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アクト・オブ・ヒーロイズム  作者: こま
異世界から来た少女
4/40

女の子と共同生活!


 あれからヨカとともに過ごし3ヶ月が過ぎようとしていた。言葉をしゃべれない彼女を1人にするわけにもいかず、アクタは常にヨカと行動を共にしていた。もちろん犬耳と尻尾のはえた外見で出かけてしまうと大騒ぎになるので女性用の防寒用フード付きマントをなけなしのお金で購入し、ヨカには常にそれをかぶってもらうことにした。


 2人は護衛の依頼や配送の仕事、時には新たな依頼人を求めて場所を移動し郊外の町や村を転々としていた。大都市のほうが稼ぎは良いのだが、そういう場所には駐在警備隊がいる。フードで全身をまるっと覆っているヨカは怪しいやつとして警備隊に目を付けられるようになったため厄介なことになる前に足早にベルンを後にしたのだった。


 アクタの仕事は危険を伴う仕事や力仕事が多いが“働かざる者食うべからず”である。主に比較的軽いものの荷物運びやアクタのかばん持ちをさせていた。意外にも農作物を荒らすため、害獣と呼ばれているウルフやイノブー退治の依頼時には彼女も戦闘に加わった。やはり、戦闘にはかなり慣れているようで護身用に持たせたナイフを慣れた手つきで扱っている。


 そしてヨカは頭がよかった。言葉のすべてを理解しているわけではないのだがアクタの行動を観察し今何をしているのかをよく理解し仕事の手伝いをした。言葉の吸収が早く、アクタと依頼人との会話から教えていない言葉まで学び自分の中に取り込んだ。そして誰かに質問する言葉を覚えると積極的に気になったことをアクタに聞くようになった。その質問攻めに面倒見のいいアクタでもうんざりしてしまうほどだ。その成果もありたった一ヶ月でアクタが席をはずしているときでも依頼人との世間話ができるようになるほどの上達っぷりである。- めったに人間と交流を持とうとしないが……


 アクタとヨカは今酪農の町ムーハに滞在していた。ムーハはかなり田舎に位置している。一番近い位置にある近隣の町、ユンへ行くにも丸3日はかかるほどだ。もとは雑木林の広がる土地であったが、広範囲にわたり少しずつ木を切り倒し開拓していき見晴らしのいい広大な土地を作った。そこで牛や羊を放牧、またニワトリを飼育し牧場を営んでいる。ムーハのチーズやバターは質が良く高級品で物持ちがいいため大都市で高く売れる。そのため田舎であるとはいえ裕福な人が多くそれなりに活気もある。

 

 駐在警備隊は基本的に5大都市にしかまだ在駐していないためムーハにはいない。二人分の生活費を稼がなければならないアクタにとっては荒稼ぎにもってこいの場所だった。


 「ふぅ―――」


 アクタはチーズがずっしりと詰め込まれた最後の1箱を荷馬車に置いた。あたりを見渡しヨカの姿を探す。


 「俺の荷物持ってここでまってろーって言ったのにどこ行きやがったんだ、あいつ……」


 首にかけたタオルで汗をぬぐった。水筒を開けすっかりぬるくなった水で喉を潤す。すると荷馬車が置かれている倉庫から少し離れた位置にある隣の倉庫から牛乳の入った乳瓶を持ったヨカがでてきた。


 「わわ、あいついつの間に!」


 慌てて乳瓶を運んでいるヨカに駆け寄る。右にふらふら、左にふらふらと危なっかしい。ヨカが運んでいる乳瓶は大中小あるうちの中瓶だ。内容量は10キロある。女の子が運ぶには重すぎるものだろう。


 「ヨカ! それは俺が運んでおくから、あっちの5キロの方の小瓶を3つ運んでくれ。」


 すると荷物を奪われたヨカは少しムスっとし小声で不満を口にした。


 「アクタ、私人間じゃないの知ってる。だけど人間扱いする! それは嫌だ。これぐらいの荷物、大丈夫。」

 

 アクタからすれば人間扱いではなく女の子扱いなのだが。


 「だからこれは人間扱いじゃなくてアレ扱いだっつの」

 

