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妖怪 王  作者: 真桑瓜
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陳 危機一髪!

ヤンとノラ、それにチャン・チュンの三人は、元の世界に戻る為鬼の棲む『虫食い穴』に戻る事にした。

王と陳は雑魚鬼を倒し、鬼の首領と対峙する・・・


「はぁはぁはぁ・・・ま、まだですか?」

チャン・チュンは息を切らしながら、先を行くヤンの背中に向かって訊いた。

「もう少しだ、この森を抜けたら洞窟の入り口が見える」

「チャン先生、走れる?」

ノラが振り返る。

「え?」

「洞窟の中に鬼がいるの、もし遭遇したら走って逃げなきゃ」

「そう言えば『虫喰い穴』は危険だって魔神仔マシナが言ってたような・・・」

「超危険だ、命懸けだぞ」ヤンが立ち止まって言った。

「大丈夫、足には自信があるわ。去年の運動会、教師対抗リレーでアンカーを務めたんだもの」

「でも先生達、4チーム中3位だったじゃない」

「それは私のせいじゃないわ、だって私一人は抜いたのよ」

チャンはノラに向かって胸を張った。

「とにかく・・・」ヤンが洞窟の入り口に目をやった。「その時は死に物狂いで走るしかない」

洞窟を見て、チャン・チュンはゴクリと唾を飲み込んだ。

「なんだか不気味な洞窟ね」

「さあ、行こう。急がなきゃ爺さん達が危ない」

「爺さんって・・・?」

「王先生と私のおじいちゃんが、私たちを助けるために『虫食い穴』の向こう側から入ったの」

チャン・チュンが不思議な顔をした。

「あの二人なら私達より大丈夫なんじゃない?」

「なんでだ、結構な年寄りに見えたぞ?」ヤンが不思議そうに訊いた。

「ノラちゃん、ヤン先生に話してないの?」

「だって、言っても信じてくれないんじゃないかと思って・・・」

「どう言う事だ?」

「あの二人、本当は妖怪なの」

「なに!」思わずヤンが叫んだ。

「本当の事よ、去年死んでしまって妖怪になって蘇って来たの」

「王先生は一昨年だって言ってたわ」チャン・チュンが言った。

「そんな馬鹿な事が・・・」

「ヤン先生は新任だから、この前の水鬼の事件は知らないんだ?」

「水鬼ってなんだ?」

「川に住む妖怪。ネン・ネンを攫って井戸に立て籠ったのを王先生がやっつけて助けてくれたの」

「まぁ、昔の俺なら信じなかっただろうが、今はこの状況だからな・・・信じるしかないか」

「そう言う訳だから急がなくてもいいんじゃない?」

「でも、もしあの鬼がおじいちゃん達より強かったら・・・」ノラが心配顔で呟いた。

「その心配はあるな、よし、洞窟に入ろう、爺さん達の手助けが出来るかも知れない」

「そうね、行きましょう」チャンも同意した。


三人は静かな足取りで洞窟の入り口に近づいて行った。


*******


先へ進むごとに血の匂いが鼻を突く。陳の焦りは極限に高まった。

「ノラ!」

思わず大声で叫んでしまった。

「陳、大声を出すな気付かれる!」王が諌めたがもう遅い。

ざわざわと何者かが蠢く気配がする。

陳が、あっ!と言って立ち止まった。

屍に喰らい付いていた十匹ほどの鬼達が、口の周りを血だらけにして振り返る。

「ノ・・・ラ」

陳がおぼつかない足取りで、鬼達の方に近付いて行った。

「陳待て、それはノラでは無い!」王が陳の肩を掴んで引き戻す。

「何をする!」陳が王の手を振り払った。

「落ち着くのじゃ陳、ノラはそんなに毛むくじゃらではあるまいが!」

「なんじゃと・・・」陳が目を凝らして鬼達の足元に転がる骸を見た。

「ほ、ほんとじゃ・・・ノラでは無い」

「あれは魔神仔が言っていた狒々爺とやらに違いあるまい」

その時、鬼達の向こう側の暗がりから声がした。

「誰だお前達は?」

カーキ色の軍服を着た鬼が現れた。よく見ると手前の鬼達も軍服を着けている。

今現れた鬼だけが軍帽を被っていて、赤い線の中央に星が一つ光っていた。

「お主こそ何者じゃ?」陳が軍帽の鬼を睨みつけた。

「ここは俺たちの聖域、お前達の来るところでは無い」

「儂は人間の子供を探しに来たのじゃ、お主何か知っておろう?」

「答える義務は無いな」

「ならば、力ずくで吐かせるまで」

陳は懐から呪符の束を取り出した。

「陳、油断するな、そいつは手強いぞ」

「分かっておる王、だがこいつは俺が倒す、手出しは無用ぞ!」

「嫌だと言っても聞かぬだろうな?」

「当たり前じゃ」

「ふん、頑固爺いめ、思う存分戦うが良い」

「すまぬな、王」

軍帽の鬼が北叟笑む。

「爺い二人に何が出来る?」

「やってみればわかるわい」陳が言った。

