5)月毛の馬
商人たちからの申し出を何とか断ろうとするロバートと、何としても渡そうとするあまり口調が変わり始めた異国の商人と、その間で何とか仲裁しようとしているレオン達など見ていても、ローズには何も面白いことはない。
ローズは月毛の馬を見た。ロバートやアランに乗せてもらった馬より小さい。そっと撫でてやると、ローズに甘えるようにすり寄ってきた。
「お嬢さん」
セタによく似た異国の衣装をきた、少し年かさの男がいた。
「この子はきれいだろう?でも、見ての通り小さい。この子に関しては、こちらの思うように商売がいかなくてね。ここで売れなかったら、ふつうは次の市までつれていく。ただ、この馬は小さいから、旅についてこられなくなるかもしれない。そうしたら、困ったことになる。誰にも買ってもらえなかった、可哀そうな馬だから、お嬢ちゃんがもらってくれないか?」
にこやかだが、男は、説得するという気迫に満ちていた。
「でも、馬にはきちんとお金を払わないと。だって、この子を育てるにも、ここに連れてくるにもお金がかかったでしょう」
「だが、この子をここからもっと遠くに連れていくとなると、また金がかかる。この子を、お嬢ちゃんがもらってくれたらその金はかからない。連れていくのも大変だ。なにせ、この馬は小さいからね。他の馬についていけない。可哀そうだろう?これでも大人だからもう、大きくならない。だからお嬢ちゃんが引き取ってくれて、かわいがってくれたら一番だ」
ロバートが振り返った。こちらの会話が聞こえたらしい。
「そちらの月毛は頂きます。ただし、お代は払いますから、いくらか教えてください」
「そんな無粋なことは申し上げられませんよ。かわいいお嬢さんに、月毛のこの子はお似合いですよ」
「ですから、払います。それにその月毛、売れなかったのではなく、売らなかったのではありませんか」
ロバートの言葉に、年かさの商人が笑う。
「そう、だから、値段がつかなかった。無い値段は言えませんなぁ」
商人の笑顔は、カールが商売に本気になったときによく似ていた。
「その月毛の値段がつかなくても、通常の相場はいくらですか。ローズ、そんな心配しなくても、この子はちゃんと買うから大丈夫です」
ロバートは商人の言葉を切り捨てた。
「でも、この人達、絶対に値段教えてくれないつもりよ」
ロバートがため息をついた。ローズにも、ロバートが譲ろうとしない理由は分かっていた。カールと付き合いがあるおかげだ。カールからは、商人からは無料で物を受け取ってはいけないと言われた。引き換えに何かを要求する魂胆があるから、気を付けてください、ローズ様は本当に、騙されてしまいそうで心配ですと教えられたのだ。
カールの教えを守りたいが、にこやかな表情を顔に貼り付けた異国の馬商人達が、一歩も譲るつもりがないことは、明らかだった。
「間を取りましょう。ただでもらうのは申し訳ないから、半分払うわ。それならいいでしょう?だいたいおいくらかしら」
「あぁ、その大きさの馬は」
ローズの提案に、値段を言いかけた商人は周りに取り押さえられてしまった。聞こえてきた少々痛そうな音に、ローズは身をすくませた。
「金はいらない。本当に。明日からもまだ市があるから、その間来てくれたらいい。ついでに来年もどうだ」
とうとうセタが目的を言った。
ロバートの隣に立つレオンが、必死に笑いをこらえていた。




