7)北の子爵2
「少し食べて待とうか」
アレキサンダーが、携帯食を口にしていた。
「アレキサンダー様、先程、歓迎の式典に出ておられたのでは」
レオンの質問にアレキサンダーは肩をすくめた。
「何が入っているかわからないものを口にできない。レオン、食事は」
アレキサンダーが、携帯食を差し出していた。
「まだです。ありがとうございます」
行程中の携帯食から開放されると思っていたレオンは、肩を落としつつも受け取った。
「どうした」
「ずっと携帯食だったので」
「期待には添えんな」
アレキサンダーが苦笑した。私的な場での、親しみやすいアレキサンダーに、レオンはいつの間にか慣れてしまった。
「そういえば、どういう行程で来た」
レオンが正直に話すと、アレキサンダーは顔をしかめた。
「ローズを連れてその行程か。ロバートの耳にいれないほうがいいぞ」
「もう言ってしまったのですが。ローズ様が、自分が頼んだからとおっしゃってくださって」
「庇われたな」
「はい」
レオンもそれは感じていた。ローズは笑顔でロバートの首に手を回していた。ローズを抱きしめたロバートから一瞬で怒気が消えたのだ。
「ローズはあれで計算高い。根が善良だから良いが。あれはわかってやっている。小姓達など、ロバートに叱られそうな時は、ローズと一緒に行くくらいだ」
「私は、ローズ様にとって小姓達と一緒ですか」
レオンはため息をつき、アレキサンダーが笑った。
「レオン様、ローズから話をきいておられるそうですが、それをご説明願えますか」
部屋に戻ってきたロバートの言葉に、アレキサンダーが首を傾げた。
「どうした」
「湯浴みはこれからなのですが、ローズがもう、眠ってしまいそうです」
ロバートがレオンをみて微笑んだ。
「レオン様もお疲れですね。レオン様も休んでいただいて、明日にしましょうか」
「そうだな。レオンも湯浴みをするか」
「いえ、私は途中の川で水浴びはしていますから、結構です」
「そうか。部屋はどうする」
「客間の奥の寝台はアレキサンダー様がご使用です。その手前の部屋の寝台は、ローズに使わせます。私は長椅子で良いですから。レオン様は、困りましたね。寝台が足りません」
「いや、僕は床でいいです。馬車でもいいです、どこでもいいです」
レオンは、護衛のためとはいえ、毎晩、ローズと馬車の中で一緒だった。寝顔も何度も拝んでいる。レオンは、ロバートがそれに思いいたるまえに、この客間から出たかった。
結局は、レオンは、アレキサンダーと同じ奥の部屋の長椅子で休ませてもらうことになった。強行軍できたレオンをアレキサンダーは気遣い、寝台を譲ってくれようとしたが、それは必死で断った。
「父に叱られます」
お互い、厳しい父親をもったもの同士だ。アレキサンダーはそのまま寝台で眠ってくれた。近習でもない自分が、警護すべき王太子アレキサンダーと同室で眠るとなると奇妙な感覚だ。部屋に護衛は十分配置しているから、今日はしっかり休むようにとロバートが言ってくれたが、落ち着かない。だが、何としても眠らねばならない。
明日からは、疲れたなどとは言っていられない。数日後、どうしても通らなければならない峠を、通らない道はないのだ。打つ手は限られる。視察である以上、下手な予定変更は、王家の威光にかかわる。レオンは目を閉じた。
となりでは、寝台でローズが休み、長椅子でロバートが寝ているはずだ。
カールやマーティン、あと、ベンに言ったらなんというだろう。あの町で一緒だった連中にまた会いたくなった。
7月25日10時 隣のお部屋の様子を投稿しています




