0:5 受託
「護衛ですか⋯⋯?」
「あぁ、そうだ。と言っても案内兼護衛だがな。ただ、アルトリス殿は、お前も分かっていると思うが歴戦の武士だ。それに、滞在期間中は、私達と大事な話し合いをする予定だ。つまり実質、お前の護衛対象は、クレア様だけだ」
「1つ質問してもいいですか?」
「あぁ、いいぞ」
「なぜ自分なのですか?別に不満があるというわけではないのですが、護衛というならもっと適任の方がいらしゃると思うのですが⋯⋯
「あぁ、それは⋯⋯」
アボットが理由を話そうとするのを遮ってアルトリウスがその理由を話し始めた。
「それはね、君の父上のアークトゥルス卿と親交があって、その息子さんにならうちのクレアを任せれると思ってね。それにその若さであの実力があれば充分だよ」
その言葉から察するに、どうもアルトリウスはユーグが演習場で行った模擬戦を観ていたようだ。ユーグが戦った相手は格上だったが、ユーグはその相手に途中まではかなり善戦をしていた。
「私もぜひユーグさんにやってもらいたいです。」
「娘もこう言っている事だし、どうか、頼まれてはくれないか?」
そう言われては断ることも出来ず、ユーグは護衛の任務を引き受ける事にした。
「分かりました。引き受けさせていただきます」
「そうか、ありがとう。ではよろしく頼むよ」
「よろしくお願いします」
「それではユーグ君、もう遅いですしクレア様を宿舎へと案内してあげてください」
「了解しました」
そう言ってユーグは椅子から立ち上がり素早く扉の前に移動し、扉を開け外に出た。それに習うようにクレアも椅子から立ち上がり扉の入り口付近まで悠然と歩いていき、支局長達に挨拶し部屋を後にした。
「それでは、お父様、カールスさん、それに、アボットさん、お先に失礼します」
「あぁ、お休みクレア」
「ユーグ、頼むぞ」
「任せてください、さあ、こちらですクレア様」
そうして、ユーグはクレアを先導し始める。それに続きクレアは洗礼された優雅なお辞儀をして部屋を後にした。
そうして、ユーグは、政務室から出てクレアを文館へと案内した(ユーグ達の間では文官用の宿舎を文館と呼び、兵士の宿舎を武館と呼んで区別している。また、文館や武館といった宿舎には、常に警備兵が駐在しているため、都市にある旅館よりも安全性が高い。)
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それは、文館の門まで10メートルを残す所まで来た時の事だった。
「ユーグさん、ここまでで大丈夫です。あそにあるのが宿舎ですよね。」
「はい、そうです。しかし、目と鼻の先とはいえ、安全とは限りませんから、やはり宿舎まで案内しますよ」
「本当に大丈夫です。こう見えても、私も少しは戦えますよ。」
「分かりました。では、明日は何時ごろにこちらへ伺えばよろしいですか」
少し考えるような素振りをし、
「では、朝の9時ごろにお願いできますか?」
「了解しました。他にはありますか?」
「今の所は大丈夫です。それでは、ユーグさん、また明日」
「はい、また明日。おやすみなさいクレア様」
こうして、ユーグはクレアの護衛を引き受ける事なったであった。
そして、ここから大きく、運命の輪が回り始める。