「その呪符は知っている、一度人間の子供と侮って油断したら手酷い目に合ったからな」

「ノ、ノラじゃ!」

「名は知らん、だが俺は一度喰らった技は二度と喰わん」

「ふ、どうだかな」

陳が呪符を一枚取って構えた。

「貴様達!」軍帽の鬼が言うと、十匹の鬼がゾワゾワと立ち上がった。

「この爺い達も喰ってしまえ、筋張った肉が硬そうだがな」

鬼達の目が二人に釘付けになる。

「やれっ!」

鬼達は我勝ちに二人に殺到した。

「陳、まずこいつらを倒すぞ!」

「よし!」

王と陳が鬼達に突っ込んで行く。

まず王が鬼とぶつかった。王は蹴りを使わず拳だけで鬼を仕留めて行く。足を止めては囲まれて押し潰される。

陳は忍者が投げる手裏剣のように、連続して呪符を飛ばした。

呪符に触れた鬼達は、雷に打たれたように倒れていく。

二人とも次々に鬼を倒して行った。

あっという間に鬼達は数を減らした。残り三匹になった時、王が叫んだ。

「よし、蹴り解禁じゃ!」

王は左の前蹴りを鬼の腹に放った。鬼は腹に衝撃を受けながらも反射的に王の足首を両手で掴む。

「そのまま持っておれ!」

王が右足で地を蹴り後方に回転しながら鬼の顎を蹴り上げると、鬼の首があらぬ角度に折れ曲がった。

「若いのぅ、王!」

着地した王を横目で見ながら陳が二枚同時に呪符を飛ばす。

呪符が正確に二匹の鬼を捉え弾き飛ばすと、鬼は激しく壁に激突して動かなくなった。

「陳、お主こそ凄い威力じゃ!」

「お主の発勁ほどでは無いがな」

陳がニヤリと笑った。

「爺い、お前達人間ではないな?」

軍帽の鬼が言った。

「今頃気が付いたか、儂らは死神の股を潜って蘇った、まぁ言ってみれば妖怪じゃな」

「くっ、そうだったのか・・・」

「さあ、残るはお前だけじゃ!」王がズイと前に出た。

陳がそれを遮ってさらに前に出る。

「王、約束じゃ、こやつは儂が倒す」

「おお、そうであった」王が一歩下がった。「無理はするな」

陳が鬼の前に立ち塞がった。

「さてノラがどこへ行ったか教えてもらおうか」

「さあな、知りたければ俺を倒す事だ」

「やはりおとなしく教える気はなさそうじゃの?」

「当たり前だ、部下達をやられて、はいそうですかと教えられるか訳がない」

「ふむ、見上げた心掛けだ。その心がけに免じて儂が引導を渡してやろう」

「爺い、お前は見たところ道教の道士のようだが、どうしてこの世に未練を残す?」

「愚かな弟子を成敗する為じゃ、弟子の教育は師の責任じゃからの・・・お主は何故残った?」

鬼は黙したまま暫く返事をしなかった。

「・・・俺の事はいい、それより始めようか?」

「言いたくなければ、それも良かろう」陳は呪符を持った手を腰溜めにして構えた。

呪符はさっきの戦いで残り少なくなっている。

鬼は肩幅に立つと、呼吸と共につま先を内に向けて腰を落とした。

「まだ十分に距離があるのに何のつもりだ?」陳が鬼の構えを見て首を捻る。

脇を締めた鬼の両拳は肩の高さで止まっていた。普通脇を締めると力が入るものだが鬼の構えには一切の力が入っていない。あれでどうやって攻撃するのだ。

「陳、気を付けろ、其奴は空手を使うぞ!」

「空手?」

「古くから沖縄に伝わる武術じゃ、その鉄拳は岩をも砕く!」

「お主の拳法とは違うのか?」

「南派少林拳の流れのようじゃが、独特の進化を遂げておる!」

「そうか、じゃがやるしかあるまい!」

陳は最初の呪符を鬼に向かって飛ばした。呪符は鬼に向かって一直線に飛んでいったが、当たる寸前鬼が右足を大きく内に回して前進しただけで、鬼の脇をすり抜けて洞窟の壁に当たって落ちた。

「なに!」

「足の運びに気を付けろ、その足運びは最小の動きで敵の攻撃線を外す!」

陳は呪符を二枚右手に取った。

「ならば、これはどうじゃ!」同時に二枚の呪符を飛ばす。

鬼は動いたようには見えなかったが、呪符は二枚とも外れた。

「陳、間合いが詰まってきておるぞ!」

「なんと!」

いつの間にか三メートルほどに距離が縮まっていた。

左手に持った呪符を見て愕然とした、あと二枚しか残っていない。

一枚を右手に取って慎重に狙いを定める。

「これでどうじゃ!」

この距離なら外れる筈はない、そう思った一投もものの見事に外され距離は半分になった。

「むむむ、こうなったら・・・」

陳は残った呪符を右手に持つと腰を落とした。

「陳、やめるんじゃ!」

王の静止が聞こえなかったのか、陳は地を蹴って鬼に向かってぶつかって行った。

陳の目には鬼の姿がユラリと揺れたようにしか見えなかった。

次の瞬間衝撃を受けて躰が宙に浮いた。

目の前が暗くなった時、どこかでノラの声を聞いた気がした。


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