0:7 街案内
正門前、ユーグはクレアを待っていた。しばらくすると、玄関を出て、ユーグの元にやって来た。
「すいません、お待たせしました」
「それほど待っていませんよ。⋯⋯それではクレア様、今日はどうされますか?」
「そうですね⋯⋯では、この街を案内してもらえますか? 初めて、この街を訪れたので、色々観て回りたいです」
「そうですか、分かりました。それではご案内させていただきます」
まず、ユーグは都市の多くの人々が住まう居住区に案内した。子供たちが元気に走り、上を見上げれば、絶好の洗濯日和と言わんばかりに洗濯物が吊るされている。
そして、住宅区を抜けると、そこは商業区だった。大通りでは馬が馬蹄を響かせながら目の前を行き来している。道端では、多くの露店が開かれ、旅人や住人で大変賑わっていた。その余りにも活気良さに、ここだけ、周囲よりも気温が高いっと錯覚してしまう程だった。
露店を覗いたりしながらクレアと街路を歩いていると、ある一人の貴婦人が声を掛けて来た。
「あら、ユーグ! こんなとこで会うなんて珍しいわね。今日は仕事はないの?」
そう言って声を掛けて来たのは、柔らかな眼差しと灰色の髪が特徴的な40代ぐらいの女性だった。手に買い物かごをぶら下げており、その中には、数種類の薬草や果物、野菜など多くの物が入っていた。
「今、仕事の最中だよ、母さん。自分は、この方を護衛する任務についているんだよ」
「そうなの……てっきり私は、あの仕事に一筋だったユーグにもようやく春が来たかなと思っていたんだけど、残念だわ」
その母さんと呼びれた女性は、本当に残念そうにそう呟いた。
一方 クレアは自分と話す時とは違って、貴婦人と砕けた口調で話しているユーグに驚いている。そして、この様子が普段の彼だという事に気付き、少し残念がっていた。
そんな中、貴婦人はここで、初めてユーグに連れそうクレアに視線を向けた。
その視線に気が付いたクレアは、サーラに挨拶をした。
「初めまして、クレアです。滞在期間中、ユーグさんに護衛してもらう事になりました。どうかよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくね、クレアちゃん! 私は、サーラ・シャンテットよ、気軽にサーラって呼んでね!」
「分かりました。よろしくお願いしますサーラさん」
「でも、本当に恋人じぁないの? 遠目から見るとすごく仲いいように見えたわよ。まるで、熟練の恋仲みたいだったわよ」
「そんなんじゃないって、⋯⋯本当に任務として護衛しているだけだよ。大体自分が、こんな綺麗な人と恋人になれるわけないじゃないか⋯⋯」
その言葉にサーラの言葉によって顔を赤らめていたクレアは、ますます顔を赤く染めていた。
「そんな事は無いと思うわ。貴方は親の贔屓目なしにいい男だと思うわ。だからもっと自信を持ちなさい」
「わ、分かったよ。ありがとう」
こうして。クレアとサーラのファーストコンタクトを迎えたのでした。
6/12 後半部を修正
6/14 一部セリフを変更
10/1 サーラのキャラブレを修正且つ全体の更正