表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/44

ここが異世界かぁ・・

「ここが異世界かぁ・・」


 無事転移した俺は辺りを見回した。


 開けた草原、1本長く伸びる土色の線は道だろう。

 その線を辿ると大きな壁が何かを守るように覆うようにしてなにもない平地にそびえたっている、あれがこの世界の集落、規模の大きさから村という単位のものではないだろう。

 となると――


「あそこが街だな。近いところで助かった、やっぱり至れり尽くせりだな」


(まず身分証明書を作った方がいいんだっけ? だったら街に入るべきかなー)


 そう考えながら振り返ると少し離れたところからぽつぽつと木々があり、その先はかなりの規模の森になっている。

 ここから見ても奥に行けば行くほど深い森なっているのがわかる。


(RPGで考えるなら奥に行くほど強い魔物って感じかな。少しなら大丈夫だ)


 先に自分の力を試してみたくなり、街とは違う方向、森へと歩き始めた俺は女神様にもらったスキルを思い出し反芻しながら少し浮ついた気分で足を早くした。

――のちに俺はこの行動を「しょうがないじゃん、だって男の子だもん♪」と言い訳することになる――




 森に向かいながらまず最初に試したのは異空間ハウスの倉庫機能、これはイメージで発動できた。

 はじめは足元に落ちてる小石や枝、やや大きめの石を倉庫に転送した。

 いくらか実験してわかった条件は、触れていることと俺自身が持ち上げられることだ。

 なるほど、持ち出すときは持たなきゃないのだから当然の条件だ。


 次に気になるのは異空間ハウス、倉庫にちゃんと転送されているかも確認したい。

 こちらも発動するにはイメージらしい。

 門が開くイメージをすると目の前の空間が開きその先には見えたのは現代日本の木造平屋、坪にして40くらいの建物と芝の生い茂った幼稚園の園庭程度の広さの庭、そして庭の隅にログハウスのような木製の1坪倉庫があった。


(倉庫というより物置って感じだな)


 そう思いながらまず最初に倉庫に向かった。転送が成功しているのか気になっていたということが最大の理由だ。

 倉庫の扉を開くとそこは外観からは想像できないほどの広さだった。

 扉に近い位置には先ほど転送させた石や枝、折れた丸太が無造作に置かれていた。


(家と同じくらいの広さじゃないのか? さすが魔法のある世界)


 倉庫に満足して、次は本命の家に向かう。

 玄関を開いて最初に出た感想はなんの変哲もないただの日本のよくある一軒家だった。

 はしゃぐ子どものようにその家を探検してみると洋室4部屋、和室1部屋にリビングダイニングキッチン、トイレはシャワートイレ、やや広めの脱衣洗面所に洗濯乾燥機、そして風呂は大人が2~3人が入れそうな浴槽にジェットバスがついてる。


 洗面台を見たときちょっとした事件が起きた。


(これが女神様の趣味か!? 超イケメンじゃん! ほんとにこれ俺でいいのか!?)


 長めの黒髪、彫りはそこまで深いわけでなく日本人顔、中性的なわけではないが優男といった印象だ。


(鏡をこんなに長くみたのは初めてだ。しかしこれは・・・。モテそうだな。諦めていた脱素人童貞もいけるかもしれない。・・・違う違う! 今は家の見回りだ!)


 それから30分後に再度家の探検を再開した


 日本人として広い風呂もうれしかったが、LDKに隣接した和室にあった掘り炬燵にも感動した。

 

 一通り見て回った結果わかったことがある。

 電気、ガス、水が使い放題のようだ、それどころか各部屋にあるティッシュ箱、トイレットペーパーなどの消耗品も無限かどうかはわからないがいくら使ってもなくならないようだった。

 もう一つ驚いたのは冷蔵庫、それは――


(この冷蔵庫、俺のじゃないか!? 中身まで・・)


 気づくと所々に自分が元の世界で使っていたものがあちこちに置かれていることに気付いた。

 女神様の粋な計らいに感謝しつつ1度家を出ることにした。

 まだ、異空間ハウスというスキルしか使っていないのに随分と時間を使ったようだ。

 家を出た時、外は日が傾きかけていた。


(鍛冶神の加護は夜になにか作ってみるとして、次は創造神の加護・・・その中の成長速度、おそらくRPGで言うところの経験値が普通より多く手に入るのだろう)


