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4)ローズとアイリーン2

「ローズ、貴族の宴会にはダンスが必須です。練習しましょうね」

ロバートの言葉にローズの笑顔が一瞬で消えた。


「ダンスは苦手だわ。その存在理由も目的も意義もわからないわ」

ローズはよほどダンスが嫌いなのだろう。ダンスを否定する言葉が、やたらと堅苦しい。

「自分が苦手だからって、存在自体を否定するのは、はしたないですよ。ダンスが好きな方もいらっしゃるのですから」

ロバートが注意しているが、あまり熱意が感じられない。

「練習しても上手にならないし、先生にため息つかれるだけだから楽しくないわ」

「楽しいものではありませんが、社交上の付き合いで必要ですから覚えてください」

 

 アイリーンは親しげな二人の会話を微笑ましく思いつつも、ロバートに呆れた。婚約者に楽しくないけど練習が必要といわれて、ダンスの練習に励む娘などいないだろう。朴念仁は、レオン一人ではないらしい。


「ロバート様はダンスが御嫌いですか」

レオンも、ダンスなど練習する暇があったら鍛錬するほうがいいと言っている。


「御令嬢相手では気を使いますし、こちらが足を踏むのはもちろんいけませんが、踏まれないようによけなければなりませんから疲れます。私が踊る機会があったのは、アレキサンダー様が婚約される前です。アレキサンダー様が、まだ婚約者候補であられたグレース様と踊る際、他の御令嬢のお相手をしておりました。あの頃は、楽しいも何も、早く終わってくれというだけです。アレキサンダー様はお好きなようですよ。グレース様と楽しそうに踊っておられますから」


 グレースと楽しく踊っている主の横で、不機嫌などこかの御令嬢の相手をしていて、楽しく踊れるわけがない。アイリーンは少しロバートに同情した。


「それは、アレキサンダー様がダンスをお好きなのではなく、グレース様のことをお好きだからではないですか」

「あぁなるほど、確かにそうですね」

レオンの言葉にロバートも、思い当たる節があるようだった。


 アイリーンも苦手だ。それでも自分達の披露宴で踊らないわけにはいかないから練習しているのだ。


「本当に誰があんなものを考え出したのかしら」

「ローズ、問題解決のためには根本をつきとめる必要がありますが、今はちがいますよ。それに私はあなたとだったら踊ってみたいです」

ロバートの言葉にローズが頬を染めた。両手を口元に添えて可愛らしい。


「確かに、僕もアイリーンとだったら、踊りたいですね。アイリーンも僕もダンスはあまり得意ではないのですが。ドレスをきたアイリーンがクルクル回ったら綺麗でしょうね」

レオンまでもが、気恥ずかしいことをいいだした。アイリーンも婚約者がそういうから練習しているというのもある。


「アイリーン様はダンスは?」

「好きではありませんわ。乗馬のほうが楽しいですもの。でも、披露宴では踊らないといけませんから練習しています」

「よろしければ、練習を一緒にしてくださいませんか?私、一人だと頑張れないけど、ご一緒してくださる方がいらっしゃったらがんばれると思います」

ローズに両手を取られてしまった。

「ロバート様がおられるのでは?」


 ローズに強く手を引かれた。顔を近づけてきたローズの声が、アイリーンの耳元でした。

「内緒で練習して、上手になって、二人を驚かせてやりましょう」


 アイリーンの視線の先では、ロバートの口元が緩んでいた。聞こえているのに知らぬふりをすることにしたようだ。


 アイリーンとレオンの関係とは違うが、ローズがロバートに愛されているのは何となくわかった。


「ローズ、気持ちはわかりますが、アイリーン様は王都にお住まいではないはずです」

ロバートの言葉に、ローズが驚いたように顔をあげた。

「そうなのですか」

「えぇ、領地はここから東へ馬車で一週間程度はかかります」

「まぁ、そうなのですか。では、ご迷惑なことをお願いしてしまいました。申し訳ありません。残念ですけど、先程のお話は、お忘れになってください」


 意気消沈したローズは、アイリーンが見ても可哀そうなくらいだった。


「私は、しばらく王都におりますから、その間にご一緒できますわ。ぜひ、一緒に練習いたしましょう」

アイリーンの言葉に、ローズが輝かんばかりの笑顔をみせた。

「まぁ、ありがとうございます。とても楽しみです」


 翌日、ローズからは手紙が届いた。


 昨日の訪問のお礼と、ダンスの練習を楽しみに思うことが書き連ねてあった。アイリーンのイニシャルであるAを刺繍したハンカチも同封されていた。昨日渡そうと思っていたが、恥ずかしくて渡せなかったという正直な文面にアイリーンは笑顔にならざるを得なかった。


「アイリーン、ローズ様と仲良くなれそう」

「えぇ、素敵な方だわ」

レオンの言葉に、アイリーンは心からそう答えた。

「ロバート様も鉄仮面という噂ほど、怖い方ではなかったわね」

アイリーンの言葉に、レオンは笑い出した

「それは、多分、ローズ様と一緒だったからだよ。公式の場で、アレキサンダー様のそばに控えておられるときは、鉄仮面の二つ名のとおり、ほとんど無表情だよ」


 レオンは突然笑い止むと、神妙な顔になった。

「うちの精鋭が、ロバート様に一目置いていると聞いたら、アイリーン、君はどう思う」

アイリーンは顔見知りの騎士たちを思い浮かべた。


「まさか」

「父の部下が、イサカの町にいたとき、毎朝手合わせをしたが、素晴らしい腕前だと報告してきた。それを聞いた者たちも興味が湧いたのだろうね。前にアレキサンダー様と、うちにいらしたときに、手合わせを申し込んだ」

アーライル家らしい話だった。


「ロバート様ご本人は、あまり乗り気じゃなかったのだけれど、アレキサンダー様が、受けろ、勝ってこいとおっしゃった。結果、五人相手に勝ち抜きだ。六人目は疲れたといって、断られてしまった」

「それは、まさかと思うけど、本当なのね」

「残念ながら」

レオンは肩をすくめた。


「皆、稽古熱心になった。それはよかったけど、断られた六人目が僕だ」

アイリーンは思わずレオンを睨んでしまった。

「それって、あなたに勝つわけにはいかないから、遠慮されたのでは」

「多分そうだと思う」

「近習に立場を慮ってもらう騎士が、なにの役に立つの」

アイリーンの言葉に、レオンはしょげた。


「はい」

「手合わせしてもらえるくらいにまで、鍛錬しなさい。王太子宮に行っているのでしょう。アラン様から聞いたわ。そのときに、稽古をつけていただいたらいいじゃないの」

「前に断られた」

「ローズ様に、口添えしてもらったらいいじゃないの」


 今日会ったロバートは、鍛えているのはわかったが、明らかに騎士たちほどの体躯はなかった。

「細いじゃないの」

「だって、ロバート様は背が高い分、手足が長くて、その割に動きが速くて、身が軽いのと、読みがすごくて、アレキサンダー様は、刺客を相手にしていた経験があるからって」

「言い訳よりも、鍛錬のほうが必要なはずよ」

アイリーンは、レオンの言葉を遮った。

「はい」


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