 少し視線をヨカから外し、ヨカから奪い取った乳瓶を持ち直す。


 「も~! いつもいう! アレなに! どういう意味!?」

 「あ~アレはアレだ。ハイ! 日が暮れる前に終わらせなきゃならねぇんだ! 運ぶ運ぶ!」


 そういってアクタはその場を離れようとしたとき。第3者の野太い笑い声が聞こえてきた。


「ハハハハハ。アクタにヨカちゃんお疲れさん! 日暮れまであと少しだが終わりそうか?」


 声の主はまさに今こなしている真最中の仕事の依頼人バルトだった。どうやら自分達がサボっていないか様子を見に来たらしい。


 「バルトさん! ハイ! あとはもう乳瓶を詰め込めば終わりなので余裕で間に合うっス!」 


 アクタはとっさに営業スマイルを作りだす。ヨカの方をチラリと盗み見ると、バルトさんに軽くお辞儀をしたあと乳瓶の置かれている倉庫に歩いて行った。その後ろ姿をみて軽くため息をつく。


 「君たちほんとに仲が良いねぇ! ヨカちゃんはいろいろと大変だろうが、アクタ君も恥ずかしがらずにもっと積極的にいけばいいんだよ~。俺が若いときなんてね~」


 また始まった。アクタはビジネススマイルからげんなりとした顔になる。この街に着て5日、バルトさんからの仕事を請け負ってもう2日目になるが、彼の若いころの武勇伝が1度始まると長い。

 

 昨晩はバルトさんが丹精込めて作り上げた自慢のチーズやバターをふんだんに使用した奥様お手製による料理を御馳走してもらった。その時始まった、若い時にはモテただのウルフの大群を一人で退治しただのはちまきウサギに勝負を仕掛けられただの……、昔の武勇伝をたっぷりと聞かされたおかげ様で、俺は寝不足である。- ヨカは早々に宿に戻っていたのでこれを間逃れた― これでは終わる仕事も終わらなくなる。


 「あーバルトさん、俺この乳瓶を運ばなきゃならないからそのお話はまたの機会に」


苦笑いを浮かべつつやんわりと逃げ道を探す。


 「おぉすまんすまん、そうだったなぁ。俺の嫁が料理をうまそうに食べるアクタ君のことをえらく気に入ってね。今晩も御馳走してあげるから仕事が終わったら報告もかねてうちへ来なさい。続きはその時に話すとしよう。もちろんヨカちゃんも一緒にな」

 

 そういって高らかに野太い笑い声を響かせながらバイトさんは去って行った。どうやら俺は今日もゆっくりと眠ることができないらしい。深くため息をついた。


 ちなみにヨカが大変というのは、ヨカはフードを常にかぶっており決してそのフードをとることがない。人前でも室内でも食事中でさえフードを脱がないので、怪しまれてしまうことが多い。面倒なことになる前にいろいろ言い訳を適当にしゃべっているのだ。バルトさん達には、


「過去に顔にやけどを負いそれを人前にさらしたくないから」


 と嘘をついている。これがなかなか優秀で、ヨカのそっけない態度にも同情の目が送られとがめられることがない。


 それとバルトさんは勘違いをしているがヨカと自分は何もないのだ。ただ、同年代の女の子と一緒に過ごす機会が今までになくどう扱っていいかわからない。先ほどのアレも気恥ずかしいというか、照れというか……あぁこんなことを考えている自分がもうむずがゆくなる。

 

 「ふぅー」


 大きくゆっくりと深呼吸をして気を取り直して仕事に集中する。大中小あわせて乳瓶を後10本運んでしまえば今日の仕事は終わりだ。明日はいよいよ酪農品を届けに隣町のユンへと旅立つ。


 ユンでは月に3回ムーハの酪農品市場を開催している。そのためムーハの良質な酪農品を仕入れようと沢山の商人達や近隣村町の人々が市場を見にやってくる。商人たちは2,3日の間滞在するのだからと肉や野菜を仕入れ酪農市場に合わせて露店をひらく。そのためユンにはさまざまな新鮮な食材がたくさん出そろう食の町として有名だ。

 

