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 吹雪の中、一人の少女が息を潜めていました。


 木陰にしゃがんだその少女の名はオリ。そして彼女の見つめる先には、立派な角を生やした雄鹿がいました。


 オリはかじかむ指にハァ、と白い息を吐いて暖めると、素早く弓を構えて矢尻を引きました。彼女の両眼はしっかりと雄鹿を捉え、揺るぎません。


 息を止め、オリは矢を放ちました。



     *



「できたよ、お母さん」


 湯気立つ鹿肉のスープを、オリはベッドから身体を起こしたお母さんに差し出しました。


「ありがとう」


 お母さんはあたたかいスープをすすり、ごろりとした肉をかじりました。「おいしい」そう言って微笑みます。


 外では大雪を舞わす強い風が吹き、窓や扉をガタガタと揺らします。この国では例年よりずっと長く、冬が続いていました。オリのお母さんは凍える毎日に身体を壊し、寝たっきりの日々を過ごしていました。


 二人暮らしのオリとお母さんは森の外れの木の家で、冬の終わりを待っていました。しかし、一向に春はやって来ません。


「寒くない?」


「大丈夫よ。オリ」


 暖炉の中で、真っ赤になった枯れ枝がパチパチと弾けます。お母さんはそちらを見て言いました。


「火を見ていると、それだけで暖かい気持ちになるわ。あなたが枯れ枝を拾ってきてくれたおかげね。それに、このスープ。あなたが鹿を狩ってきてくれたおかげ」


 オリは照れたように笑いました。「もっとたくさん食べて。まだまだあるから」


「もうお腹いっぱいだわ。ありがとう」


 お母さんは最近では食べる量も少なくなって、身体は瘦せ細り、オリに微笑んで見せるのが精一杯のようでした。彼女はそんなお母さんを見るのが辛くって、元気になって欲しくてたまりません。春が早く来てくれれば……オリは常日頃、そう思います。


「ねぇ、聞いて。私ね、城に行こうと思うの」


 お母さんは突然のオリの言葉に、言葉を失いました。


「町で聞いたの。終わらない冬は、冬の女王様が塔から出て来ないせいなんだ、って。王様が、女王様を交代させられる人を、探してるって」


「そんな……無茶よ」お母さんは眉を山のような形にして、困った顔で言いました。「あなたはまだ子どもなのよ、オリ。危険なことはさせられないわ」


「けれどこのまま冬が続いたら、お母さんも、森も動物たちも、私だって生きてはいけないわ」


 オリは強い口調で言いました。長く続く冬に苦しめられているのは彼女やお母さんだけではありません。森の動物たちも、食べるものがないのです。森の動物たちがいなくなると、オリやお母さんの食べるものも無くなってしまいます。彼女はそれを恐れているのです。


「安心して。私は大丈夫だから。私を信じて……」


 固い決心をオリの表情から感じ取ったお母さんは、もうそれ以上何も言うことができません。黙ってオリの手を取ると、お母さんはその手のぬくもりで思いを伝えるのでした。


 ーー次の日の朝。たくさんの食材を調理し、保存食としてお母さんのために残したオリは、家を後にしました。分厚い毛皮をまとい、弓と矢を背にして雪をかき分け、森を進みました。


(お母さん。もう少し、あと少しの辛抱だわ。私が、きっと冬を終わらせてみせる。春を呼んでみせる)


 その日は珍しく風が止み、雲の隙間からは白い光が射して、木々の枝葉についた雪の欠片をきらめかせていました。それはまるで、オリの旅のはじまりを祝福してくれているかのようでした。

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