0:4 支局長の頼み
そうして今に至る
ただ、現在は、その時とは違いフードを被っておらず、彼らの風貌を見る事が出来た。アルトリウスは、50代半ばぐらいの首の所で切り揃えた金髪に空色の慧眼を携え、また、その身体は巨躯でいて尚且つ引き締まっており、その佇まいは歴戦の猛者を彷彿とさせる。もう一人はというとやはり今朝会った女性だった。ただその容姿は、出会った時とは大きく異なっていた。
出会った当初はフードを被っており良く分からなかったが、腰まで伸びる艶やかな白銀の髪や深紅の瞳は彼女の高貴さをより引き立て、その体つきも出る所は出ていて尚且つ引っ込む所は引っ込んいるという世の中の女性が羨むほど整っており、将来は絶世の美女になる事が容易に想像できた。また、彼女が他者に与える印象は儚げながらもありながら何処か凛としているといったものだ。
そして、二人から溢れ出る気品の良さやカールス支局長との関係性からユーグはやはり彼らが大貴族に連なる人達という確信した。
「ユーグ君、お待たせしました。こちらの二方があなたに護衛していただきたい方のアルトリウス様とそのアルトリウス様の娘でおられるクレア様です。」
「今朝はありがとう。おかげで旧友に会う事が出来たよ」
「また、お会いしましたねユーグさん。今朝は本当にありがとうございました」
「おや、もうすでにお会いになっていたのですか?」
「はい、お父様や私が道に困っていたら助けて下さったのです」
「そうですか⋯⋯申し訳ありーー」
ユーグの周りではクレアが今朝どういった経緯でユーグと出会ったのかをカールス達に説明していたが、ユーグの耳には全く入ってこなかった。なぜならユーグはクレアに見惚れていたからである。
ユーグは、その彼女の美しさを表せる言葉を知らなかった。それほどまでに美しかった。
ユーグとて男だ。街中で美しい女性や可憐な人がいたならその人を見るだろう。しかし、見るとしてもほんの数秒で、見惚れるという事は無い。しかしユーグはこの時、確かにクレアに見とれていた。
そんなユーグを周囲は不審に思い始める。それはそうだろう。ユーグは、今朝の御礼を述べているクレア達に対してユーグは終始、無言でただクレアを見つめていたからだ。アボットが何度かユーグに声を掛けると驚いた表情をアボットに向けた。
「ずっとクレア様を見てどうした?そんなに人を凝視するもんじゃないぞ。クレア様も恥ずかしがっているではないか」
そういわれて再びクレアに視線を向けると頬を赤く染め恥ずかしそうにしていた。
「そんなに見つめないでください。さすがに恥ずかしいです」
「失礼しました。ただその⋯⋯いや、何でもないです」
さすがに見惚れてましたなんて言えるわけもなくユーグは笑って誤魔化した。何とも言えない空気が辺りを満ち始めた頃、カールス支局長が咳払いをした。
「さて、ユーグ君、君に頼みたいことがあってこちらに来ていただきました」
「はい、アボット隊長からそのように聞いております。それで、頼み事とは何でしょうか?」
「はいそれはですね。君にこの御二人を護衛して欲しいのです」
ユーグが、この頼み事が全ての始まりだと気づくのはまだ先の話である。