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6)北の子爵1

「遠路遥々、ようこそおいでくださいました」

目的地の一つである子爵の館にアレキサンダー達一行は到着した。気を付けるべきとされていた貴族の一つだ。嫌疑をかけられている子爵の館での宿泊は、アレキサンダーとロバートの記憶にある状況と似ていた。あまり気分の良いものではなく、行程を決めた時、二人で顔を見合わせた。


 歓迎の宴が開催された。当たり障りのない会話が続く。ロバートは表情を消し、周囲を観察していた。鎖帷子が重い。貴人が服に隠して着るためのものだから最軽量の高級品だが重い。子爵家の金の動きなど、子爵の書斎か書庫か秘密の場所かにある資料を手に入れないとわからない。近衛や近習に紛れ込ませた影達が探っているはずだ。詳細な構造が分かっていない館では、そう簡単に何か見つかることはないだろう。今日の主な目的が、どこまで果たせるかは不明だった。


 地元の名士としてあいさつしてきた中に、カールの告げた商家の男がいた。こうして直接現れるということは、こちらが疑っていることには気づいていないらしい。地元の特産品や北の国境を越えてくる品々についての男の話に、興味深くふるまって、何か口を滑らすのを待った。


「王太子宮には、御可愛らしい聖女様がいらっしゃるそうですね」

聞き流していたはずの男の言葉に、ロバートは意識を戻した。

「北の地には素晴らしい毛皮がございます。ぜひいかがでしょうか」

男が合図をすると、同行者が毛皮を見せてきた。


「よろしければこれをぜひ、ご婚約者のロバートさんからの贈り物にされてはいかがでしょうか」

この商人は、ローズに何か貢ぐことで、後見人のアレキサンダーを懐柔しようというのだろうか。

「お気持ちはありがたいのですが、聖女が殺生によって得た毛皮を身に着けるわけにもいきません。お気持ちだけ受け取らせていただきます」

衣類など、下手にふれると毒針が仕込んであることもあるのだ。触りたくもない。適当に理由をでっち上げて断った。こういうときに、古い血筋だということは役に立つ。それ以上いわずとも、そういう伝統があると周囲が納得するのだ。


 料理もワインも、一切口にしていない。御馳走を前に空腹はつらくないといえば嘘になるが、命のほうが惜しい。普段は先に食べて置くが、今日は時間がなかった。早く部屋に戻って、携帯食でいいから口にしたい。

「素晴らしいお申し出をありがとうございます。すみませんが、お名前を、もう一度お伺いできますか。彼女にお気持ちだけでも伝えておきましょう」

男の名はやはり、カールの一覧にあったものと同じだった。


 部下に呼び出され、屋敷の外に向かったロバートは、馬車からレオンに背負われて降りてきたローズに驚いた。

名前を呼び掛けて慌ててやめる。どこでだれがきいているかわからない。


「まずはこちらへ」

疲れ切った様子のレオン達一行の世話は、部下に任せ、ロバートは、レオンに背負われていたローズを抱き上げた。レオンのマントでローズを包み、アレキサンダーが宿泊している伯爵家の客間に向かった。


 客間でローズとレオンに茶を用意してやりながら、ロバートは部下にアレキサンダーへの伝言を頼んだ。

「ローズ、なぜ、あなたがここに。レオン様もなぜこの子を」

レオンには、危険が予測される場所になぜ連れてきたといいたい。だが、ローズが頼み込んだに決まっているから文句も言えない。


「これ」

ローズが胸元から、書類を差し出してきた。受け取ったロバートは書類を開く前に、一瞬呼吸を落ち着けた。どこから出してきたかなど考えると、手元が狂いそうだ。女性らしい体形になるのはこれからとはいえ、ローズは、書類を携帯する場所をもう少し考えるべきだ。


 渡された書類には、複数の商家と貴族の名前のほか、多発する土砂崩れが報告されている場所の地図があった。

「早馬にこれとほぼ同じ書類を預けたのだけれど、出発して数日で、川で死んでいるのがみつかったの」

「だからあなたが来たのですか。何という危ないことを」

思わずローズの肩をつかんでしまった。


「ロバート様、落ち着いてください」

レオンに止められて、ローズのしかめ面に気づいた。

「レオン様、何もこの子を連れてこなくても」

とはいえ、騎士の頂点に立つライティーザ総騎士団長アーライル侯爵の次男に、書類を持参させるのも問題だ。


「ローズ様の警護といえば、僕がここまで来ることができます。少数ですが近衛兵も連れてくることができます。国境騎士団も僕は命令することができます。国王陛下から、許可もいただいてまいりました」

「確かに、おっしゃる通りです」

レオンが言うとおり、レオンがいれば、兵士を動かすことができる。アレキサンダーの命令で兵士を動かすと、ことが大きくなりすぎる。


 長旅につかれたであろうローズを抱きしめ、髪をゆっくりとすいてやる。数日ぶりの、手にまとわりついてくる感触が懐かしい。

「ここまでは、何日かけていらっしゃったのですか」

レオンが口にした日数は、あまりに強行軍だった。

「レオン様、あなたはローズを連れながら」

ロバートの怒気に、大柄なレオンが身を縮めたときだった。


「違うの、私がお願いしたの。それに私は、馬車で休ませてもらっていたし。だって、視察の日程を考えたら、余裕がなかったから」

腕の中のローズはレオンを擁護した。

「ロバート、心配してくれてありがとう」


 ふわりと笑って、甘えるように手を回してきたローズに、ロバートの中から怒りが消えていった。


「わかりました。確かにこの内容は急ぐことは事実です」

これから数日後に通らざるを得ない峠が、その土砂崩れの多発地帯そのものなのだ。

 部屋に戻ってきたアレキサンダーにロバートは目を向けた。


「アレキサンダー様、お戻りいただいたのに申し訳ありませんが、先にローズに湯浴みをさせてやってもよろしいでしょうか」

「まず、この状況の説明を聞きたいが、まぁ、お前の言うとおりだな」


二人の会話にローズが、自分の匂いを嗅いだ。

「拭いていたけれど、臭いかしら」

「いいえ、そんなことはありません。このあと休むわけですから、今の間に清潔にしておいたほうがよいでしょう。あまり遅くに湯浴みの支度を頼むのも不自然ですから。その間、アレキサンダー様とレオン様と私とで、打ち合わせをしておきます。着替えはありますか」

 ロバートはローズの肩を抱くようにして部屋を出ていった。




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