なにか作戦があるんですか!?
※今回、淫夢語録をもじったセリフがあるので苦手な方は読まないでください。
「なにか作戦があるんですか!?」
「ないわよ?だってあなた魔剣折れるんでしょ?必要ないじゃない」
「必要なんですよ!魔剣だって俺が折ったんじゃないです。偶然が重なって俺のせいになったというかされたというか」
俺は魔剣が折れるに至った状況を細かく説明した。
「その程度で魔剣なんて折れないと思うのだけど・・」
「とにかく俺にそんな力はありません。作戦がないなら他の方法を―」
「いいえ、他に手なんてないの。今倒す力がないなら倒せるようになるしかないわ!修行よ!」
確かに捕まえられるのならそれが一番手っ取り早い、しかし俺が直接この手で倒せたのは実質ゴブリン1匹。レベルだってまだ10だ。
(ん?レベルか・・)
「ちなみにそのヴェルマ兄弟のレベルっていくつくらいなんです?」
「え?なんのレベル?」
「だからその兄弟自体の」
「レベル?もしかして冒険者の総合戦力ランクのこと?」
(もしかしてレベルって普通の人には存在しないのか?とりあえず誤魔化すか)
「そうそれですそれ!」
「たしか二人とも5等級くらいだったはずよ」
「な、なるほどー!」
(すごいのかどうかわかんねー!でも自分から聞いといてそれなんですかなんていえねー!)
「それであなたはどれくらい戦えるの?」
「ゴブリンとしか戦ったことないですよ」
「武器は?」
「手作りの石槍で」
「あら、そんなの作れるの?器用ね」
「生きるために必死で作ったんです」
「でも槍じゃ駄目ね。襲ってくるとしたら裏路地みたいな狭くて人気のない場所だろうから長物は不利よ」
「やっぱり戦うのやめて別の手段をお願いします」
俺が懇願するようにロノリアに言うと、ロノリアは少し考え込むようにしてから答えた。
「私はね、今回あなたがヴェルマ兄弟に狙われたことはチャンスだと考えているの」
「え・・?」
「あいつらはいつも弱くて瞬時に確実に殺せる怪我人や病人、老人や子供を獲物に選ぶの。獲物の死体は隠されて証拠は一切なくて、行方不明として処理されるから衛兵も動かない」
「・・・。」
「でも、あなたは違うでしょ?」
「でも俺は・・」
「都合よくあなたを使おうとしてるのはわかってるの、だからお願い私にできることならなんだってするから、この街の為に力を貸して」
(ん?)
「・・・今なんだってするって言ったよね?・・・」
「えっ?」
「今なんだってするって言ったよね!?」
「え、えぇ言ったわ」
「よし戦おう!その代わり俺は弱い、さらに色々狙われていて行動範囲も限られているから修行しようにも―」
「待って、え?いいの?やってくれるの?ついさっきまで嫌がってたのに?」
「だってなんだってするって言ったでしょ?」
「でもそれだけで―」
「俺はそのノリを無視できない体質なんだよ!!」
俺はヴェルマ兄弟との戦いを決意した、元の世界のネットスラングのノリに逆らえずに。
「すみません、熱くなってしまいました」
「引き受けてくれるのだからなんでもいいわ。ちょっと驚いたけど」
「それで修行なんですが―」
「それは全面的に任せて。ここの地下にそれなりに動ける空間があるの、武器と修行相手はこっちで用意するから大丈夫。それと部屋は大丈夫よね、異空間系のスキルホルダーなんでしょ?」
(忘れた頃にこれだよ、もうなんなんだよこの人)
「この街の中で知らないことはないのよ」
「ははは・・・」
乾いた笑いで俺は返した。
「言いふらすつもりはないわよ?あと異空間の移動は部屋からでいいわよ同じ場所にしか出れないようだし人目につかないほうがいいでしょ?ここは特殊で滅多にお客様が来ないから」
「じゃあお言葉に甘えて」
「気が向いたらそのうち招待してくれたら嬉しいわ」
「考えておきます」
「それじゃあまた明日ね」
「あのぉ?」
「なにか?」
「代金は?」
「お願い事したのは私だし無料でいいわよ、じゃあまた明日ね」
「いや、あの」
「まだなにか?」
「来るとき飲んだ毒薬の解毒薬を・・」
「それなら来たとき飲んだじゃないの」
「えっ!?」
最初にこの部屋にきて落ち着くために飲まされたグラスの中身が解毒薬だったことに、俺はまた驚かされた。危ないことするなぁと思いつつも誓約なしでもこの人には何もできない、勝てるイメージがわかない。そんなことを考えながら俺は門を開いた。
「一つ聞いてもいいですか?」
「なにかしら?」
「ゴズマって冒険者ギルド食堂の店員さんの名前?」
ロノリアが微笑んで頷いたのを確認した俺は門の中へ入って振り返った。
目の前には俺の消えた空間を覗きこむように凝視するロノリアが見えた。
(いろんな意味で怖い人だけど、悪い人じゃないし今回の件が終わったら招待してもいいかなぁ)
今日は本当に精神的に疲れる1日だった、そんなこと考えながら家に入るとそのままベットに身を投げ出すと泥のように眠った。