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9)父であり父でないもの

 ロバートは腕の中で、泣いているかのように身を震わせるローズを抱きしめていた。涙をこらえているのだろう。悪意のある者達から、ローズを守ってやれなかったことは二度目だ。おまけに今回は、バーナードが絡んでいる。ロバートは、波立つ胸の内を無理矢理抑え込んだ。


 殺気立っては、ローズを怯えさせてしまうだろう。ロバートは、憎いバーナードを意識の外に追い出した。

「ローズ。あなたを愛している私の他にも、アルフレッド様やアレキサンダー様、グレース様や、他にも沢山あなたを大切に思う方々はおられます。私とあなたの婚約を祝福してくださったでしょう。あなたのことなど何も知らないあの男の言うことなど気にしてどうしますか」

「でも、あなたのお父様よ」


 親のいないローズは、親子や家族に憧れがある。そこにある愛に強く憧れているのは知っている。だが、愛のある親子や家ばかりではないのだ。


「父は私を道具としてしかみていません。私の母のこともそうです。アルフレッド様は、私のことをアレキサンダー様の乳兄弟として、可愛がってくださいました。逆に、バーナードは、実の父ですが、会話したことはほぼありません。バーナードは、私の母がアレキサンダー様の乳母になったということを利用して、侍従長になりました。そうやって母を利用しておきながら、あの男には、常に愛人がいました。おまけに次から次へととっかえひっかえです。そんなふしだらな男に、今更、父親面をされても迷惑なだけです」


 ローズが驚いて、ロバートを見上げていた。

「そういう親子もあるのです。もっとも親と思っていないので、親子というのも嫌ですが」

「でも、あなたは悲しそう」

ローズは他人の感情には敏感だ


「母は、父のことをほとんど語りませんでした。何度か尋ねたことがありますが、寂しそうにほほ笑むだけでした。あの男の話をすると、どうしても悲しそうだった母のことを思い出すので、それが悲しいだけです」


 ロバートは突然、腕の中にいたはずのローズに抱き寄せられた。 

「悲しいときは泣いていいって、あなたはいったわ」

 

 疫病の町に行ったときも帰ってきたときにもあの男には何も連絡していない。あの男からも何も連絡はなかった。母にも自分にも、一度も何の愛情をも示してくれなかったあの男を恨む以外に自分にどうしろというのか。


「ローズ、あなたは優しい人です。優しすぎる」

ローズまでを傷つけようとするあの男が憎い。父であって、父ではない男だ。母の命を奪ったストールの送り主がバーナードであることを、日の元に晒してやりたい。だが、そうなると子であるロバートの連座は免れない。一時はあの男を殺すことができるのであれば、それでも良いと思っていた。アルフレッドに涙ながらに説得され、その方法はとらないと誓わされた。


 バーナードなど消し去ってやりたい。だが、互いに立場があるため、法に触れないように始末することは難しい。王宮から、いっそ王都から追放され流民にでもなれば、始末は簡単だ。


 王宮の掌握が必要だ。


 ロバートは、身を任せてくるローズを愛しみながら、次に打つべき手を考えていた。

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