2)アーライル家へのお出掛け
ローズは、目的のためには平気で無茶をする。無茶は心配だが、良い結果を出してしまうので、叱ることも難しい。常に手練のものが同行できたらよいが、人手には限界がある上に、常に付きそうなどというのは無理なことだ。ならば、できるだけ自分で身を守ってもらうしかない。
ロバートはローズに、短剣の扱いなどの基本を教えようとした。
弓矢、長剣が相手では短剣では何の役にも立たない。基本的に人を殺すことはできない。仮に人を殺すほど、深く突き立ててしまえば、ローズの力では抜くことが出来なくなる。その時に、別の誰かが襲ってきたら逃げることが出来ない。最低限、身を護れるように、何かあったとき、逃げる隙を作るためのものだと、何度も説明した。
「多分、わかったわ」
ローズは素直に頷いてくれた。だが、こういう時、ローズには大概こちらの言いたいことは伝わっていない。ロバートが常に、投てき用のナイフを護身用に数本携帯していることを知っているから、誤解しているのかもしれない。ナイフを投げて人を殺すことは難しいのだ。
結局、レオンに相談すると、一度屋敷に来てはどうかと招かれた。訓練を見れば、わかるだろうとの提案だった。
レオンに馬車の上座に座らされて着いた屋敷は、中には広大な訓練場があり、広い馬場もあった。
「ちゃんと馬に乗れるようになったら、狩猟に連れて行ってくれるのでしょう?」
ロバートの目には、期待して見上げてくるローズが映っていた。昨秋の終わりの狩りで自分が言ったことを、ローズは覚えていたらしい。覚えていてくれたのはうれしいが、軍馬を乗りこなす、騎士たちをみて、思い出さないで欲しかった。
「ローズ、ここにいるのは軍馬です。あなたは、もっとおとなしい馬を乗りこなせたらいいわけですから、そこはきちんと理解してくださいね」
「多分理解していると思うけど」
即答したローズにレオンが苦笑した。
「ローズ様、ロバート様がおっしゃりたいのは、そうですね、実際に軍馬に乗ってみられてはどうでしょう」
レオンの発言に慌てた。
「レオン様、お気持ちはうれしいのですが、さすがに」
「ご心配なく、ちょうどあちらに兄がいますから。兄に頼みます。兄の馬に乗ったらきっとおわかりになります」
呼ばれてやってきたのはレオンによく似た偉丈夫だった。
「お久しぶりです、ローズ様」
王太子妃に教えられたとおりのお辞儀と笑顔でローズが挨拶をする。
「お久しぶりです、アラン様」
筋骨隆々としたアランを前にすると、ローズは本当に小さく見えてしまう。
「では、どうぞ」
レオンの兄は、軽々とローズを抱え上げ、自分の前に座らせた。
「よろしくお願いします」
馬は首をめぐらせ、模擬戦の行われている馬場に向かっていった。
「レオン様!」
ロバートは慌てた。さすがに危ない。いくら優れた騎士でも、馬に乗りなれない他人を乗せて、模擬戦というのは難しい。
「大丈夫です。兄は参加しませんから」
レオンの言葉通り、二手に分かれた戦闘訓練に近接しているが、決してそこには参加していない。
「走るよりも、戦闘中の軍馬のほうがわかりやすいと思います」
軍馬は、武器のぶつかる音に動じず、乗り手の指示に従い、血の匂い、血しぶきを浴びること、泥や水を跳ね上げ、人を踏みつけることをものともせずに走る。しばらくして、ローズは頬を上気させて戻ってきた。ローズは馬を降ろしてもらって、アランに礼を言うと、ロバートの隣に戻ってきた。
「狩りで乗せてもらったときと、違ったわ」
頬を上気させ、目を輝かせたローズは興奮した様子で語った。あの日、ロバートが乗っていたのは、少しおとなしい馬だった。ローズを乗せることも考慮して、馬を選んでおいたのだ。
「軍馬は戦闘用に訓練していますし、そのためにも気性が荒い馬や、豪胆な馬が多いですね」
レオンは笑った。
「ローズ様はまず、小さな馬で練習されてはいかがでしょうか。もうすぐ馬市があります。僕も含め買いに行く予定ですからご一緒にいかがでしょう」
レオンの提案に、ローズは輝くような笑顔をみせた。
アレキサンダーはローズをめったに王太子宮からは出さない。慰問の際のローズの警護には、本来王族の警護にあたるべき近衛兵を配備し、安全には最大限気を配っている。
市場のような不特定多数の人が集まるところは、一度も行かせたことはない。
「アレキサンダー様の許可を頂いてからです」
レオンたちが参加する馬市についていき、護衛に関してはレオンの好意に甘えれば、さほど危険はないはずだ。ロバートも、アレキサンダーが許可してくれることを期待した。