 エルメール国をあちこち旅をしてきたがユンに行くのは初めてだ。美味しい肉がいっぱいあるだろうか。ハンバーグにオムライス、ユン名物彩り丼なんていうのもあるらしい。頭の中の食べ物ことにいっぱいになりよだれが垂れそうになる。


 「顔、気持ち悪い。なにしてる」


 いつの間にか戻ってきたヨカの声で現実に引き戻された。両手でしっかりと小乳瓶を持ち上げている。二人で並んで話をしながら荷馬車の方へ歩きだす。


 「お! ヨカも楽しみだよな! 明日のユン行き! 考えただけで腹が減っちまってさー」

 「食べ物楽しみ、けど盗賊、あぶない、油断よくない」


 この依頼の最大の目的はそれだった。ムーハからユンまでのいく道のりは雑木林の中を通る。この雑木林にどうやら最近盗賊団が住み着いたようなのだ。ユンは商人でにぎわう町だ。これまでにも盗賊に狙われることはあった。ムーハの人々は腕っ節が強い人が多くそんじょそこらの盗賊団には負けない強さを持っていた。それにムーハの人々を中心にユンに集まった男たちが団結し、圧倒的人数差で盗賊団を打ち負かしてきたのだ。


 しかし前回行われた市場で事件は起こった。20人ほどいる盗賊団に襲われたのだが、そのうち2人が槍と弓を扱う魔術師だったのだ。市場は逃げ惑う人々で大混乱陥った。床に散乱する野菜や果物。破壊される荷馬車や家。命を落とした人も多くいると聞いた。


 相手の魔力量にもよるがたとえムーハの人が強く男たちが集まろうと、よほど高級防具が揃っているか、相手の魔術師の魔力切れでもなければ一般のまして酪農家や農家、商人では魔術師2人に勝つことは難しいだろう。


 「わーかってるよ。ま、なんとかなるって!」


 そうヨカに笑いかけながら荷台に乳瓶を置く。ヨカは何か言いたそうにしていたが、結局何も言わずに次の乳瓶を運ぶべく足早に倉庫へ戻っていく。


 「おーい! これが終わったらバイトさん家に行くらなぁ―! 晩飯御馳走してくれるってー!」


 離れていくヨカの背中に声をかけた。ヨカは歩みを止めることなく了承したと片手をあげ合図する。アクタもまた倉庫に向かって歩き出した。


 うじうじ考えても仕方がない。勝つか、負けるかのどちらかしかないのだ。引き受けた以上自分は全力をだすのみだ。




 

 まだ日出前の時刻。アクタはヨカに起こされた。

 

 「くぁーーーー。ねむ、い」

 

 大きくあくびをし、目にたまった涙をこすり拭う。昨日は晩御飯をごちそうになったことを対価にバルトさんの自慢話や酪農の話、バルトさんの奥様との馴れ初めなど尽きることがない話題を聞かされた続けた。結局宿に帰ってくると深夜1時をまわっていた。

 

 「あと少し。出発。はやく準備」

 

 ヨカに急かされ起き上がったものの、布団からはい出せない大分暖かくなってきたとはいっても明け方はまだ冷え込む。隣を見ると犬耳を露わにしたヨカが腰に手をあて仁王立ちしている。ヨカが羨ましい。起床時間が何時でもいつも俺よりも先に起きている。一つの疑問がアクタの頭によぎった。そもそもヨカはちゃんと睡眠をとっているのだろうか。しかしそんな考えはヨカの声で拡散する。


 「もぅ! ぼーっとしない! ちゃっちゃか働きな! このナマケモノども!!」


 ヨカ……いったいどこでそんな言葉を覚えてきたのだ。大方ムーハのどこかのご家庭のおば様が発していたのだろうが、ヨカがいうとなんだかいかがわしい女王様にいわれているような感覚になる。

 

 「これは教育係としてはあとで訂正しとかないとな……」


 鼻を抑えながらしぶしぶベッドから立ち上がる。洗面台へ行き顔を洗う。冷たい水で頭と気を引き締めた。久しぶりの対人戦だ。


「やるぞ。さっさと片づけて報酬でユン名物彩り丼を食べる!!」


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