0:3 回想
彼らとの出会いは、今日の早朝まで遡る。
ユーグが早朝の自主トレーニングでランニングをしていると、街の入り口に男女の姿が見えた。気になって近づいてみると何やら困った様子で街の案内版と手元を見比べている。見かねたユーグはその二人に近づきそっと声を掛けた。
「何かお困りですか?」
普通の人なら突然、背後から声を掛けられたならビクッとなるものだが、その老人は、まるでユーグが声を掛けてくるのが分かっていたかのようにゆっくりとユーグの方へと振り向いた。
その老人や連れの女性は灰色のローブを羽織っており全体の風貌は不明だった。ただ男性の空色の瞳と女性の深紅の瞳が対称的だったのが印象的で覚えていたのだ。
「実は、この都市にいる旧友に会いに来たのだが、どこに住んでいるのか分からくて途方に暮れていてね。住んでいる所は知っているんだが、この案内板の何処なのかが分からないのだよ」
「そうですか、もしかしたら場所が分かるかもしれないので、その人が住んでいる場所を教えてくれませんか?」
「この住所なんだが⋯⋯」
そう言ってユーグに手帳を見せる男性。見せてもらったユーグは、その手帳に書かれている住所が何処なのかすぐに分かった。
「この住所は、文官用の宿舎ですね。もし、よろしければご案内しますがどうしますか?」
「そうだね、お願いするよ。⋯⋯っと君の名は?」
「あっ、申し遅れました。自分は、ユーグと申します」
「私は、アルトリウス。この娘の父親です」
「私は、クレアです。どうかよろしくお願いしますユーグさん」
そう言って深々と頭を下げた。
それから、二人をその宿舎までユーグは案内した。
宿舎の入り口でユーグはアルトリウスとクレアと対面していた。
「ここまでで大丈夫だよ。おかげで、無事に目的地まで着くことが出来たよ。本当にありがとう」
「私からも御礼を申し上げます。本当にありがとうございました。この御礼はいつか必ず返させていただきます」
「顔を上げてください。困っている人がいたら助けるのは当たり前ですから。それでは自分はここで失礼させていただきます」
そう言ってクレア達と別れ、しばらくすると、都市の中央に設置された塔の時鐘が鳴り響いた。それによると、訓練開始まであと15分であり、それは、ここから演習場までは歩いても十分間に合う時間だった。ユーグは、ゆっくりと歩きだした。