが見えた。

波の間に間に見え隠れするものはどうやら人の頭のようである。

「ついてないな、こんな時に土左衛門か・・・」

ガオはどうするべきか迷った。どうせ死んでいるのなら今更岸に上げた所で何になる?しかし、もし生きていたら・・・

「後生が悪いだろうな」

ザブザブと海に足を踏み入れる。丁度腰の深さまで来た時に死体に辿り着いた。

「可哀想に、まだ幼い女の子じゃないか」

白い絹らしき衣を纏った透けるような肌の少女が、長い黒髪をしとねにするようにして浮かんでいる。

「まるで眠っているようだな」

ガオが呟いて抱き抱えた時、少女が腕を大きく天に突き上げて伸びをした。

「う、うう〜ん・・・よく寝た」

「ゲッ、生きていたのか!」ガオが素っ頓狂な声を上げる。

「きゃっ!」

ガオの腕の中からスルリと抜けて少女が海の上に降り立った。え?上?こいつ何者だ?

「あなた誰!」

「だ、誰って・・・俺はお前が死んでいると思って・・・」

「失礼ね、私はただ寝てただけよ」

「寝てたって・・・こんな海の中でか?」

「いいじゃない、どこで寝ようと私の勝手だわ」

「しかし、普通の女の子はこんなところで寝たりしないぞ」

「え、そうなの?・・・あっ、それより亀爺は!」少女は突然何かを思い出したように辺りを見回した。

「亀爺?」

「亀爺、亀爺、どこなの返事して!」

少女はガオを無視して誰かを呼んだ。

「あっ、いた!」

海岸に向かって海の上を走って行く。

「お、おい、待て・・・」

ガオも慌てて後を追った。砂浜を歩いていた時には気付かなかったが、こちら側から見ると渚に何か石のようなものが転がっている。少女がそれに駆け寄った。

「亀爺、しっかりして亀爺!」

漸くガオが追い付いて見てみると、石と見えたものは亀の甲羅である。

「なんだ、亀じゃないか・・・?」

少女がキッとガオを睨む。

「亀じゃない、私の爺やよ!」

「爺・・・や?」

「亀爺、亀爺、返事をして!」

少女の必死の呼び掛けにも関わらず亀はぐったりしたままだ。ガオが甲羅に触れてみると南国の陽に灼かれて異常に熱くなっている。

「このままじゃ焼け死んでしまうぞ!」

初めて気付いたらしく少女が慌てた。

「大変、早く海の中へ!」

「ダメだ、急激な体温の変化は返って命を縮める事になる」

「だったらどうすればいいの!」

ガオは辺りを見渡した。岩場近くの海岸にたくさんの気根を伸ばした植物の群生があった。

「あのガジュマルの木陰に運ぼう」

「どうやって、私じゃ抱えられないわ?」

「大丈夫だ、俺がおぶって行く」

「え?」

「いいからお前はその辺で水を汲める物を探して来い。こいつの甲羅に少しづつ水を掛けて冷やしてやるんだ」

「わ、分かった!」少女が立ち上がって駆け出して行った。

少女の背中を見送ってから、ガオは亀を背負った。

「少し辛抱しろよ・・・」


*************************************************


ガオはガジュマルの木陰に亀を下ろすと、道衣を脱いで風を送る。

そうこうしているうちに、少女が把手の取れた青いポリバケツに海水を汲んで持って来た。

「さあ、ゆっくり甲羅にかけてやれ」

少女が亀の甲羅を優しく摩りながら水を掛け流す。

「だが、そんな物どこで見つけて来たんだ?」

「漂着物のゴミの中から見つけたの、海にこんなもの捨てるなんて信じらんない・・・まぁ今はそのおかげで助かってるんだけど」

複雑な顔で少女が水を掛け終わった。

「よし、今度は俺が水を汲んでくる、お前はこれで煽いでやれ」

少女が顔を上げてガオを見た。

「お前はやめてよね、お父様やお母様にだってそんなふうに呼ばれた事はないんだから」

「じゃあなんて呼べばいい?」

「私の名前はるん、るんと呼んで」

「分かった、俺の事はガオと呼んでくれ」

「ガオね・・・じゃあガオ、お願い」少女、否、るんがバケツをガオに差し出した。

年上の人間を呼び捨てか・・・と思わぬことも無かったが、その言い方があまりにも自然だったのでそのまま受け入れる事にした。

「分かったるん、行ってくる」

ガオは道衣とバケツを交換すると、大股で海に向って歩き出した。


**************************************************


「おっ、目を覚ましたみたいだぞ」

何度も往復して水を掛け続けた結果、亀は漸く息を吹き返した。

「亀爺!」るんが亀を抱き抱えるようにして叫んだ。

「ひ、姫様よくぞご無事で・・・」

これにはガオも魂消て二、三歩後退った。

「か、亀が喋った!」

「だから亀じゃないって言ったでしょ、亀爺よ」

そう言われても亀は亀である、ガオの知っている海亀とどこも違わない。

「姫様、このお方は?」

「ガオよ、あなたをここまで運んで助けてくれたの」

「それはそれは、誠にありがとうございました。何とお礼を申し上げれば宜しいやら・・・」

「れ、礼なんていい、それよりあんた達はいったい何者なんだ?るんは水の上を走るし、第一言葉を喋る亀なんて聞いたこともないぞ?」

「これは申し遅れました、こちらは龍王のお嬢様でるん姫様、私はお守役の亀爺でございます」

「龍王?」

「あなた龍王を知らないの?」

「い、いや、なんか聞いた事はある名だが・・・」

「この海の一番深い所にお父様のお邸があるの、龍宮城って呼ばれてるわ」

「龍宮城?龍宮城といえば円山まるやま大飯店の事だが?」

「円山大飯店?・・・何それ?」

「台湾、いや東洋一のホテルの事だ、巨大な柱に龍の彫刻があって龍宮と呼ばれている」

「ホテル・・・?」

るん姫にはホテルという言葉さえ分からないようだった。

「いや・・・知らないのならいい、忘れてくれ」

「変なガオ・・・」

「それより姫様、龍王様とお妃様が心配です早く龍宮へ戻らなければ」

「そ、そうだわ、あれから鯱将軍はどうなったのかしら?」

「あの爆発ではとても無事だとは思えません、我々は間一髪で逃れる事が出来ましたが・・・」

「何の事だ、いったい何の話をしている?」

「龍宮城が鉄の鯨に襲われたの、お父様の軍隊も全滅したかもしれない」

「鉄の鯨だって?話が見えないな、詳しく説明してくれ」

「説明している暇はないわ、そうだ、詳しく知りたいのなら私達と一緒に行きましょう、道々説明するから」

「し、しかし俺は海に潜れない」

「大丈夫、亀爺の背中に乗っていれば海の中でも生きていられるわ」

「しかし・・・」

「姫様、急ぎましょう」

「ガオ、どうするの?行くの、行かないの?」

「わ、分かった、行く!」

「決まりね、亀爺はガオを背中に乗せて行って」

「姫様は?」

「私は海蛇に姿を変えて行く」

「え、海蛇?」ガオが驚いて聞き返す。

「私はまだ、龍にはなれないからね」


悪戯っぽく笑うと、もうるん姫は海に向かっていた。ガオは訳が分からないまま亀爺を担いでるん姫の後を追った。


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