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3)ローズとアイリーン1

アイリーン視点です

「とっても素敵。馬と一緒に風になったようでした。私、あなたのように馬に乗れるようになりたいと思いました」

形式的な挨拶のあと、飾り気のない誉め言葉を口にしたローズにアイリーンは面食らった。


 大切な客人が来るから会ってほしい。そう婚約者のレオンに言われていた。

「アーライル侯爵家にとっての恩人というだけではないんだ。僕にとっても大切な人達だから、僕の運命を変えてくれた恩人達だ。君にも会って欲しい。きっと君も二人のことを間違いなく好きになるはずだ」


 レオンのいう恩人の一人は孤児のローズだ。貴族でもないのに、グレース王太子妃の代理として、王都や周辺で王太子妃代理として慰問をしている。素性もしれない孤児でありながら、大司祭様に聖女の再来ともてはやされ、国王陛下と王太子殿下の寵愛を良いことに、成人もしていないのに御前会議で発言するような、図々しい小娘だという噂をよく耳にした。


 もう一人は王太子の鉄仮面、家名なしの一族のロバートだ。家名なしの一族は、王家の揺り籠とも呼ばれ、この国の始まりから王家に仕え、数々の功績にもかかわらず陞爵されていない、曰くありげで、不気味な、謎の薄気味悪い一族の男だ。アーライル侯爵家との関わりが深いが、とらえどころのない一族だ。


二人が一族にとって恩人であることは分かっている。彼らに感謝し、恩に報いるというならば、次期侯爵のレオンがやればいい。出来ることなら会いたくなかった。


 婚約者である自分アイリーンの前で、他の女性を褒める朴念仁のレオンにも腹が立った。だが、アイリーンは、いずれアーライル家を婚約者のレオンと共に支える身だ。個人の感情で、レオンの恩人であり、アーライル家の恩人達に対して礼を失するわけにはいかない。アイリーンは、しぶしぶ会うことに同意した。


 先に侯爵との面会があるという二人を、待つと考えただけで鬱々と気が滅入り、気晴らしに乗馬に出かけた。それを見られたらしい。客人を迎える立場であるのに失態だった。


 アイリーンの心情など知らない二人は、何も気にしていないようだった。

「とっても素敵でした」


 自分よりも小柄な少女がこちらを見上げていた。その傍らには、背は高いが、騎士達ほどではない体格の男が、気配を消して立っていた。


 少女が王太子宮に突如現れた孤児で、疫病を鎮める方法を王太子に告げたローズだ。背の高い男は、王太子の乳兄弟であり鉄仮面とも呼ばれるロバートだ。気配の無さが不気味だった。


