14)王家と王家の揺り籠
アルフレッドの誕生祭は園遊会を兼ねており、日中から始まる。
ローズは園遊会で、グレースの傍に付き添っていた。グレースと同じ意匠で色違いのドレスをローズは着ていた。ローズがグレースの寵愛を得ていることを、周囲に知らしめる効果はあった。
乳母と一緒にソフィアをあやしながらグレースに付き添うローズの姿は、王太子アレキサンダーと王太子妃グレースから信頼を得、王女ソフィアに好かれているということを、貴族達も認めざるを得ない光景だった。
グレースのドレスは、グレースとアレキサンダーの瞳と同じ空色だ。ローズのドレスは緑色だった。ローズの左手薬指には、普段首から下げている婚約指輪が光っていた。
ロバートの緑でもない榛色でもない瞳の色を布で再現するのは難しかったのだろう。それでもロバートは、自分の瞳の色に近いドレスを着ているローズの姿に幸せを感じた。
幼いソフィアを連れていたグレースの一行は、園遊会では早めに退席した。
「自分の料簡の狭さを知りました。グレース様、ありがとうございます」
夜の誕生祭の用意をしていたグレースにロバートは礼を言った。
「ローズには本当に世話になっています。ローズがいなければ、ソフィアはいなかったのよ。ソフィアのこともあるし、私のこともあるから、ローズが誕生祭の場に長居することはないわ。最初の挨拶だけよ。今年は私とアレックスのダンスも短めですから。安心なさいな」
グレースは、腹に二人目の子を宿している可能性があった。まだ、確実ではない以上、明らかにはできない。
「ローズ。もし、この子が生まれたら、また、お姉さんにもなってあげてね」
「はい」
グレースの言葉にローズは笑顔だった。
誕生祭でもローズはグレースと同じ意匠のドレスを着ていた。ただ、その色遣いをみたロバートは思わず赤面した。緑色のドレスだが、背や胸元には榛色のレースがあしらわれていた。こうなってくると、誰の瞳の色を模しているか、見てわからないものはいないだろう。
恒例の挨拶のあと、楽団が音楽を奏で始めた。ダンスの時間だ。アレキサンダーとグレースが中央に進み出た時だった。アルフレッドがローズの手をとった。
「ローズ、せっかくだから私と踊ってくれないか」
驚いたローズがアルフレッドを見、ロバートを見てきた。ロバートはローズにだけわかるように頷いてやった。
「私でよろしければ」
「もちろん。息子アレキサンダーが後見する可愛いローズだからね。アレキサンダーが兄の代わりなのだから、父親代わりは私だよ」
周囲のざわめきをよそに、アルフレッドは小さなローズの手をとり、中央に進み出た。
アルフレッドと小柄なローズのダンスは、父が娘と踊るようだった。一部、敵意のこもった視線もあったが、大半が、微笑ましいものを見る目だった。
アルフレッドは一曲踊り終わると、ローズをつれて戻ってきた。
「ロバート、悪いが君の婚約者を借りたよ」
大きな声ではないが、周囲にいる貴族に聞かせるには十分だった。
ロバートの一族は、王家に仕えて久しい。アルフレッドとアレキサンダーは、王家と“王家の揺り籠”の絆を周囲に示したのだ。
「ロバート、ローズと踊っておいで」
アルフレッドの言葉は命令でもある。
アレキサンダーとグレースはまだ会場の中央にいた。楽団が次の曲を奏で始めた。
「では、ローズ、私と一曲いかがですか」
作法通りにロバートはお辞儀、ボウ・アンド・スクレープをした。
「はい」
頬を染めたローズが、カーテシーでこたえた。
本来、国王の誕生祭で使用人が踊るなどない。それほどの絆があることを、貴族全体に知らしめたのだ。
ロバートには、アルフレッドとアレキサンダーが、この国のなにかを変えようとしているという予感がした。




