7)知らせ
アレキサンダーも、グレースにとっては初産であり、危険は多いことはわかっていた。アレキサンダー自身の母親の件もある。
できれば王太子宮を離れたくはない。だが、視察に行かなくては、地方貴族への示しがつかない。考えうる中で、最短の日程で視察を済ませ、一行は王都に戻ろうとしていた。
「王太子妃様が産気づかれました」
王都まで、十日もかからない町に到達した時、やってきた使者が告げた。医師たちの見立てよりも一か月早い。早いというより早すぎる。帰還を急いだ一行に、次の使者が、小さな女児、姫が生まれたことを告げた。産声も上げず、乳を飲まない。との知らせにアレキサンダーは落胆した。ロバートはかける言葉もなかった。
「グレースが無事だったことだけが救いか」
その晩、アレキサンダーはロバートを早々に部屋から追い出した。翌朝、アレキサンダーは、強行軍で王太子宮に戻ると宣言した。反対する者などいなかった。
急いで帰還した一行を出迎えた者は、驚くべきことを告げた。
「姫はご存命です」
その言葉に、アレキサンダーとロバートは西の館へ急いだ。
グレースの部屋の扉が、やや乱暴に開かれた。
「アレックス」
寝台に腰かけていたグレースがアレキサンダーを出迎えた。その腕にはたしかに赤子を抱いていた。
同じ寝台に身を横たえていたブレンダとローズが立ち上がり、揃ってお辞儀をした。
「女の子、姫です」
グレースの腕の中の赤子は、たしかに生きていた。
「無事に、生まれていたのか」
アレキサンダーはグレースと我が子を抱きしめた。
「小さすぎるといわれました。乳も飲めなかったのです。私もあきらめたのですけど」
グレースはアレキサンダーの胸で涙を流した。
「ようやく、乳を飲めるようになりました」