10)爪を研ぐ
夜、執務室でアレキサンダーは、ロバートと向き合っていた。
「バーナードを失脚させたらお前も連座で立場が危うくなるから手が出せんな」
「来年狩場で事故があればいいだけです。狩場に行くよう仕向けていただければ」
ロバートは静かに言った。
「お前、それはやめておけ」
実の父親を自ら射殺すというロバートの発言をアレキサンダーは止めた。
「事故です」
もう決めたといわんばかりのロバートの目つきが怖い。
「落ち着け。その方法だと、かなり先になる。それまでローズが今のままではかわいそうだろう」
「そうですね。おっしゃる通りです」
昔から、ロバートは父親であるバーナードのことになると、冷静さを失う。バーナードには、その時々で相手は変わるが、常に愛人がいる。アレキサンダーの乳母でありロバートの母であるアリアが生きていた頃も、何人もの女に手を出していたと聞く。そんなバーナードを、ロバートが心底嫌っていることは、アレキサンダーも知っている。
アレキサンダーは物心つく前から、ロバートと一緒に育った。アレキサンダーがバーナードに会ったことは数える程度だ。会話したこともほぼないというロバートの言葉も誇張ではない。
そのロバートが、亡くなったロバートの母によって得た侍従長という立場を利用して、婚約者であるローズを泣かせていたと知れば、ロバートが冷静であるはずがない。
「お前が妙な行動をしたら、私はお前を処罰しなくてはならなくなる。落ち着いて考えろ。必要なのは、ローズの立場を護る方法であって、バーナードを始末する方法ではないぞ。落ち着け」
「承知しました」
殺気立ち、目つきの鋭さから慌てて指摘したら、やはり懸念した通りだったらしい。ロバートの纏う雰囲気が変化した。
「お前の忠義も、ローズのそれも、私にとっては大切なものだ。無茶なことはするな。焦るな」
最後の一言は、アレキサンダー自身に言い聞かせる意味もあった。




