最後の戦い
最初の襲撃に失敗したガオはさらに強力なキョンシーを作り出した。
王武館で意気投合した爺い二人が酔っ払っている間に、ガオの毒牙が忍び寄る・・・
「やはりガオであったか・・・」
王と子龍は夜が開けると直ぐに万象山の道院を目指した。陳傳は二人の話を聞くと諦めたように呟いたのである。
「陳老師、ガオはまたやって来るでしょうか?」
「李先生、奴は一度やり始めた事は途中で止める事はないよ」
「ガオの目的はなんじゃ?」王が訊いた。
「おそらくこの儂じゃ。儂の張った結界を破って妖が侵入したとなれば、必ず儂が出てくると踏んだのじゃろう」
「なぜ師であるお主を狙う?」
「ガオの呪術を封印できるのは、儂だけだからじゃ」
「ならば何故ここを襲わん?」
「ここは道教最強の結界が張り巡らされておる道院じゃ。いかなガオとてここで戦うことはできまいよ」
「奴を倒す術はあるのか?」
王の問いに陳傳が複雑な表情をした。
「あるには・・・ある」
「それは?」
「儂がガオと差し違える・・・」
「老師、それはいけません、他に方法は無いのですか!」子龍が取り乱して言った。
陳傳は目を細めて子龍を見た。心なしか笑っているようだ。
「無い・・・しかし奴を育てたのはこの儂じゃ、この始末はやはり儂がつけるべきじゃろう」
「そんな・・・」
「陳、よう言うた・・・きっと儂でも同じ事をする」王が言った。
「師匠!」
「子龍よよく聞け、師と言うものは弟子の成長に責任を持たねばならん。植木職人が自分の植えた苗木を何年もかけて育てて行くようにな。もし途中で育て方を間違えれば、庭の全景を損なう前に自ら引導を渡さねばならんのだ。もしお前が道を誤って武の道を辱める事があれば、儂は全力でそれを阻止するであろう」
「王、無駄に歳は取っておらぬの」陳が嬉しそうに言った。
「陳、お主が死んだら妖怪になって生き返る方法を教えてやる」
「結構じゃ、この世に未練なんぞないわい」
「負け惜しみを言うで無い」
「本当のことじゃ」
「まあ良い、で、これからどうする?」
「儂は山を下りる」
「下りてどうする?」
「暫くお主の道場に世話になろう」
「そうか、では今夜は腕に縒りをかけて自慢のうなぎ鍋を作ってやろう」
「ならば秘蔵の紹興酒を持って行こうかの」
「師匠達、何か楽しんでいませんか?」子龍が訝しんだ。
陳傳がニッと笑った。
「年寄りにはどんな刺激でも楽しいもんじゃよ・・・」
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満月の夜、高雄警察署の死体安置所から一体の屍体が持ち去られた。
陳が王武館に入った翌日の事である。
夫の浮気に逆上して、情婦もろとも刃物で滅多刺しにして殺し、自らも喉を突いて自殺した女の遺体だった。
高雄警察署では、いくつかの遺体の中から何故この女の遺体だけを持ち去ったのか皆目見当をつけられずにいる。殺された亭主か情婦の関係者が、仇討ち目的で持ち去ったという見方が有力であるが、確証は掴めていない。
ガオは祭壇の前で鶏の血と墨を混ぜたもので女の全身に字を書くと、指で印を結び呪を唱えた。
すると徐々に女の髪の毛と爪が伸び始め、口元からは今まで無かった八重歯が見え始めた。
「お前の恨みはあの程度の事では晴れはすまい・・・もうすぐだ、もうすぐお前は生まれ変わる・・・」
ガオの祈りの声が一段と高まった、そしてそれが最高潮に達した時・・・
「怨!」
ガオが叫んだ。
その瞬間屍体の目がカッと見開いた。
屍体は操り人形のように上体を起こし、そして立ち上がる。
「さて、最後の決戦だ、存分に暴れるが良い!」
ガオが命じると、女は歩きにくそうにタタンタタンと足を引きずりながらドアを出て行った。
「ふん、そのうちちゃんと動けるようになる・・・」
