俺のせいじゃなくね?
「俺のせいじゃなくね?」
異空間ハウスの門から森の中に見えるいくつかの明かりを見ながら俺は心底そう思った。
もう日も落ちたのに騎士の皆さんはたいまつ片手にいまだに森の中で俺を探している。
逃げ込んでからまず失った石ナイフの代わりを作り、終わったころに門の外を見るとまだ騎士たちが森にいた。
身動きが取れない俺はさらに予備の石ナイフを作成した。
手頃な木材がないので槍はもう作れないが石ならば砕いた程よい欠片が沢山あったので練習も兼ねて何個も砥いだ。
(砥いでる感じはただの石だよな、やっぱり)
石ナイフが魔剣にぶつかり魔剣が折れた時のことを思い出しながら、俺は改めて確認するように石ナイフを削った。
魔剣が見えないところですでにボロボロであり、鎧の人との力比べでさらに亀裂が入って、思い切り振り下ろすときの風圧で折れた。たまたまそのタイミングに石ナイフが当たったという展開しか思い浮かばなかった。
行きついた答えによって自然に口からこぼれた言葉が冒頭である。
いくら加護があったとしても魔剣と呼ばれるレベルの剣をその辺の石ころで作ったナイフで壊すなんて無理。そんなの誰が考えたってそうだ。
しかし濡れ衣とはいえ目を付けられ、顔まで見られたのは非常にマズイ。
騎士たちの拠点は考えるまでもなく街だ。このままでは街に入れない。
しかし他の街までどれくらいの距離があるかわからない以上は下手にここを動けば飢え死にもあり得る。
なぜあの時、女神様の言う通りにすぐ街に行かなかったのか。
(しょうがないじゃん、だって男の子だもん♪)
そんなことを考えながら、夜は更けていった。
風呂上がりに洗面台で自分の顔を眺める、ナルシストと言われればそう見えなくもないが――
(どう変装したもんかな・・)
街に入るために変装しなければならないのは確定した。しかしフードで顔を隠した程度ではすぐにもばれるだろう、ばれないわけがない。
1度女装も考えたが服もなければメイク道具もない。万策尽きたと思ったころだった。
リビングに置いてあった、配置薬の箱を見て慌てたようにそれを開けるとその中には想像したものが入っていた。
包帯
病人と偽るのは正直気が引けるが魔法で治せないほどの病気、いや呪いがいい。それで人に見せれる肌でないということにしよう。あとは証拠を見せるときのために顔の1部と腕の1部の肌に細工しなければならない。
(木の皮を細工して色着けしてなんとかならないかな?)
俺は倉庫に向かうと石槍を作る際に出たあまりの木くずの中から木の皮を拾い上げた。
倉庫の中はずっと明るいためそのままそこで作業を開始した。
まず表面を研いでない石の破片でこすりつけボロボロにする。
そして家の中を探して見つけていた俺の元の持ち物、ガン○ムカラーの普段使わない色を取り出す。
(よく使っている色や工具がなかったことを考えると、もしかしたら牛糞で汚れていないものをこの家に運んでくれたのではないだろうか?)
少し脱線したことを考えながら、様々な色を塗っては乾かし乾いては塗りを繰り返し、とりあえず木の皮には見えない毒々しい感じの特製偽装皮膚を完成させた、これを右手の腕と左頬に着けて包帯を巻くことにしよう。
「作り物感すごいな」
まぁしょうがない、着けてみてダメそうならまた考えよう。とりあえず今日は寝る。
そう決めると、俺は家に戻りベットに潜り込んだ。
翌朝、リビングのテーブルの上に置いておいた特性偽装皮膚をみると俺は驚いた。
(あれ?こんなのだっけ?違うよな?え?え?え?)
そこには色合いはそのままだが作り物感が消えた昨日作った間に合わせの感じではなく、人工皮膚クラスの質感の物があった。
(これも加護の力なのか・・・。ほかに考えられないし、すげぇよ鍛冶神様、女神様!)
試しに皮膚に重ねてみるとさらに驚くことが起きた。肌に触れたとたん全身が気味悪く毒々しく痛々しいただれた肌に変わったのだ。
(なにこれ?完全にマジックアイテム的なやつじゃん!?)