 婚約者であるレオンは、このローズという娘に、「地獄の底までついていく」と言っているのだ。どんな女かと思っていたら、子供だった。

「レオン様から、あなたのこと、とても素敵な方だとお伺いしていました。今日、お会いできて本当にうれしいですわ」


 満面の笑みを浮かべるローズに、無表情だったロバートが、少し柔らかい視線を向けた。

「いえ、そんな、ありがとうございます」

ローズからは心からの好意を感じた。笑顔の子供から、素直に好意をむけられ、嫌いになるのは難しい。先ほどの、率直な誉め言葉もうれしかった。


「ローズ様なら、アイリーンと仲良くなれると思っていました。良かったです。恩人と未来の妻が仲良くなってくれて」

会う前から、ローズの印象を悪くしていた張本人のレオンが楽しそうに言った。


「僕の爺やのデヴィッドはお役に立てていますか?」

レオンの言葉に、アイリーンは見慣れた顔を、今回のアーライル家の滞在で見ていないことを思い出した。


「えぇ。日々助かっています。今日はここにくるから、ついでに一日暇をやりました」

ローズは微笑むとレオンを見た。

「ところで、アイリーン様。私、一つお伺いしたかったのですけど。レオン様は地獄の底までとか、何か言っておられます?」

「えぇ」

単刀直入なローズの質問に、アイリーンは頷いた。


「やっぱり、レオン様、あなたねぇ。私は子供ですけれど、婚約者の前で他の女の人の話をするのはよくないと思います」

「黙っているのもよくないじゃないですか。夫婦となるのに隠し事なんて」

「それはそうですけど、あなたの発言は問題だと思います」

「ローズ様は恩人ですから。それこそ、どこまでもお供します」

「そういうことは婚約者に言ってください」

「アイリーンは特別です。僕は彼女を幸せにしてみせます」

「矛盾しています」


 腰に手を当てたローズがレオンを見上げている。確かレオンのほうが年長のはずだが、これではどちらが年上だかわからない。

「矛盾などありません。ロバート様だって、アレキサンダー様に忠誠を誓いつつ、ローズ様と婚約しておられるではないですか」

「なぜ、そこで、私がでてくるのですか」

それまで沈黙を守っていたのに、巻き込まれて気に入らないらしいロバートが口を開いた。


 婚約しているという二人の視線に挟まれてもレオンは動じた様子もない。

「ローズ様は、アレキサンダー様の側近になられる方です。アレキサンダー様に忠誠を誓っておられます。ローズ様がこの国のためにとお考えになったことを、この国に剣を捧げる私が従うのは当然でしょう。この国のために功績を立てることで、僕はアイリーンを幸せに出来ます」


 愚直な婚約者の言葉にアイリーンは頬を染めた。レオンの言葉も、そういう意味であったのならばうれしかった。

「今のところは、大きな戦の種はありません。この状態が続くといいのですけれど」


 ローズの言葉にロバートが静かに頷いた。王太子殿下に近い二人は、貴族の娘でしかないアイリーンの知らないようなことを知っているのだろう。


 アイリーンの知る噂など、貴族の娘たちの茶会での話題でしかない。アイリーンは先日まで興じていた茶会での話題が、急に馬鹿馬鹿しくなった。


 アイリーン自身も剣を扱う。一族の男性は全員騎士だ。父も兄も弟も戦となれば前線に出て戦うというのに、茶会で何の益もない噂話に興じていた自分が急に恥ずかしくなった。


 少なくともローズは、貴族の娘たちの茶会で噂されるような女ではない。


 やはり、何事も己の目で見て確かめることが大切だ。アイリーンは騎士でもある父の言葉を、改めて胸に刻んだ。


「先にはなりますが、お二人にはぜひ、僕らの披露宴にご出席いただきたいです」

レオンは、アイリーンに断ることもなく、勝手に招待客を増やそうとしていた。ローズが噂通りでない以上、ロバートに関する噂も同様だろう。レオンと義父になるアーライル侯爵の恩人である二人の参加を、アイリーンには断る理由はなかった。


「レオン様、お言葉はありがたいのですが、私は使用人ですので、そのような場にご招待いただきましても参加できません」

レオンの招待にロバートは微笑んだ。

「いえ、アーライル家と血縁の家だけでの宴会の方です。正式な披露宴も開きますが、親族のほとんどが警備にまわるので、お互いの顔合わせができないのです。ですから、別に開くのです。アーライル家としては、親族だけの宴会のほうが、本来の披露宴です。正式な方は、貴族の風習に従っているだけの宴です」


 騎士の多い家系ならではの悩みを解決するため、いつのころからか、アーライル家は二度披露宴を挙げている。予算は対外的な披露宴に大きく注がれるが、親族での宴会をアーライル家は重要視してきた。よほどのことが無い限り、他人を招くこともない。レオンと、アーライル侯爵が、この二人に感じている恩義の深さは相当なものなのだろう。


「そのような場でしたら、アレキサンダー様の御許可を頂く必要がありますが、おそらくご賛同をいただけるでしょう。ご招待いただきありがとうございます」

「とっても嬉しいわ。ありがとうございます。アイリーン様の花嫁衣裳、乗馬服でもおきれいなのですもの、きっと素敵でしょうね」


 そういって満面の笑みで笑うローズは可愛らしい。アレキサンダーの側近候補と聞いて、アイリーンが想像したいかめしい女とは、全く逆だった。


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