そう言ってガオは女の後を追った。
タン・タン・タン・・・
「ふむ、だいぶ硬さが解れてきたな」満月の下でガオが呟いた。
キョンシーも素材は屍体である。硬直した躰が柔らかくなるにはそれなりの時間がかかる。
ガオは人に見られぬよう真夜中の裏道を選び、王武館目指してキョンシーを誘導して行った。
キョンシーの動きもだいぶ柔らかくなり、突っかかるように歩いていたのが今では軽く飛び跳ねるように歩いている。王武館に着く頃にはもう少しスムーズに動けるようになっているに違いない。
「この女の恨みはこの前のキョンシーよりも大きい、最強のキョンシーになるぞ」
ガオは女の背中を見ながら北叟笑んだ。
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「陳、酒はもうないろか?」
食堂の卓で酒を呑んでいた王の呂律が怪しくなった。
「王、そろ甕れ最後りゃ・・・ヒック」陳も御同様である。
陳が王武館に居候するようになって二日目、あれほど歪み合っていた爺い二人だが、酒の上で意気投合してしまい、陳が道院から持って来た秘蔵の紹興酒三甕のうち、早やニ甕を空にしてしまっていた。
「師匠方、いつガオが襲って来るかも分からないのに、そんなに呑んで大丈夫なのですか?」
子龍が心配そうに訊いた。
「ヒック・・・ガオらろうとガルルらろうと心配には及ばぬ・・・爺いのパワーを侮るれらい」
王が朦朧とした目で子龍を睨む。
「フヒヒヒヒ・・・拳法はいいらぁ・・・酔拳なんろという便利なものらある・・・ヒック」
陳が皮肉っぽく呟く。
「ふふふ、羨まぴいか・・・酔っらら呪文は唱えられらい・・・ヒック」
「ヒック・・・馬鹿抜かせ・・・これしきの酒れ霊力ら弱まるもろら・・・」
「ふふん・・・ならお主ろ霊力とやられ儂の動きを止めてみれ・・・ヒック」
「おお、やってやろうりゃないら・・ヒック・・・あろれ吠えるらをかくら・・・」
「やれるもんならやってみれ・・・ヒック」
「よ〜し・・・ブツブツブツ・・・」
「陳・・・何をブツブツ言っれおる・・・」
「ふん、お主を金縛りにする呪文りゃわ・・・ヒック」
「そんなもろ儂には効かる・・・ほ〜れほれほれ・・・ころ通り動けるりゃないら・・・ヒック」
王が巫山戯て陳の周りを踊りながら回り出す。
「喝!」
陳の声に一瞬当たりが静寂に包まれた。
「あれ、師匠が動かない?」子龍が恐る恐る王に近付いて躰に触れている。
「ハハハ・・どうら・・・儂の術は・・・王の奴め動けなくなりよったりゃろう?」
「陳老師、早く術を解いて下さい、今ガオに襲われたら一溜りもありません!」子龍が慌てて懇願した。
「ようし・・・これれ王も少しは懲りらじゃろう・・・」
陳は印を結んで呪を唱えた。
「あれ・・・?」
「どうしたのですか老師?」
「術が・・解けぬ・・・」
「ええっ!」子龍の顔が生成りの糸瓜のように真っ青になった。「早くどうにかしてください!」
「待て待てそう騒ぐでない・・・おかしいな、呪文を間違えたか・・・」
陳が腕組みをして首を傾げた。
「ろ、老師、早く思い出して!」
「急かすでない、そのうち酔いが覚めたら思いらす」
「そ、そんな・・・」
その時、バン!と扉が開いて使用人の包が食堂に飛び込んで来た。
「先生、またあの足音が聞こえるよ!」
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タンタンタン・・・
廊下の奥から足音が響いて来た。
「陳老師、早く王先生の呪縛を解いてください!」
子龍が陳の両肩を乱暴に掴んで揺さぶった。
「こ、こら、そんなに揺すったら思い出せぬわい・・・」
すっかり酔いの覚めてしまった陳は、首をガクガクさせながら子龍に言った。
「こうなったら仕方がない、儂とお主でやるしかない」
