18)ローズとアレキサンダーとロバートの約束2
「君は自覚がないのか!」
「あなたは、なぜわからないのですか」
息の合ったアレキサンダーとロバートに、ローズは乳兄弟の絆を改めて感じた。大して似ていないのに、本当に双子のようだ。ロバートの腕の力が少し弱まり、ローズはようやく息をついた。
二人に心配してもらっていることは感謝したが、ローズにも不満はあった。
「心配していただくのはありがたいのですが、その理由がわかりません。何故ですか」
時々理解できない二人の行動は、グレースがいてくれたら説明してくれる。赤子であるソフィアの母であるグレースは、ソフィアと過ごす時間が多いから、今は不在だ。
「ここに来た時、あなたの素晴らしい諫言は、陛下や殿下のご機嫌を損ねたら、不敬罪が成立するに十分でした」
「あのリチャードとかいうのは騎士崩れだったが、森の民には、狼藉者も多いのだぞ」
わかりやすい説明に、さすがにローズも理解した。
「たしかに、その二つの件に関しては、お二人のおっしゃる通りです。ご心配をおかけしました。お気遣いいただきありがとうございます」
沈黙が流れた。
「ローズ。普段のあなたなら、問題点を発見したら、解決する手段を探すと思うのですが」
長い長い沈黙のあとロバートが口を開いた。
「君は、世辞を言わないが、相手を素直にほめ、言い訳をせず、自分の非を認める、そこがとても良いと私は思っているよ。非を認めたその次に、いつもやっているようにしてほしいのだが」
言い方は違うが、アレキサンダーとロバートは、ほぼ同じことを要求している。
ロバートにそっと抱きしめられているローズには、ロバートの鼓動が伝わっていた。鍛えている男性であるため、ゆっくりと脈打つ音は、普段なら心落ち着くものだった。だが、今は違う。アレキサンダーは冷静な顔をしてこちらを見ている。平静さを取り戻したロバートも、同じような顔をしているだろう。
「ローズ」
腕の中にいると、声の振動もつたわってくる。
「ご心配をおかけしていることは、とてもとてもよくわかったのですが。どうしたらいいのかわかりません」
ローズは正直に答えた。
今度は、二人は同時に天を仰いだ。
「やはりか」
「そういうと思いました」
特にロバートは、天を仰いだついでに、のけぞり、長椅子の背もたれに体を預けてしまっている。慣れたぬくもりが離れて、ローズはロバートを振り返った。
「お前は苦労するな」
アレキサンダーが苦笑する。
「アレキサンダー様にまでおっしゃられると、立ち直れそうにありません」
「ロバート、あの、大丈夫?」
ローズにも自分が原因らしいことはわかる。だが、立ち直れないほどのことを言った覚えもない。
「死人は、人を助けられないぞ」
「誰かを助けたいならば、あなたは自分の身を守らなければいけません」
言い方はそれぞれだが、少しわかりやすくなった。
「つまり、二人とも、私が、人を助けるついでに死んでしまうのではないか、と心配しておられるわけですか」
ローズの言葉に、二人は仲良く眉をひそめた。
「少し違うな」
「近いのですが」
二人同時に、深々と溜息をつきながらいわれると、さすがに悲しいものがある。
「人助けを口実に、お前を誘い出して殺すものが現れるかもしれないということだ」
「自分の身を護るという当然のことを、あなたは後回しにするでしょう。助けてほしいといわれたら、危ないかもと思っても、ついていくでしょう」
「いえ、たぶんそこまで危ないことは」
アレキサンダーとロバートに、ほぼ同じことを言われ、ローズは反論を試みた。
「疫病の町の子供だけでも助けるために、一人でも町にいくといっていたのは、どなたでしたか。あなたは、人を助けるためなら、自分が死ぬというのも選択肢の一つに入っていますよね」
背もたれから身を起こし、両肩を掴んだロバートに顔を覗き込まれた。身に覚えがあるローズは、何も言えなくなってしまった。
「お前の誰かを助けたいという気持ちは立派だ。だが、お前自身の身を守らず、どうやって助ける。お前の言う“記憶の私”は、確かにお前に人を助ける方法を教えただろう。だが、そのために、お前は危険なことをした」
アレキサンダーは、ロバートの発言に畳み掛けるように続けた。
「おっしゃる通りです。でも、どうしたらいいかわかりません。死にたくはないです。でも、方法が分かっていて、見殺しにもできません。どうしたらいいかわかりません」
ローズも正直に答えるしかなかった。
溜息をついたロバートに、ローズはまた、抱きしめられた。
「少なくとも、一人で行動しないでください。何かあったら、必ず私に言ってください。私がいないときには、アレキサンダー様がお力になってくださいます。二人ともいないときは、エドガーとエリックがいるでしょう。フレデリックでもいい。一人で絶対に行動しないでください。必ず誰かに相談してください。心配なのです」
この国の中枢にかかわる二人が、本気で心配してくれていると思うとありがたいと思う。そこまで危険なことを自分がするとは思えないが、二人には、ローズがそのくらい無謀なことをしかねないと思われているのだ。
実際、今までは何事もなかったが、危険な事態となった可能性もあったのだ。
「大丈夫。一人で勝手に行動しないようにします。それでいいですか」
イサカの町で疫病が猛威を振るっていたころ、アレキサンダーはローズの言葉に耳を傾けてくれた。ロバートがアレキサンダーの名代としてイサカの町に行ってくれた。だから、ローズはイサカの町にはいく必要がなくなった。森にすむリチャードの息子の時も、ロバートが助けてくれた。二人はいつも、ローズを守ってくれる。
きちんと、二人に相談したらいいのだ。
それくらいなら、問題なくできる。この時、ローズは本当にそう思っていた。




