2話 -魔法-
エリーナが一通り掃除を終え、城の方へ戻っていった後。
俺は彼女が持ってきてくれた朝ご飯を食べていた。
この国の主食はパンらしい。
温かい野菜スープと一緒にちぎって食べていく。
あとは野菜と柔らかい肉炒めに、野菜たっぷりの小鉢に野菜の・・・
・・・介護食??
多分俺の健康を気遣ってくれているのだろう。エリーナは優しい。
それに、料理が温かい。
下にキッチンがあるのだろうか、それとも保温出来る魔法とかか?
・・・この部屋は鍵が掛かってるため出れない、俺には分からないことだらけだ。
ごちそうさまでしたと両手を揃えて深くお辞儀する。
全て平らげた後の食器を重ねて置き、俺は部屋の散策をすることにした。
窓から外を覗き込む。
とりあえず、この幽閉から脱出したいな。
自分一人で生きれるようになりたいし、エリーナにも沢山迷惑を掛けてしまった。
早く、独り立ちして、父親の手を煩わせないようにしたい。
俺が今住んでいるところは、レンガで出来た塔の最上階だ。
階と言っても他に部屋があるのか分からないが。
落ちたら最悪死ぬんじゃないかという、高いところに住んでいる。
高さ的に、ここから降りるのは無理だろう。
「・・・この景色は好きだけどな」
目の前に広がる青空、下は森で囲まれている。
なんだか懐かしい景色だ。よくこういう樹海の上で訓練したりもしてたな。
前と違うのは、機体の中じゃないこと。
ここの世界に飛行機はないのだろうか。
折角両手両足が自由に動くようになったんだ、飛びたい。
しかし多分、いや、絶対無いだろう。
俺だったら、鉄の塊で空を飛ぼうなんて考え付かない。
・・・そもそも、飛ぶなんて魔法で出来るだろうしなぁ。
この世界の魔法は生まれた時から決まっており、種類は8つある。
1つは火魔法でその名の通り火が出せたりするらしい。
2つは水魔法、これもそのまんまだ。
3つは木魔法で、何もないところに木を生やしたり出来るそうだ。回復魔法は木魔法らしい。
4つは土魔法、土を操ることが出来るらしい。前衛で盾になることが多い。
5つは雷魔法らしく、静電気から嵐まで作り出せるという。
6つは風魔法、強風を起こす事も出来るらしい。空を飛ぶのだったらこの魔法かも。
この6つが代表的な魔法で、普通の人達が使える魔法。
残りの2つ・・・それは光と闇。
光魔法は魔族などの弱点で、付加魔法・・・ようはエンチャントとしても使える優れ魔法。
闇魔法は人間などの弱点で、こちらもエンチャントとして使える魔法。
この2つのどちらかを持つ人間や魔族は極稀である。
・・・と、本に書いてあった。
俺は水と木だったな。
エリーナも同じ属性だと知ったときは、どんなに2人で大喜びしたか。
まぁ、教えて貰えたのは水魔法だけだったけど・・・。
木の魔法は木を生やさせることも出来る。
その魔法を使えば、この塔から抜け出す事など容易いのだ。
・・・魔法の使い方は、精霊にお願いするんだっけ?
喉乾いたし、久しぶりにやってみよう。
息をしっかり吸ってから口を開く。
「・・・水を司る森の使者達よ、我に力を授けたまえ。ウォーター」
エリーナに教えて貰ったとおりの言葉を口にすれば、どこからか水が出てコップに注がれていく。
・・・詠唱恥ずかしいな。
ちょっと、じじいにはまだ早いような気がする。
詠唱しないで済む方法ないのか・・・。
力を貸してくれる精霊というのは、目に見えないだけでそこら中に居るのだとか。
森の中だと木魔法の精霊が多く、水が近くにあると水魔法の精霊が多くなる。
環境も大事だと本に書いてあった。
その精霊に協力してもらうには、やはり声に出さないといけない。
「詠唱しなくちゃ駄目か~・・・」
何か良い方法は・・・と、魔法の事が書かれている本を引っ張り出してくる。
口に出さないで精霊に伝えられる魔法があればな・・・。
要は以心伝心出来るって感じの・・・。
ペラペラとページを捲っては本を閉じ、他の本を見てみる。
火の魔法にはない、水の魔法にも、雷の魔法にも、土や風の魔法にも無い。
木の魔法の本は・・・エリーナが持ってきてくれないので探すことは不可能である。
一度丸めていた背中を正してから、作業に戻った。
そして見つけた、光魔法の本。
・・・これしかないか。
開いたページには、魔法の名前がずらりと並んでいる。
俺は説明文と、魔法名称を見た。
『妖精女王の祝福』
・この魔法は精霊と心を通わせる力を、妖精女王から授かることが出来ると言われている。この魔法が発動されることで、魔族からの攻撃を半減することが出来る。また、撃退も可能。
