罪の置き場所(短編版)
※とびらの先生主催『あらすじだけ企画』参加作品です。
ですので、内容は冒頭からエンディングまでのあらすじ「だけ」ですので本文はありません。ご注意ください。
社会人一年目の庄野由香という女性が、電車内に現金を置き忘れたことから事件は始まる。
取引会社へ電車での移動中に微睡んでしまい、降車予定駅で慌てて電車を降りた。
その際現金が入った封筒を席に落とし、偶然それを見ていた高校生の宮川が連れの勝山に悪ふざけで貰ってしまえとそそのかした。特急通過待ちでしばらく停車しているから後で駅員に渡せばいいと考えてのことだが、勝山は青い顔をしながらも封筒をポケットに入れた。
それを庄野から連絡を受けて封筒を確認しに来た駅員の高田が目にし、声をかけたのだが、勝山は無言で電車を飛び出してホームの反対側線路へ飛び降り、通過する特急電車に接触し即死してしまう。
その様子をホームへ戻ってきた庄野も目の当たりにし、その後自分が置き忘れた封筒を死んだ高校生が持っていたと知る。
その後、マスコミのやり玉に挙げられたのは駅員の高田だった。
世間はまだ高校生の勝山に対し同情的で、高田の対応に問題があったと責め立てた。同僚たちや上司は高田を責めこそしなかったが、有給扱いの自宅待機となった彼は、職を辞することを考えていた。
庄野もまた複雑な罪悪感に苛まれていた。彼女の周囲は誰一人として彼女を責めなかったが、勝山の行動と死に対して何か行動をせずにいられなかった彼女は、まず勝山の遺族を訪ねた。そこで、大学進学を控えた勝山が、母子家庭の自分が母親から大学の学費を出させることを悩んでいたと知る。
それから庄野は宮川を訪ねた。
友人の死を目の当たりにした彼は精神的に疲弊し、庄野にも責任があると責めた。勢いで庄野を殴ってしまい狼狽する宮川に彼女は根気強く言葉を伝え、勝山の行動の理由について推測を伝える。
宮川は彼女の推論に同意し友人の悩みに気付けなかった自分を責めたが、それでも多少は落ち着くことができ、改めて庄野にお詫びをするとともに疑問を語る。
なぜ勝山は衝動的に自殺へと向かったのか。宮川が知る限り、勝山は危機に陥ると頭が真っ白になるタイプだが、自殺するような人物ではないらしい。彼はとても純粋で、年齢に似合わぬ神社巡りを趣味とするような、むしろ人一倍犯罪に敏感な人物だったのだと。
庄野は二人であの駅を訪れて献花もかねてあの時を思い出してみようと提案する。宮川自身のためにもそうしようと。
駅から許可を得て献花に訪れた二人。ふと庄野は気づく。特急通過待ちの鈍行側停車がかなり長いこともそうだが、勝山の家はもっと手前の駅で下車するはずだと。
宮川の説明で、勝山は当時宮川の家に遊びに行く途中だったとわかった。学校が午前中で終わった彼らは、宮川の家でゲームをして過ごすことにしたのだ。つまり、勝山はこの駅をほとんど利用したことが無く、この場所で特急待ちになることは当日宮川に聞かされるまでは知らなかったはずだと。
特急が通過することを知っていたとしても、それが向いのホームであることまでは知らなかったのではと考えた庄野は、勝山が線路へ降りた目的が衝動的な自殺ではないのではないかと考えた。
そこに駅員の高田が現れた。
やつれて顔中無精ひげだらけの彼は宮川に対して深々と頭を下げた。この数日考えぬいて職場に辞表を提出し、そこで庄野たちを見かけて挨拶だけはしておきたくなったという彼を宮川は許した。謝罪される理由はよく飲みこめなかったが、庄野に促されてそうした。
庄野たちが勝山の考えを辿ろうとしていることを知り、高田も同行することに。
高田の話で特急の通過はいつも通りで、自殺を狙っていたのなら意図的に飛び込んだことになる。だが宮川は勝山の性格ならパニックになって一時的に逃走しようとした可能性もあると考えた。
特急電車が通過したホームの向こう側、よじ登れる程度のフェンスしかないその先にあるのは小高い山。そこには無人の小さな神社くらいしかないと高田が言うと、庄野はその場所だと考えた。
三人はその神社へと向かう。簡単な整備だけの山道をあれこれと語り合いながら登り、社に着いてそこから町が一望できることを知る。庄野は「勝山はここに来たかったのだ」と確信した。
三人は推論を報告するために勝山の母親を訪ねた。宮川と高田の謝罪を受け、母親は御朱印帖を見せた。そこにあの神社のものもあった。母親も縁のある神社であり息子を授かるきっかけだと思っている場所だと言う。
毎年初詣の時期だけ受けられる御朱印を楽しみにしていた勝山は、自分の罪に混乱して衝動的に神社へと向かったのかも知れない、と母親は語った。
勝山宅を辞した三人はそれぞれの思いを胸にして別れる。そして家に帰りついた宮川を、彼の母親はしっかりと抱きしめて無事に帰ったことを喜ぶのだった。
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