使用にはまったく違和感がなく、肌には吸い付くように張り付き剥がしても何度も使える。
(鍛冶神の加護まじぱねぇ・・・)
良い方で予想外の出来事が起きたが当初の予定通り、偽装皮膚を付けた状態でその上から服の上から露出しそうな部分をすべて包帯でグルグル巻きにして、顔も眼が出るようにそして口も開けるように巻き付ける。次に髪を片方の目を隠れるようにセットして、家に備え付けてあったグレーのフード付きのバスローブを羽織って鏡の前に立った。
(せっかくイケメンになったのに隠さなきゃないのは勿体ないがこれはこれでありじゃね?)
鏡の越しの姿をちょっと気に入った俺はこの世界の硬貨の入った袋と作った石ナイフ3本を家で見つけたポーチに入れるとそれを身に着けて玄関を出た。門から見えた森にはもう騎士たちはいなかった。ばれるかも知れないので石槍は持てない、騎士だけでなくゴブリンにも気を付けなければならないということだ。
門を恐る恐るでるとすぐ周囲を調べた。どちらもいないようだ。
適当な木の枝を拾い石のナイフで軽く加工して杖を作るとそれをついて外壁の見える方へ歩き出した。
街が近づくと門から長い列ができていた。最後尾に並ぶと前に並んでる人たちの会話に耳を澄ませた。どうやらこの街を治める貴族の私兵騎士団が何者かを探していていつもより門での検閲の目が厳しくいつもより時間がかかっているらしい。
四半刻ほど並ぶと自分の順番が回ってきた。
強面の門番が厳しい目で話しかけてくる。
「なぜ顔を隠している」
「俺は呪いを受けて肌がただれているんだ、とても人には見せれない」
「身分証は?」
「田舎から身分証を作りに街にきたんだ」
「顔を隠して身分証もなしか。怪しいな、その布を解いて顔をみせろ!」
門番が睨みながらそういうので、俺は素直に顔の包帯をずらしていくと、隙間から見えた肌に門番が青ざめ慌てて声を上げた。
「待て!解かなくていい!」
「いいのかい?」
「領主様の騎士が不審者を探していてな。厳しく検閲するように念を押されていたんだ。それを晒すのは辛かっただろう、怪しかったからとはいえすまないことをした。」
(あれ?この強面のおっさんめっちゃいい人じゃね?)
「構わない、呪いとは長い付き合いでもうこの身体をどうこう思ってはいない」
「そうか・・・。身分証なしで街に入るなら共通硬貨で銀貨3枚だ、ほかの硬貨は使えない」
袋から銀貨を3枚取り出し門番に渡すと、門番は1度頷いて中へ促す。
なかに歩きながら一つ門番に尋ねた。
「すまないが冒険者ギルドはどっちだい?」
「この真ん中の道をまっすぐ行って突き当りの建物だ」
「そうか、ありがとう」
振り返らず礼を言って俺は街の中へ入った。
(危なかったあぁぁぁぁぁ、よかったぁ一手間かけて変装して!)
解けた緊張で体中の力が抜けそうになる。門番に言われた真ん中の道をまっすぐ歩くその足は先ほどまでと同じ足なのかと思うくらい軽く感じた。
冒険者ギルドまではそう時間はかからなかった。
扉を開けると食堂的なスペースにはそれなりに人がいるようだったが受付には冒険者らしい人はおらず、受付の女性職員が入ってきた俺に気付くと姿勢を正して俺を待った。
「すみません、身分証明書の発行をお願いしたいのですが?」
「いらっしゃいませ、一般用のものと冒険者用のものがございますが」
「どう違うんですか?」
「一般用のものは永久的に身分を当ギルドが保証するもので金貨1枚になります。冒険者用のものは銀貨5枚で用意できますが1月に最低5回は当ギルドの依頼を受けてもらう必要があります。」
「では一般的なものでお願いします」
一瞬驚いたような顔をした女性職員だったがすぐに表情を戻すと「お待ちください」と言い残して後ろの部屋に入って行った。
(なんで驚いたんだろう?こんな身なりだから金貨持ってることが驚かれたんだろうか?)
少し時間をおいて女性職員が戻ってきた。
「申し訳ありません、一般の身分証明書の申請する方がしばらくいなかったもので申請用紙を探すのに手間取ってしまいました」
そういうと羊紙皮と羽根ペンをこちらに差し出した。
「こちらにお名前と年齢を書いていただきたいのですが、代筆は必要ですか?」
「いえ、大丈夫です」
そう答えてペンを手に取った時、あの時女神様に言われた言葉を思い出した。
『新しい体の名前はお好きにつけてください』
(あっ・・・名前どうしよう)
おれは不自然に手を止めた。