6)孤児院への依頼
ロバートは隣に立つレオンを恨めしい気持ちで見た。
そもそもここに自分達をさそったのはレオンだ。笑いをこらえているレオンに、巻き込んでおいてと腹を立てかけた。だが、今日もいつもどおり、ローズが自分からまきこまれたのだ。
確かに今日はレオンの世話になっている。レオンを恨むのは間違っているだろう。
レオンには、貴族らしい服装は止めろと言われ、彼に町の者の服を貸してもらったほどだ。だが、商人達に頼まれても、王族に仕える身の自分には返事などできない。アレキサンダーの許可がいる。
「来年のことは、わからないわ」
ロバートが断ろうとしたら、ローズが自分から断り、微笑んでいた。
「私、今のお屋敷に置いてもらっているだけだから、わからないわ」
ローズはそう続けて、俯いてしまった。
「なぜ、そんなことを」
ロバートはローズの頬を両手で包み上を向かせた。
「どうしてそんなことを。あなたはあのお屋敷にいていいと、おっしゃっていただいているではないですか」
「だって、何もできないもの」
茶を飲んでいたレオンがむせ、護衛の誰かが茶を吹いた。
「あれだけの勘定を合わせたじゃないか!」
商人たちも呆れて騒いでいる。市場を取り仕切っているといったセタを含めた数人が、なんとも言えない顔をしてローズを見ていた。
周囲の反応はよくわかる。ロバート自身も、ローズのこの過度の謙遜には困っていた。
「でも、今日、あなたのお陰で沢山の人が助かったのです」
「みんなが手伝ってくれたからよ」
ロバートの口からは、今日何度目になったかわからない溜息が漏れ出た。
「それもそうです。それもそうですが、ローズ、もう少し、自分が何をしたかわかってください」
「孤児院の子たちも、計算は出来るわ。量が多くて子供の集中力が続かないでしょうから、人数はいるでしょうね。でも、あの子たちも、このくらいの桁は扱えるはずよ」
ローズと話がかみ合わない。本当に最近、こういうことが増えている。
「ローズ、どうしてあなたは、」
なぜ自分を卑下するのだとロバートが尋ねようとしたときだった。
「孤児院の子供?計算なんてできるのか?」
商人の声が割り込んできた。ロバートは内心舌打ちをした。
「出来ます。加減乗除は教えました」
ローズが一瞬で反応した。
「本当に出来るなら、明日からの市で、雇ってもいい」
割り込んで来たのはセタだった。
「一緒に孤児院にいったらわかるわ。シスターたちの許可をもらわないといけないと思います。体力と集中力がまだ子供だから、休憩などの配慮をお願いします。子供でも、人を雇うのですから、お給金は払ってください」
ロバートを無視して話が進んでいく。ローズが孤児院の子供達のことに一生懸命なのはいい。別にいいが、ローズはもう少し自分に自信を持ってもらわないと、ロバートもアレキサンダーも困るのだ。
ロバートは、セタたち商人をグレース孤児院に連れて行こうとするローズの話に割り込むことにした。孤児院の子供達のためにと頑張るローズを止めることはできない。ロバートにできるのは、ローズに危険が無いように配慮し、手続きに不備が無いようにしてやることだ。
「ローズ、馬商人の方々が、グレース孤児院にいくというならば、アレキサンダー様とシスター長様のお二方から許可を頂かないといけません」
「なんだ、随分と面倒だな」
セタの言葉にロバートは苦笑した。
「この国の王太子殿下が庇護する子供達が生きる場所です。失礼を承知で申し上げますと、孤児院に関係のない余所者のあなた方を簡単に入れるわけにはいかないのですよ」
レオンは、部下を王太子宮へと馬で走らせた。