 倉庫に再度向かうと振り回すのにちょうどいい木の棒を手に取り1度素振りをして手ごたえを感じそれを片手に倉庫をあとにした。


(木の棒なら街の近くの敵くらい倒せるだろう。1匹目は苦戦しそうだがレベルさえ上がってしまえばこっちのものだ)


 おれは意気揚々と異空間ハウスの門を開いて森の入り口に戻って行った

――のちに俺はこの行動を「魔法とかあったらゲーム脳にもなるだろ!」と逆切れすることになる――


 暗くなる前に少しでもレベル上げをしたい、そう考えた俺は森の深い方へ足を向けた。

 どこまで行っても全然魔物が見つからない。


(この辺りには魔物はいないのかな)


 考えてみれば女神様は魔物がいるとは言ったがどこにいるとは言わなかった。

 国を1つ滅ぼしたということは魔物には知能があって人間同様に集落をつくってそこに住んでるのかもしれない、だとしたら森の中を探索しつづける俺はなんと滑稽なんだろうか。


(・・・帰るか・・・)


 来た道を戻って草原との境目あたりで異空間ハウスを使って夜をすごして明日の朝早い時間に街にいくことにしよう。


 そう思いながら踵を返し、少し歩いたときに草木をかき分けるようなガサガサという音と共にそれは聞こえてきた。


「ギギッ・・・ギギッ」


 鳴き声。聞いたことがない、妙な気色悪さを感じるその音の先をそっとのぞき込むとそこには――


(間違いない! ゴブリンだ!)


 森の中は暗く視界は良くないが、その肌の色が人間の色でないことがわかる。

 猫背のような姿勢、まるで教科書でみた類人猿のような見た目だがその頭には2本の角のようなものが存在した。


(まだ気付かれてないな! 背後から思い切り振り下ろせばいけそうだ!)


 心臓が痛いほど高鳴る、奇襲ではあるが初戦闘。呼吸が自然と乱れるがそれを無理やり落ち着かせようとする。


「ハァ・・・ハァ・・・」


 危ない犯罪者的な呼吸。自分でも今の変質者的な雰囲気に気付いてはいる、しかし止めることができない。

 逸る気持ちをなんとか抑えつけ、気付かれないように慎重に足を運び、ようやく目標の背後をとらえた。


(よし、やるぞ!)


 木の棒を大きく振り上げ、一気に飛び出す。こちらに気付き振り返るゴブリンは奇襲に驚いてる様子だった。

 相手の脳天をめがけて木の棒を振り下ろすと、俺の渾身の一撃がゴブリンを襲った。

 衝撃で手がしびれ木の棒を手放した。落とした木の棒は折れていた。

 それを見た俺は確実な手ごたえを感じていた。だからうつ伏せに倒れているゴブリンを死に体であると疑わなかった。


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・や、やった」


 緊張の糸が切れその場に崩れるように座り込む。達成感を感じて空を見上げた。木の枝の隙間か見えた空はあと少しで陽が沈む、そんな空が見えた。


(さてと、早く森を出ないとな)


 ゆっくりと立ち上がり1度背伸びをする、その直後、倒れていたゴブリンがうなりをあげ起き上がる。


「えっ?」


 俺は上げた声に見合うほどの間抜けな表情を、立ち上がるゴブリンに見せていた。


「ギギィー!」


 ゴブリンが威嚇の声をあげる。


「ヒッ!」


 足が震える。武器はない。奇襲をしかけて倒せなかった相手。勝てるわけがない。


(に、逃げないと)


 判断してからの行動ははやい。

 ゴブリンに対してすぐさま背を向けると俺は暗い森に駆け出した。

 背後からゴブリンの声が迫ってくる、だが振り返る余裕はない。

 すると前方から物音がする、「ギギッ」という聞きたくなかった音。


(まじかよ!?)


 このままいけば前方のゴブリンと鉢合わせ、運が悪ければ挟み撃ちになる。

 その更なる危機的状況が俺を一瞬冷静にさせた。


(そうだ!”開け”)


 門の開くイメージ、目の前の空間が開きその中に駆け込み、門をくぐったところで倒れこむと自分の背後に目をやる。

 ゴブリンがこちらに向かって走ってくる、門を近づくとそのまま視界から消えた。


(消えた?)


 するとゴブリンが再度視界に現れる、今度は後ろ向きだ。

 どうやら門から先に入れずその先に進むと本来の森の先に行くことになるようだ。

 つまりは――


「た、助かった・・・。助かったぞおおおおお!」


 しかしその時は気付いていなかった。

 ゴブリンから逃げながら森の奥深くへ迷い込んでいたことに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