0:8 サーラ・シャンテット
彼女ーーサーラ・シャンテットーーは、都市内にある医院に長年務めている熟練の薬師である。医院に努める傍ら、孤児院に住みながら経営している。経営と言っても、市からの補助金や住人からの寄付などで、金銭面では大変ではない。ただ、孤児の多くは幼く、元気があり余っているため、常にはしゃぎまわっている。そんな彼らを世話をすることの方が彼女にとって大変である。
ユーグも、この孤児院で育ったので、サーラを本当の母親の様に思っており、母さんという言葉に現れている。
「ーーって事が会ってね。ユーグもお母さんって呼んでくれるようになったのよ」
そう語るのは、ユーグが孤児院へと引き取られてた頃の話だった。
「あっ、そうだわ。……ねぇ、ユーグ。後でいいから孤児院へ来てくれる?」
「いいけど⋯⋯、どうしたの?」
「あなたに、お願いしたい事があって⋯⋯。それに、あの子たちもあなたに会いたいと思ってるし」
「それじぁ、夕刻に行ーー あっ、……。ごめん、仕事で行けない」
そう、護衛という仕事上、クレアの元から離れるという事は出来ないのである。文館でおいても、クレアが泊まっている来賓用の部屋のすぐ隣にある部屋で寝泊まりしている。また、就寝時においても、何かあった時にすぐ動けるように、気を張っている。
(最近、仕事が忙しくて、子供たちに構ってやれず寂しい思いをさせているだろうな⋯⋯)
そんなユーグの心中に気付いたのかクレアがこんな事を言い出した。
「すみませんサーラさん、私もその時にご一緒してもよろしいですか? ユーグさんがどういった所で育ったか見てみたくて」
「えっ、ええ、もちろんいいわよ。それなら夕飯も一緒にどうかしら?」
「いいんですか? 嬉しいです!」
クレアが喜ぶのも無理はないだろう。巷では、彼女が作る料理は絶品という噂が流れているぐらいには、彼女の料理は有名なのだから。
その噂の発端は、彼女が医院で病弱な人に食べさせてあげる手作りの料理から始まった。たちまちその噂は広がり、彼女の手料理を口にしたものはその美味しさに涙を流し、病弱だった体も瞬く間に治っていく。その人気は、その料理を食べたいがために宗教に関係なく断食をする人が出てくる程だった。
そう言ってサーラとは別れ、ユーグは街案内を続けた。最後に都市の中央にそびえ立つ時鍾の塔に上り、その最上階で夕日に染まる街並みを見回した。
「わぁ~、こんな綺麗な夕日なんてこれまでに一度もみたことがない!」
「自分もそう思います。今までで今日が一番綺麗です」
「そうなのですか? でしたら、この光景を焼き付けとかないと‼︎」
「あぁ、本当に綺麗だ⋯⋯」
ユーグは、風でなびく白銀の髪を手で押さえながら目の前の光景を食い入るように見るクレアを見ながらそう呟いた。
こうして二人の時間はゆっくりと過ぎていく。
6/14 孤児院の子どもたちの描写を変更。 後半部の修正
10/1 サーラのキャラブレ修正