「王先生は?」
「思い出したら術を解いてやるわい」
「どうやったらいいのです?」
「ガオを倒す前に先ずキョンシーを倒さねばならん。お主はこの呪符でキョンシーの動きを止め桃剣でとどめを刺せ・・・出来るか?」
「はい、この前やりました」
「そうか・・・それから言い忘れておったが、危なくなったら息を止めて動くなよ。キョンシーは極端に目が悪い、人の呼吸と音で居場所を察して攻撃してくるでな」
「分かりました!」
「よし、行くぞ!」
二人は廊下に飛び出した。
タン・・・
キョンシーの動きが止まった。
「陳先生・・・」
キョンシーの後ろから声が聞こえる。
「ガオか?」
陳は子龍の前に出て問いかけた。
「やはり出て来られましたな」
ガオがキョンシーの後ろから姿を現す。
「儂の命が望みか?」
「先生が私の邪魔をしないとおっしゃるのなら、命まで取ろうとは思いません」
「嫌だと言ったら?」
「不本意ながらこのキョンシーで・・・」
ガオがチラリと後ろを振り向いた。
「以前この男にキョンシーを倒されたと言うではないか?」
陳が子龍を指さした。
「ふふ、あのキョンシーは恨みが足りませんでした。しかしこいつは違います、今度こそその男の息の根を止めて見せる」
子龍が陳の前に出た。
「ふん、返り討ちだ!」
「今度はこの前のようには行かん」
「俺はもう妖の恐怖を乗り越えたのだ、そんな奴屁でもない!」
ガオがニヤリと笑った。
「ならば・・・やれキョンシー!」
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包は踊りを踊ったままの姿で固まっている王を見て、オロオロしていた。
「王先生、早く李先生を助けに行かなきゃ、あの二人では心許ないよ!」
撫でても叩いても王はウンともスンとも言わない。
「王先生、どうしたね!どうして動かないね!」
包は途方に暮れて、間抜けな姿の王を呆然と眺めていた。
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『フゥー・・・』
キョンシーは口から息を吐いて子龍を威嚇した。
「臭っ!」思わず子龍は叫んでいた。
「キョンシーは屍体じゃ、腐臭を発するのは当たり前じゃ」
陳が冷静に子龍を諭す。
「これじゃ言われなくても呼吸を止めてしまいそうだ」
子龍は顔を顰めてキョンシーに対峙する。
キョンシーが腰を落とした。
「気をつけろ、キョンシーは時間が経てば動きが良くなる」
「なら、早いとこカタをつけなきゃ」
キョンシーが床を蹴った。牙を剥き出しにして子龍に飛び掛かる。
子龍は桃剣を振るってキョンシーの肩を強かに打った。
ギャー!と言う叫びと共にキョンシーが後方へ吹き飛んだ。
「今じゃ、呪符を貼れ!」陳が叫ぶ。
子龍が飛び込むと正面から火の玉が飛んで来た。咄嗟に躱して前を見ると、ガオが印を結んで呪を唱えている。
「霊符を燃やして飛ばしているのじゃ、触れると動けなくなるぞ!」
次々と飛んでくる火の玉を、子龍は桃剣で凌いだ。
その間に立ち上がったキョンシーが再び子龍に飛び掛かった。明らかに動きが良くなっている。
「くっ!」
両手の爪を立てて攻撃して来た。桃剣で払うと、弾かれたように手を引っ込める。
「爪に気をつけろ!傷つけられるとお主もキョンシーになる!」
ビクリとして飛び退がった。
「早く言ってください!・・・ふぅ危ないところだった」
子龍はジリジリと間合いを詰めた。キョンシーも桃剣を警戒して直ぐには攻めてこない。
ガオの火の玉攻撃も今は止んでいる。陳が呪符を手にしてガオを牽制しているからだろう。
陳にも火の玉を飛ばせるに違いない。
子龍が自分から前に出た。桃剣で牽制して下段蹴りをキョンシーの足に叩き込む。
グワッ!
