7)デヴィッドの報告
思い知らせてやろうにも、貴族の子女ともなると、デヴィッド一人ではどうしようもない。頼るべき御方に頼るのが正しい筋道だ。
デヴィッドはアレキサンダーとロバートに、自分が見聞きしたものを、包み隠さず伝えた。
「そういうことか」
デヴィッドの報告にアレキサンダーはつぶやいた。
「お行儀悪いから、行儀見習いに来ていらっしゃるのよ。当たり前のことを報告しなくてもいいでしょう」
ローズがデヴィッドを一生懸命睨んでいるが、子猫の威嚇と同じで可愛らしいだけだ。その隣のロバートが、ローズの肩を抱きながら、誰もいない空間を見据えているほうが、よほど恐ろしい。
「ロバート、お前、独断では動くな」
「貴族の子女に、私が何をできるとおっしゃるのですか」
冷え冷えとしたロバートの声が落ちた。デヴィッドは背筋が凍るのを感じた。貴族ではなかったら、何をするつもりなのだろうか。ロバートが本気になれば、相手が貴族だろうが何だろうが、関係ないことをデヴィッドは知っている。
「貴族じゃなくても、何かしたら駄目よ。愚かな人達は、己の愚かさすら知らないのだから、放っておきましょう」
ローズはロバートを止めているが、ローズの言葉は手厳しい。
「放っておくことはできません。あなたを泣かせたでしょう」
「違うわよ」
ロバートの言葉をローズは即座に否定した。
「では誰ですか?」
ローズがそっぽを向いて答えない。
「ローズ?」
ローズはロバートの胸に顔をうずめた。
「ローズ、ごまかそうとしても無駄ですよ」
「もう、気にしないって決めたからいいの」
「よくありません。私は気にします」
「もう大丈夫なの」
「あなたの大丈夫は、信用できません」
恋人同士のじゃれあいだが、この二人だとどうも甘さにかける。デヴィッドが目の前でみているのは、相思相愛の若い男女、恋人達の駆け引きのはずのものだが、何か違う。
「貴族とはいえ、たかが行儀見習いだ。この国に貢献しているローズの陰口など、傲慢が過ぎる。見習いの躾がなっていない。躾けるのは誰だ」
アレキサンダーの質問に、ロバートが答えた
「侍従長バーナードです。私の父です。一族の裏切り者、恥さらしです」
ロバートの声が冷たく響き、ローズが顔を上げた。
「あの男は何を言いましたか」
ロバートは優しく微笑んでいるが、怒っていることは明白だ。ローズはまた、うつむいてしまった。
「やはり、あの男ですね。あなたが言ったとはいいませんから、何を言ったか教えてください」
ローズは口をつぐんだままだった。




