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「どうして、私が、ついて行かなくっちゃあ、ならないのよ……」
春の女王様、イチはぶつくさと文句を言いました。先を歩くオリはズンズンと斜面を登ります。
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夏の女王様トコはオリの出発前、イチに言いました。「イチ、あなたもついて行きなさい」
イチは驚き、反抗しました。「イヤよ! なんで私が!」
「オリはきっとエツお姉様を塔から降りさせることに成功するわ。あなたはそれを見届けなさい。それに、あなたは人嫌いなんだから。他人と関わることを避けているでしょう? たまには私たち以外の人とも関わろうとしなさいな。学べることがたくさんあるわ」
イチは心底嫌そうな顔をしました。でも、四人の女王様の中で一番年下で、特にトコと仲の良いイチは、それ以上強い言葉で言い返すことが出来ませんでした。
「あなたが賭けに負けても……つまり、オリがエツお姉様を塔から降りさせることができても。トゥフィオカルメルッツィオ百メラーは私、いらないわ。でも、あなたが賭けに勝てば約束通り百メラー。あなたにあげる。だから行ってらっしゃい」
*
「ねぇ毛むくじゃらさん。もう少しゆっくり歩いてくださらない?」
オリは振り向きました。「私のことですか?」
「あなた以外に誰がいるってのよ……」
城を出た二人は山を、塔に向かってゆっくり登って行きました。雪がちらつき、凍える風がビュウビュウ吹きます。オリは辛そうに顔を歪め、毛皮をしっかりとまといました。イチはというと、薄手のコート一枚羽織っているだけだというのに、平気な顔をしています。ただ、あまり外を歩き慣れていないということで、だるそうな顔をしています。
「……あなた、歳はいくつ」
「十五です」
「ふぅん、私の方がお姉さんね。……普段、何をしてらっしゃるの」
「森で狩りをしたり、皮や骨、角なんかを加工したり、ですかね」
「……野蛮なのねぇ」
「さっきから、なんでずっと話しかけてくるんですか?」
「退屈なのよ。退屈で退屈で仕方ないの。ハァ、やっぱり出てくるんじゃなかったわ。もっと強くトコお姉様に言うんだった。トコお姉様ってばいっつもそうなのよ。この前だって……」
「シッ」
オリが強く言い、動きを止めました。イチはびくり、と驚きます。「なによ……」
グゥルルルル……。獣の、喉を鳴らす音がします。イチは恐怖に身をすくめました。
音のする後ろを、イチはゆっくり振り返ります。するとそこには、普段の冬眠期間を過ごし終え、目を覚ましてしまった腹を空かせた大きな熊が、こちらを睨んでいました。
目が合ってしまうと、熊はイチに向かって四つ足で駆け出しました。彼女は動くことができません。どうして良いかもわからず、固まってしまいました。
「伏せてっ!」オリの声が響きました。イチはとっさにその場にうずくまります。オリは瞬時に弓を構え、矢を放ちました。矢は空気を切り裂いて、熊の右眼に突き刺さりました。
走って来た熊は方向を変え、大きな木にぶつかりました。雪の塊がイチに降りかかります。オリは彼女の手を取って、その場から離れようと走り出しました。陽は陰り、夜が近付きつつありました。
腹を空かせた熊も、必死に二人を追いかけます。足がもつれ、うまく走れないイチを引っ張って、オリは駆けました。大きな木を見つけるとその影にイチを隠し、弓を構えました。矢が熊に刺さります。また走り、隠れ、追われながら、矢を放ちます。熊はようやく弱り、動きはゆっくりになりました。
オリは言いました。「もう夜になります。闇雲に走ってしまったせいで、塔がどこにあるのかもわからなくなってしまいました。今日はもうどこかに身を隠し、朝を待ちましょう。あの熊をいただくことにしましょう」
(えっ?)イチは彼女の言うことが理解できませんでした。オリは木の影から出ると、熊を仕留めにかかりました。