蹴った子龍が呻き声を上げた。
「なんだ、鉄のように硬いぞ!俺の蹴りが少しも効いていない!」
信じられないと言った表情で子龍が立て続けに蹴りを繰り出した。
全ての技が人体の急所にヒットしたがキョンシーは平気な顔で立っている。
「人の攻撃は、たとえ銃や剣でも奴には効かん、桃剣を使え!」陳が言った。
「それも先に言って下さい!無駄にエネルギーを使ったじゃないですか!」
「すまんすまん、あとキョンシーは鏡と日光に弱い」
「鏡・・・」鏡なら道場にある。
「おい、こっちだ!」
子龍はキョンシーに背を向け、道場に向かって一直線に走り出した。キョンシーがそれを追う。
体当たりするようにドアを開け道場に飛び込んだ。目の前に全身を映し出す大鏡がある。
子龍を追って入ってきたキョンシーが絶叫を上げ、顔を両手で覆って蹲る。
その顔面に思い切り蹴りを入れる。
キョンシーが仰向けにひっくり返った。
「蹴りが効いた!」
子龍は倒れたキョンシーを滅茶苦茶に蹴りまくる。
たまらずキョンシーが顔から手を離して蹴りを防ごうとした。
「今だ!」
子龍は懐から呪符を取り出し、空いたキョンシーの額にペタリと貼り付けた。
手を上げた姿勢のままキョンシーの動きが止まる。
「これで終わりだ!」
桃剣を逆手に持って子龍が叫んだ。
その時、火の玉が飛んで来て子龍の手を直撃した。桃剣は子龍の手を離れ道場の壁にぶつかって床に落ちた。
また火の玉が飛んで来てキョンシーの額に貼った呪符を焼き尽くす。
途端にキョンシーは米搗蝗のように飛び上がった。
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「包、思い出したぞ!」陳が食堂に飛び込んで来た。
「な、なにを?」
「王を縛っている術を解く呪文をじゃ!」
包は飛び上がって喜んだ。
「老師、早く王先生の呪縛を解いて!」
「よし!」
陳は印を結んで呪文を唱え始めた。「$&%#*?“&・・・」
「喝!」
陳が気合を入れると、王が弾かれたように目を覚ました。
「ん?どうした、儂は何をしていたんじゃ?」
「すまんすまん、儂が金縛りの術をかけたばっかりに・・・」
陳が謝ると王が耳に手を添えて聞き耳を立てた。
「なんだか外が騒がしいようじゃが?」
「そうじゃった!子龍が今道場でキョンシーと戦っておる」
「なんじゃと!」
王と陳が食堂を飛び出した。
「早く早く、李先生を助けてよ!」
包の悲痛な叫びが食堂にこだました。
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子龍は絶体絶命のピンチに直面していた。
ガオによって鏡も割られキョンシーを止めるものが何も無くなった。
ただ必死にキョンシーの攻撃を避け続けるだけである。
爪や牙を躱して拳や蹴りを叩き込むが効果はない。
そして、いよいよ道場の角に追い詰められたのだ。
「こうなったら落ちている桃剣を拾って、相打ちに持ち込むしかない。俺の屍は師匠達に焼いてもらおう」
子龍はそう決心して目の端に桃剣を捕らえた。
途端にキョンシーが飛びかかって来た。床にダイブして桃剣を掴もうとしたその時、またもや火の玉が桃剣を弾き飛ばした。
子龍万事休す!
