0:6 翌朝
翌朝、ユーグは文館の扉の前に来ていた。着いてからかれこれ数分が経過していが、未だにクレアは顔を見せない。ユーグは、来る時間を間違えたか?と考えたが、すぐにその考えを自身で否定した。なぜなら先程、時鐘が鳴り、今が九時である事は分かっているからだ。次にユーグは、何者かによる誘拐を考えた。しかし、それもすぐさま否定した。二六時中、兵士が警戒している中を気づかれずに誘拐するのは不可能に近いからだ。そこで、ユーグは、これ以上待っていても仕方がないと考え、クレアの自室を訪れる事にした。
クレアの自室前に着き、ユーグは扉をノックした。
「クレア様、ユーグです。起きておられますか?」
そう声を掛けると、しばらくしてから返事が聞こえた。しかし、その声はどこか弱々しい。
しばらくすると、扉がガチャリと音を立て、開いた。
「失礼します、クレア様。お時間が過ぎていますが、どうかなされまし――」
そう声を声を掛けるユーグの声が途中で止まった。しかし、それは仕方がないだろう。クレアのネグリジェの肩の部分がはだけ、胸がチラリと見えてしまっている。
「なっ、なっ⋯⋯‼」
そしてさらに、クレアがユーグへと、しなだれかかってきた。クレアの豊満な胸がユーグの胸に当たり、その存在を主張してくる。
この時のユーグはすでに恐慌状態に落ちいっていた。
「く、クレア様どうしたんですか⁉」
しかし、応答がない。そこでようやくユーグは落ち着きを取り戻した。ユーグの耳に聞こえてくるのは、スー、スーといった規則正しい寝息だった。ユーグはクレアを起こそうと顔を覗き込んだ。しかし、クレアは、ユーグの胸で気持ちよさそうに立ったまま寝てしまっていた。そんなクレアを起こすのも忍びなく、ユーグは、されるがままそこでじっと立っていた。しばらくすると、くちゅんっと、そんなくしゃみと共にクレアの瞼がゆっくりと開いていた。しばらく、ぼーとしていたクレアは脳が動き始めたのか次第にその瞳に意思が宿り始めた。そして今自分がどういう状態なのかを理解し、次の瞬間。
「きゃああああああああ~~~~~」
そんな悲鳴と共にユーグの頬に強烈な平手打ちをお見舞いした。
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「――――っと言う感じです。」
ユーグは、頬に紅葉型の痕をつけながらクレアに経緯を説明した。
「本当に、本当にごめんなさい。ユーグさんがそんないやらしい事をしない方だと分かっていたのですが、つい⋯⋯。本当にごめんなさい」
「もう大丈夫ですから、お気になさらないで下さい。誰にでもそう言う事はありますから」
その言葉にクレアは再度深く謝罪しその場は収まった。
「では、着替えたら正門までお越しください。待ってますから」
そう言ってユーグは部屋から出て行ってしまった。残されたクレアは、動きやすい格好に着替えながら自分自身の行動を反省していた。
(本当にユーグさんには、申し訳なく事をしてしまった。そういえばなんで私は、起きなかったんだろう? 普段なら、初対面の方が部屋に入ってきたらすぐに目が覚めるはずなのに⋯⋯なんで⋯⋯?)
クレアは寝ていた時の事を思い出していた。そして気づく。
(あぁそうか、子供の頃お父様がよく遊び疲れて寝てしまった私をおんぶしてくれた時のあの安心感に似てたからなのね。だけど、どうしてユーグさんなの?昨日初めて会ったはずなのに⋯⋯それに、この懐かしい感覚は?)
次から次へと様々な疑問が出てくるが、自身にはにユーグと会ったという記憶がない.
釈然としないながらも着替え終わり、部屋を出て、正門へと向かう。