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プロローグ

よろしくお願いします。

 お終いは、ある日突然やって来た。


 あれは、久し振りに死神である私の存在に気が付いた、”可哀想な誰かさん”――つまり、彷徨える魂を彼岸へと送り届けた帰り道。

 一仕事を終えた私は、大きな河沿いに敷かれた堤防道路脇の歩道を上機嫌で歩いていた。


 あと数百メートルも歩けば、そこは左右に道が分かれた三叉路になっていて、隙間の空き地には、1本の夏椿と、死神の私と相棒の神様ハチが住処にしている寂れた祠がある。

 

 ――ハチも一緒に来ればよかったのに。


 そんなことを思いながら、寂れた祠に視線を向けようとしたその時、私は強烈な眩暈に襲われた。

 グラグラと揺らぐ視界に、歩道脇を歩いていた私の足が止まる。思わずその場にへたり込みそうになったけど、膝にぐっと力を入れてそれを堪えた。

 そのままの姿勢で額に手を当てて俯くと、視界の揺らぎに合わせて、黒いセーラー服の裾がぐにゃりと歪んだ。


 やたら長く感じたけど、実際の時間にすればそれは十数秒の事だったと思う。

 その間、歩道脇の手すりを掴んで身体を支え、目を閉じて眩暈の症状が落ち着くのを待つ。だいぶ良くなってきたところで、ゆっくりと目を開いた私が目にしたものは、信じられない光景だった。

 なんと、三叉路の真ん中にある祠が、周囲の空き地ごと円筒状の結界に飲み込まれていたのだ。


「――ハチっ!」


 咄嗟に相棒の名前を呼んで、全速力で駆け出す。

 常人の走るスピードを遥かに超えて祠に近づくが、ちっともその内部が見えてこない。たぶん、結界の内部がこちら側――幽世かくりよから隔離されているんだろう。きっと、出てきたくても出てこれないのだ。

 その証拠に、こういう時どこからともなく私の足元に現れるハチが、いつまで経っても姿を現さない。

 だったら、聞こえもしないのに何度も呼びかけるのは無駄と言うもの。

 こういう時、最優先はまず現場に向かうことだ。

 自分をそう納得させて、どんどん走る速度を上げていく。


 だけど、実際のところ私は、祠を覆う円筒状の結界に辿り着くまで、何度も何度もハチの名前を呼んでいたのだった。

 そして、私が現場に到着するまでに、ハチの返事が聞こえることは無かった。


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