「そこまでじゃ!」
キョンシーが声に反応して動きを止める。
王がキョンシーに、陳がガオに対峙した。
「王、お主の攻撃はキョンシーに効く!なぜならお主が妖怪だからじゃ!」
陳が声を投げて寄越した。
「そうか、ならば!」
王がキョンシーの懐に飛び込んだ。
「発勁!」気合もろともキョンシーに勁を叩き込む。
キョンシーが吹っ飛んで壁にぶつかって落ちた。
「子龍、桃剣をキョンシーの心臓にぶち込むのじゃ!」王が叫んだ。
子龍は立ち上がって桃剣を拾うと、キョンシーに向かってぶつかって行った。
キョンシーの断末魔の叫びが道場にこだまする。
心臓を貫かれたキョンシーは、苦悶の表情を浮かべて床を転げ回っていたが、そのうち静かになって動かなくなった。
「陳、こっちは終わったぞ」
王が言うと陳が無言で頷いた。
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「ガオ、改心する気は無いのか?」
陳が最後の言葉を投げかけた。できうる限り弟子を正しい方向へ導こうとするのは師としての務めであろう。
「無い・・・と言ったら?」
ガオが陳を睨みつけるようにして言った。
「お前を道連れにして儂も死ぬ」
「ふん、勝手なものだな。俺をここまで育て上げておいて、自分の意に染まなくなったら始末すると言うのか?」
「違う、道教の『道』と言うのは絶対的な道のことを言う。しかるにお前は相対的に人と比較して自分の術の優位性を誇ろうとする。それは道教の教えに背くものじゃ」
「道教は不老不死の神仙となり、自己の思うがままに生きるのが目的じゃないのか?」
「自己が思うがままに生きることと、他を自己の思うがままにする事とは根本が違っておるのじゃ、それが分からぬか?」
「分からんな」
「これほど言ってもダメか?」
「くどい!」
ガオが印を結び呪を唱え始めた。
「これまでのようじゃな・・・」
陳も同じように印を結んだ。
『怨!』真っ直ぐに陳に向かって伸ばされたガオの指先から、赤い光が飛び出した。
『喝!』同じように、陳の指からは青い光が飛び出し赤い光とぶつかった。
赤と青の光はぶつかったまま、二人の間で火花を散らしている。
『怨・怨・怨・怨・・・・・・』
ガオの声が高まると赤い光が青い光を呑み込んで行く。
陳は歯を食い縛ってさらに声を高くした。『喝・喝・喝・喝・・・・・・』
青い光が赤い光を押し返す。
赤い光と青い光は行ったり来たりしながら宙空で一進一退の攻防を繰り返した。
「このままでは埒があかん・・・」陳が呟いた。
「陳、手伝うぞ!」王が言った。
「ならん!」陳は語気を荒げた。「これは儂の仕事じゃ、邪魔をするな!」
王はガオに向かいかけた足を止め、陳の言葉に従って道場の端に引き退がった。
「王、良く見ておけ!」
陳は指をクルリと回して青い光の軌道を変えた。
すると、瞬時に青い光はガオの左胸を貫いたが、同時に赤い光も陳の躰を貫いた。
二つの躰がドウと倒れた。
「陳!」王が叫んで陳に駆け寄った。
王が抱き起こすと陳は僅かに目を開けた。
「王先生、ガオは絶命しています!」子龍がガオの鼻腔に掌を当て、呼吸を確認して言った。
「そ・う・か・・・」
陳が苦しい息の下で言った。
「これで・・儂の役目は・・・終わった・・・」
「陳、死ぬな!」王が陳を強く抱きしめた。
「最後の夜は・・・楽しかった」
「陳、死神が迎えに来たら、股の下を潜るのじゃ・・必ず戻って来い・・・陳!」
陳は微かに笑って目を閉じ、ガクリと首を落とした。
その夜、陳とガオの師弟の骸は、一つの煙となって満月に向かって昇って行った。




