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4)王家の揺り籠と貴族

 ロバートの目論見は完全に外れた。五代目メイナード国王の話題を出したのは、バーセア伯爵家の来歴を明らかにするためだ。西の国境地帯を守り、この国を支えるバーセア家の一員であるブレンダが、王太子宮で、敬意を払われるようにするつもりだった。逆に、ロバートがブレンダから敬意を払われてしまった。


「ティズエリー家もその頃だろう」

「はい」

アレキサンダーの言葉に、エリックが答えた。

「先祖は法学者として王室につかえていました。当時の法学者達は、傀儡政権が不当だと主張しました。傀儡政権が成立させようとした彼らに都合が良い法案を、反対派の貴族に働きかけて阻んだのです。とうとう纏めて捕らえられました。そのときに、うまく逃げ出した一人が先祖です」


ロバートは半ば忘れていた史実を思い出した。ロバートの先祖達は、血を分けた分家以外にも、多数の貴族に関わっているのだ。潰した家も多いが、興した家も少なくない。

「それで伯爵になったの」

「いいえ。当時は男爵です。先祖は褒美として爵位を授かったことは有り難いけれども、領地経営など出来ないと、途方にくれたときいています」

「当時、叙爵され突然貴族になり途方にくれた者達に領地経営の基本を教え、陞爵で増えた領地の管理に手がまわらなくなった者達を助けたのが、王家の揺り籠だ。その伝統が、今も私とロバートに引き継がれている」


アレキサンダーは、ロバートが思ってもいなかった方向に話をすすめた。

「アレキサンダー様、だからといって、王太子領の管理を私に」

「この国では、古い貴族が領地経営で破綻することが少ない。おそらくは、当時、多くの貴族が王家の揺り籠の教えを請うたからだろうな」

アレキサンダーは、王太子領の管理を一任するなと言おうとしたロバートの抗議を無視した。


「幼いメイナード様をお連れしての逃避行では、貧しい農民たちからの施しを受けることもありました。領民たちの生活に、直に触れた経験が大きかったのでしょう。無理な搾取はしないように、領地を富ませるには、領民たちが、十分に食事を出来るようにすることが大切だと、伝えたと聞いております。だからといって、アレキサンダー様、王太子領の件は」

「王領の方が広い」

アレキサンダーは、言い訳を堂々と口にした。


「王領に関しては、お手伝い申し上げているではありませんか。王太子領を」

「優秀なお前の手を借りることが出来る私は幸せだ」

アレキサンダーとロバートが、互いに折れようとしない件の一つが、王太子領の管理だ。今や、王太子領の実質の領主はロバートになってしまっている。


 エドガーが、ミランダを抱き上げ、両手で高く掲げた。

「ほら、ミランダちゃん。あっちをみてごらん。大きなお兄さんたちが、いつもの乳兄弟喧嘩だ。飽きもせず、またやっているよ」

エドガーに高く掲げられたミランダが、楽しげに笑った。


「ミランダ、面白いか。楽しいか。エドガーにあやしてもらって、よかったな」

「アレキサンダー様、ミランダを使って話をそらさないでください」

ロバートの言葉に、周囲が皆笑った。


「ロバート、お前はそう言うが、いずれ私とグレースの間に、息子が生まれたら、その子に王太子領の管理を教えるのはお前だろう。領地について、よく知る事が必要だと言ったのは、お前だ」

「私があなたの領地に関して、よく知ってどうするのですか」

「私の息子に教える」


 即答したアレキサンダーに、ロバートは反論できなかった。確かに、その点に関しては、アレキサンダーは正しい。だが、今王太子であるアレキサンダーが、乳兄弟であるロバートに、王太子領の管理を完全に任せて良いわけがない。


「ロバート、領地のお話をしているときに、申し訳ないけれど、そういうのを『不毛の争い』と言うのではないかしら」

 ローズの言葉に、また笑いが起こった。


 ロバートは、ブレンダ・バーセアやバーセア家が軽んじられることのないようにしたかっただけだ。自身が饒舌でないことを実感するだけに終わってしまった。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 実質の領主であるのに、これから数カ月給与を貯めないと司教と身内すらいない二人だけの式を上げられない…。 平民はどうやって結婚費用を捻出しているのでしょうか? それから、部下が色街に通い…
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