3)馬市
馬市の会場は広かった。様々な目的の馬ごとに競りが行われていた。
道端で直接交渉し、取引している者もいる。王太子宮では馬は献上されるか、領地の馬が集められるため、ロバートも馬市は初めてだった。
「この混乱ぶりも面白いでしょう」
レオンが笑う。軍馬を見に来たレオンは、数人の部下をローズの護衛に貸してくれた。ロバートはローズの手を引いて、小型馬の競り場に向かった。
確かに、ロバートはローズの手を引いて、向かっていたはずだった。道のど真ん中で男たちが大喧嘩をしており、周囲に見物人の人垣ができていて通れない。迂回路を探していたロバートの耳に、あろうことか、二人に話しかけたローズの声が聞こえた。
「あなたたち、二人とも計算が間違っているわ」
二人が同時に振り返る。
「どう違うっていうんだ!このガキ!」
「てめえが計算できるのか」
ロバートは溜息を吐いた。ローズに自分から厄介ごとに首を突っ込んでどうするといいたい。だが、言っても無駄なことはわかっている。罵られても動じず、あっさり暗算で正解を答えたローズに周囲がざわめいた。嫌な予感がする。結局ローズはその場から動けなくなってしまった。
次々と売り手たちが、計算があっているのか聞きに来るのだ。金勘定に慣れている商人に騙されているのではという不安もあったのだろう。逆に商人たちは、額が多く、複雑な計算を頼みに来る。どちらが得か、ローズに相談をするものまで現れた。ロバートは計算を手伝い、護衛はこの娘には馬の価値はわからないからと断ったり、自分の番を早くしろと騒ぐ者たちをなだめたりと、忙しくなった。
そのうちにローズに椅子と机が運ばれてきて、隣に座らされ計算を手伝っているロバートの分まで、お茶と菓子も用意され、道の真ん中に天幕まで張られた。市場の責任者と名乗る商人達も何人か挨拶に来た。
「何をやっておられるのですか」
自分達の買い物を済ませ、様子を見に戻ってきたレオンの声に、ローズは顔を上げた。
「計算しているだけよ、どうしてこんな大事になったのか、わからないの」
「そろそろわかっても良い頃です」
無駄と知りつつロバートは言った。
「何故こんなことに?道の真ん中に天幕など張って、金を積み上げているのです」
「どちらも私の物ではないわ」
レオンの質問に、ローズが的外れな答えを返す。
「競り場にいく途中で、ローズが計算間違いを指摘したら、このようになりました」
ロバートがレオンの問いに答えてやる。
「計算所ですか?」
「いい例えですね。ほぼおっしゃるとおりの状況です」
ロバートは苦笑して、疲れたといって、もたれてくるローズの肩を抱いた。