・・・妖精の女王から力貰うとか恐れ多すぎてやる気になれない。
そもそも俺光の属性ないから、光の魔法なんて出来ないんだけども。
・なおこの魔法を数百年間、使用出来た者はいない。
「光魔法以前の問題だったな!!」
・・・しかし、やってみるだけやってみよう。
詠唱の欄に目を通し、読み上げようとする。
字はくすんでいて全部は読めないが、まぁ繋ぎ方でなんとかなるだろ。
一度深呼吸してから、口を開く。
「・・・偉大なる妖精女王よ、その歌声で野原に花を、鐘の音で花を祝福したまえ。西の園に降り立ち、我が身に祝福を与えたまえ」
次の瞬間、窓から強い風が入ってきた。
せ、成功か!?と、一瞬思ったが、その後には何も起きない。
ただの強い風だったようだ。
俺には光の属性がないしな、そりゃそうだろう。
それに繋ぎ方が違う可能性だってある、簡単にできたら苦労しない。
まぁ、俺が恥ずかしいの我慢して、詠唱すればいいだけの話しなんだけどな・・・。
本をそのままにベットへ寝っ転がる。
・・・さっき入ってきた風の影響か。
部屋の空気が、やけに澄んでいた。
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「弓を教えて欲しい・・・ですか?」
「あぁ。もしもの時、自分の身は自分で守りたいんだ」
少し遅い時間に昼ご飯を持ってきてくれたエリーナにお願いしてみる。
エリーナは一瞬驚いてから、すぐさま満面の笑みを浮かべた。
「わかりました!明日にでもやりましょう!」
「え?いや、兵の指導が終わってからでも」
「いいのです!お嬢様の為なら、エリーナはなんでも致します!!」
そう言って胸を片手で叩くエリーナ。
・・・まぁ、早く覚えられることはいいことだしな。
「ありがとう、エリーナ」
「っ・・・お嬢様、立派になられてええええ!!!」
泣き出してしまうエリーナに戸惑う。
そ、そこまで泣くことなのか?
確かに子供の成長は嬉しい、特に中学校の卒業式なんて・・・。
・・・泣いてたな、うん。
あれはハンカチ一つじゃ足りないぐらいだった。
とりあえず、近くにあったタオルをエリーナに差し出す。
エリーナの目から、更に涙が溢れた
「ありがどうございばず!!ありがどうございばず!!」
「お、おう・・・」
それからしばらくして、エリーナは泣きやんだ。
かれこれ10分くらい泣いていたか・・・?
水分が残っているか気になるぐらいの号泣っぷりだった。
ふと、エリーナの視線が下にずれる。
「?・・・お嬢様、この本は?」
「ん?・・・光の魔法の本だよ。妖精女王について調べてた」
「っ!ほう、我らが女王に!!」
我らが女王?
そう首を傾げると、エリーナは自慢げに語り出した。
なんでも、妖精女王はエルフの国の頂点に君臨する方だったらしい。
「今、魔力を失い王座を空けていらっしゃいますが。それはそれは美しく!魔族とは思えない金色の髪、そして遠くを見据える緑色の双眼が凛々しくて!!」
「へぇ・・・妖精女王って魔族なのか」
「えぇ!ですが、あの方は優しかった・・・」
妖精女王は魔族であるにも関わらず、魔族と敵対する妖精であるエルフを危機から救ったという伝承があるらしい。
本来敵であるエルフと魔族。
しかし、その概念を捨て助けてくれた彼女を、エルフの民は妖精女王として向かい入れた。
魔族である彼女自身も、何故か光魔法が得意だったそうで。
2つ返事で妖精女王となってくれたんだと。
「しかし、根本的に女王は魔族です。長年エルフの様な光の民に囲まれ、女王は・・・」
「・・・魔力を失っていった、と」
「はい」
そこで妖精女王のしたことが、人間の国と同盟を築くことだった。
その同盟は、妖精女王が退いた直後に結ばれたらしい。
「ですが、王座を空けていらっしゃる今でも!我々の女王はあの方です!!」
「そっか・・・。何年前にいなくなったんだ?」
「私が生まれてすぐですから・・・200年ほど前ですね」
「!?」
え!?エリーナってそんなに歳行ってたのか!?
エルフの寿命は長いと聞いたことはあるけれど・・・。それにしたって長いな・・・。
「・・・レオお嬢様も、妖精女王のように、優しい女性に育ってくださいね」
「・・・うん、努力はするよ」
俺は新しく妖精女王の伝承を記憶に入れた後。
少し冷めてしまった昼食へ「いただきます」と手を合わせた。
「あ、そういえばですね」
「ん?・・・どうした?エリーナ」
「妖精女王は、友達が欲しかったそうです」
レオお嬢様なら、なれるかもしれませんね。