21)芝居のあとの宴
ロバートは、ローズを連れて広間に戻った途端、アレキサンダーと近習達にかこまれてしまった。
「さて、ロバート。お前はいろいろ隠してくれていたようだが」
芝居が始まったときから、アレキサンダーの追求は予想していた。さて、どうしたものか。ロバートは逃れる手立てを考えてみた。
「アルフレッド様にお礼を申し上げていないのですが」
「後でいい」
ロバートのささやかな抵抗は封じられた。
「さぁ、ロバート、何があったか、詳細に、教えてもらおうか」
アレキサンダーは上機嫌だ。
「アレキサンダー様、すでに過ぎたことですし、今更申し上げても何も変わりませんが。それにその後のこともありまして、少々記憶も曖昧です」
「そうか。覚えている限りで、何があったか、報告を聞こう」
アレキサンダーは諦めてくれないらしい。
「芝居に全部盛り込めるわけがないさ。どうせ他にも色々あったに決まっている」
エドガーの言うとおりだが、一つ一つなど、本当に覚えていない。危なかった事件以外に、伏せておきたいこともある。
今は、芝居の後の宴会のはずだ。客人達をもてなし、芝居を演じた一座の者たちを慰労するための時間だ。
ロバートは、婚約した翌日の食事の席を思い出した。
「ロバート」
ローズに呼ばれて返事をしようとした口に、菓子が一つ放り込まれた。
「お食事、美味しそうだから頂いたほうがいいわ。だから、何があったか、きちんとお話ししましょう」
そう言うとローズは、食事を楽しみ始めた。
「ローズ、あなた一人で先に楽しんでおられるようですが」
「ロバートも早く喋ってしまったら、いいのよ」
「そのとおりです」
ロバートが手を伸ばした皿は、エリックにより遠ざけられてしまった。
「数回の襲撃が有った程度です。いずれもアーライル家の騎士達が退けてくれました」
「ほう」
「あとは、話し合い場で、血気盛んな若者に掴みかかられそうになったくらいです」
「それはどうなった」
「思わず蹴り飛ばしてしまいました。少々の誤解を元にした乱暴でしたので、誤解が解けて、以降の話し合いは有意義に進みました」
「それから」
ロバートを追求していたアレキサンダーが、近づいてくる人物に気づいた。
「あぁ、カール良い芝居だった。丁度、ロバートをとっちめていたところだ。よいところに来たな」
カールが申し訳無さそうにしているのは、ロバートの錯覚ではないだろう。
「カール。よい芝居ではありましたが、この状況を何とかしてください」
無理だと言うようにカールは首を振った。確かに、商人で、芝居の興行主でしかないカールに、王太子であるアレキサンダーを止める力などない。
「ロバート、カールさんのせいにしたらいけないわ。あの頃、ちゃんと報告しなかったロバートが悪いのよ」
ローズの言葉は、ロバートの耳に少々痛い。
「過去のことで、責められても、今の私にはどうしようもないのですが」
「何、もう無茶はしないと、今、私に確約してくれるだけでよいぞ」
アレキサンダーは毎回の無茶を言ってくれる。
「そうしたいのは、山々ですが、私一人の都合ではどうにもなりません」
ロバートも死を望むわけではない。襲撃してくる刺客や、食事に毒を入れようとする者から、アレキサンダーを守ろうとする結果だ。
残念なことに、カールは逃げ出してしまった。
「アレキサンダー様に、悪いことをしようとする人が、そもそもの原因ですものね」
ローズがまた、ロバートの口に菓子を放り込んでくれた。
「でも、ロバートがもうちょっと頑張ったら、そんなに危ない目に遭わずにすむ方法もあったのではないかしら」
ローズは助けてくれるのかと思ったが、違ったらしい。菓子を口に放り込まれたのは、ロバートの反論を封じるためだったのだろう。
「努力はしていますよ」
ようやく菓子を飲み込み、ロバートが反論したときだった。
「俺は、無難に済ませる余地はあったと思うぞ。少なくとも一回は、俺はその場にいたし」
エドガーが余計なことを言ってくれた。確かに刺客に襲撃された際、軽いものを含めて怪我をしたことが複数回ある。軽症だった一回はエドガーがいたはずだ。
「見方を変えれば、エドガー、あなたがもう少し活躍されたら良かったのではありませんか」
トビアスのおかげで話の矛先がロバートからそれた。
「俺は俺でちゃんと対応していたぞ」
その間に、ロバートの目の前に、ローズが料理を乗せた匙を差し出してきた。
「ローズ、私は自分で食べられますが」
「えぇ。これ、美味しかったの」
楽しそうに匙を差し出すローズを断るのは、ロバートには難しい。仕方なく開けてやった口に、ローズが匙を差し入れてくる。
「面白いわ」
「ローズ、私で遊ばないでください」
「だって、楽しいもの。大人なのに、小さい子みたい」
上機嫌のローズは、ロバートの抗議を意に介さず、次の料理に手を伸ばしていた。膝の上で傾いたローズの体をロバートは支えた。
懐かしい記憶が蘇り、ロバートは微笑んだ。
ローズは、御前会議に参加するようになったばかりの頃、本当に小さかった。大人用の椅子では、高さが足りず、嵩高なクッションの上に座らされていた。小さかったローズは議論に夢中になり、何度もクッションから落ちかけた。ロバートはその都度支えてやった。あの頃に比べれば、ローズの背丈も随分と伸びた。
「あなたが食べさせるからです。ローズ、私は自分で食べられますから」
「そうね。はい」
ローズは、新しい遊びに夢中らしい。ロバートは、ローズの笑みにつられ微笑むと、口を開けてやった。
第三部お付き合いいただきありがとうございました。
第四部も連日投稿です。
第三部第十一章 16)-19)別視点の幕間も投稿しております。
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