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9)朝

 翌朝、明らかに泣いた形跡のあるローズをみてグレースがロバートをにらんだ。


「あなた、何をしたの」

「濡れ衣です」

ロバートは即答し、ローズに紅茶を注いでやる。


「ローズに余計なことを言ったものがいるようです」

ローズは首を振った。また目に涙をためている。

「朝食です。食べましょう。ローズ」

ハンカチでそっとローズが目に溜めた涙を拭いてやる。


「誰に何を言われた」

アレキサンダーの言葉にローズはうつむいてしまった。

「この屋敷のものか」

ローズが首を振った。

「どこの誰だ」

アレキサンダーの言葉に、拭いてやったはずの涙が、またローズの目にたまり、今度はあふれ出してしまった。


「泣いていてはわからない。君はこの国に貢献している。私とグレースにとっては、ソフィアの恩人だ。そんな君を泣かせるようなことを言うやつなど、罰してやらねばならん」


「罰はだめです。だって、」

アレキサンダーの言葉に、何か言いかけたローズの言葉は声が小さくなり最後には消えてしまった。ロバートは傍らで膝を折り、昨日と同じように抱いて慰めた。


 慰めて、なんとか朝食を食べさせる。

「迷惑かけてごめんなさい」

「迷惑だなんて。あなたは私の大切な婚約者です。私が好きでやっていることです。だから、迷惑ではありません、謝らなくていいのです」

ロバートの言葉に、またローズの目が潤んだ。以前に侍女達からの嫌がらせを受けて居た時よりも、涙もろくなっている。誰かがローズの心を酷く傷つけたのだ。ローズを傷つけた誰かが許せなかった。その誰かからローズを守れなかった自分自身に腹が立った。


 アルフレッドから、アレキサンダーへの執務の移行が進んでいる。ロバート達近習も、小姓から近習になったばかりのティモシー達も余裕がない。祖父の代に召し上げられた侯爵領の引継ぎのためにきていたはずのレオンも、すっかり巻き込んでしまっている。


 ローズを蔑ろにするつもりはないが、常に付きそうことは難しい。目を離していたときを、狙われたと思うと歯噛みする思いだった。そのうちに悪口だけではすまず、危害を加えられる恐れがあった。


 ローズが人と会う機会は増えていた。王太子宮だけで暮らしているならば、目が届くが、年々難しくなっている。

 

 ローズは、“記憶の私”の助けがあるから自分は賢いように見えるだけだと謙遜する。だが、現在のライティーザの問題や周辺国との関係など、ローズが学ばなければ知ることはできないことだ。自信が無さすぎるローズを、悲しませる誰かが許せなかった。



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